コロナで人気「移動コンビニ・スーパー」最新事情 ローソンは「都心の高齢者施設」の開拓に本腰

いまだコロナ禍にいる日本社会で、あるアナログな販売スタイルに注目が集まっている。ワゴン車などを利用した移動販売だ。ネットショッピング全盛期に、真逆とも言えるビジネスが全国で展開されている。背景には、高齢化や感染拡大による行動制限がある。その実態を探った。

百貨店の商品を売るバス

 北海道帯広市。十勝地方のほぼ中央に位置する人口16万5000人の都市で、同地方の中心地である。ビスケット菓子・マルセイバターサンドの六花亭の本社があることや、世界で唯一のばんえい競馬(重いそりを引いた馬による競走)のまちとしても有名だ。

 そんな北の大地で全国初のモビリティサービスが昨年12月から始まった。地元で路線バスを運行する十勝バスが、市内の1路線で店舗機能を備えた「マルシェバス」の運行を始めたのだ。これは経済産業省の地域新MaaS創出推進事業の実証実験として行われているもので、2021年12月から2022年2月まで続けられている。

 後方の座席を商品の運搬・販売用のスペースに改造したマルシェバス(定員29人)の運行は木曜日と日曜日の週2回。市内の藤丸百貨店の商品を中心に約300点を載せて、午前9時30分から11時まで帯広駅北多目的広場で販売。その後、帯広駅バスターミナルを出発して、12時前に「大空団地」がある終点・大空10丁目に到着。そして近隣のJA帯広かわにし大空支店駐車場で12時から14時まで販売タイム。14時過ぎ、いったん帯広駅に戻って折り返した後、16時から18時まで同駐車場で再度販売タイム。こんな流れで、車内での販売は1日3回だ(販売時間は時期によって多少異なる)。

 マルシェバス実証実験の目的について十勝バスの担当者に話を聞いた。

 「昭和40年代から建設された大空団地には最盛期には1万人以上が住んでいましたが、現在約4300人で、高齢化率は42%に達します。この地域の活性化が今回の実証実験の最大の目的で、団地住民の移動機会の創出、コミュニティづくりにつながればと考えています。それに付随して弊社の事業多角化、路線バスの新たな収入源確保の道を模索しています」

 居住者が減り高齢化が進む大空団地。近隣のスーパーは5年前に閉店し、現在は地元のコンビニが1軒あるぐらい。車を運転しない高齢者にとって日常の買い物が困難となっていた。そんな現状を打開するための取り組みである。

 8回運行したマルシェバスの12月の実績は、乗車人員71人、運賃収入1万7510円、来客数541人、販売額58万2767円だった。1回当たりの来客数は67.6人、販売額は7万2845円。

 経産省の資料によると、ビジネスモデルの基本は、商品販売の売り上げは店舗運営事業者が得る。店舗運営事業者は十勝バスに基本利用料金(車両使用料、ガソリン代、人件費など)を支払うほか、契約に応じて売上金額の数パーセントを支払うことになっている。今回の実証実験では、経産省からバスの改造代など約1500万円が支援された。

 これまでの結果をどう受け止め、今後の本運行にどうつなげるのか。

 「一定のニーズは確認できました。買い物場所が少ない地域のため、お客さまには好評をいただいています。販売場所での井戸端会議の光景もみられました。大雪の翌日に運行した際には、

 前日に〝明日は来てくれるのか〟というお問い合わせがあり、当日は〝こんなときだからこそ来てくれてありがたい〟というお言葉をいただきました。実証実験終了後に、運行オペレーションなどを再検討し、来年度以降(2022年4月以降)の本運行を目指したいと考えています」(十勝バスの担当者)

 販売商品の品揃え、販売時間帯、販売スタッフの数、販売方法、バスの改造コストなどオペレーションで見直すべき点は多々出てくるだろうが、利用客にとってはありがたいサービスであることに変わりない。帯広での本格運行が始まり、事業として継続できれば、やがて全国に広がる可能性がある。

 食品宅配の「オイシックス」などを運営するオイシックス・ラ・大地傘下で「移動スーパー」事業を営む「とくし丸」も事業拡大が続く。全国各地のスーパーと提携し、同社がサポートする「販売パートナー」が移動販売を行っている。2012年に徳島で創業、2016年にオイシックス・ラ・大地の子会社となり、創業者の住友達也氏は現在も取締役ファウンダーを務めている。

 とくし丸のビジネスの仕組みは、まず各地のスーパーと契約し、スーパー側は車両1台につき契約金50万円と月3万円のロイヤリティーをとくし丸に支払う。スーパーの商品をクルマで販売するのは、個人事業主の「販売パートナー」。彼らがスーパーと販売委託契約を結び、パートナーが自前で購入した車両(移動スーパー・とくし丸)で80代‐90代が中心の顧客のもとを週2回訪問するというものだ。

 最新の車両稼働状況は2021年12月末時点で948台。47都道府県で走っている。提携スーパー数は141社。顧客数は約14万人。1台当たりの販売商品数は約400品目、1200点。人気商品はお惣菜、青果、精肉、鮮魚などとなっている。1台当たりの平均日販は約10万円(2021年)で、販売パートナーの平均的な月収(手取り)は約36万円だという。

 今後の市場ニーズをどうとらえているのか。

 「高齢化に伴い買い物にお困りの高齢者は増えていますので、今後4000-5000台は稼働できると考えています。この先、社会が大きく変化していくなかで、健康不安をはじめさまざまなサポートを必要とする高齢者が増えていきます。現在も各地の自治体と見守り協定を締結していますが、今後、物販にとどまらず、どんなサービスが提供できるか考えていきたいですね」(とくし丸の広報担当者)

 独自のビジネスモデルで高齢化社会のニーズをいち早くつかみ、さらなる事業拡大につなげていくということか。

一方、コンビニは?

 スーパー各社が専門業者に委託しているのに対し、コンビニは自前主義を貫いている。最大手のセブンイレブンは「セブンあんしんお届け便」を109台稼働させている(2021年12月末現在)が、これを2025年には200台に倍増させる計画だ(スーパーのイトーヨーカドーはイトーヨーカドーとくし丸が現在75台、2025年末に100台の予定)。ローソンは移動販売サービスを実施している店舗は2021年12月末現在で122店、移動販売車54台、軽バンタイプ48台の合計102台となっている。

 サービスの現状はどうなっているのか、ローソンに話を聞いた。同社の場合、販売場所は、屋外の中山間地や高齢者施設での販売、屋内の高齢者施設、工場、学校などさまざま。屋外の販売では、4温度帯(常温・20度、5度、マイナス18度)で400種類の商品が陳列可能。最近は、自治体との連携で限界集落や買い物困難地区をカバーするケースよりも、高齢者向け施設などでの移動販売が急増している。

 「コロナ禍で高齢者を外に出したくない、買い物も施設内で完結させたいと望まれる高齢者施設が増えています」(ローソンのマイクロマーケット推進部の担当者)

 ユニークな事例もある。舞台は川崎市の高齢者施設。移動販売スタート時は1施設のみだったのが、実施後、他の施設からの要望が相次ぎ、現在は訪問先が18施設にまで増えた。ある施設では、移動販売時に川崎市を通じ地元商店が共同出店し、野菜や補聴器の販売まで行っているという。地域との共存スタイルだ。

圧倒的人気は「バナナ・牛乳・ヨーグルト」

 いったい、どんな商品が人気なのか。中山間地や団地などでは野菜や豆腐、生鮮品などスーパーに近い食材が人気。これは利用客が自ら料理をするために買い求めるためだ。一方、高齢者施設での人気商品はまったく異なる。

 「バナナ、牛乳、ヨーグルト、この3商品は圧倒的な支持を得ています。カラダにいいというイメージをお持ちなのでしょう。アイスクリームも根強い人気があります。高齢者施設では食事は提供されますので、おやつやスイーツ、お酒のツマミなどをお求めになる方が多いですね。あと、季節のイベントに応じた商品、節分であれば恵方巻、土用の丑の時期であればうな重などもご要望が多いですね」(前出の担当者)

 高齢者たちにとっては移動販売での買い物は、今では楽しみのイベントとなっている。欲しいものをメモしてくる人、販売員との会話を楽しむ人、欲しい商品のリクエストをする人、それぞれの人たちの目が輝いているという。利用客とのコミュニケーションが欠かせないから、初めて訪れたスタッフはなかなか相手にしてもらえない。同じ人が通い続けることが大事なのだ。

 コロナ禍の影響だけではないが、前年に比べ1店舗当たりの移動販売の売り上げは150%になったという。それだけ認知度が高まり、ニーズが増しているということだ。アイスクリームをはじめ、つまみ用のローストビーフなど冷凍食品の需要も高く、今年に入ってからは販売カーに搭載する冷凍庫を1.5倍のサイズに変更するといった動きも出てきている。

 買い物困難な地域の人々や高齢者施設の居住者らのココロをつかみつつある移動販売だが、ローソンはなぜ、委託販売でなく自前主義にこだわるのか。そして、今後の展開をどう考えているのか。担当者にぶつけてみた。

 「コンビニ経営の基本は店舗ですから、そこは大事にしていきたいですね。そして地域の情報はオーナーさんが一番詳しいわけですから、能動的にやっていただけるオーナーさんを応援しようというスタンスです。今後については、テーマは都心部です。杉並、世田谷、練馬など高齢者施設が多いのに、実施できていない地域をどうカバーするか。都心部は移動販売車を置ける駐車場をなかなか確保できないという事情があります。そこで、駐車場を必要としない移動販売のビジネスモデルを構築できないかどうか検討中です」(前出の担当者)

市場拡大で「サービスの進化」にも期待

 地域活性化と事業多角化のために移動販売サービスに乗り出した十勝バス、拡大する高齢者マーケットを睨みさらなる事業拡大を図るとくし丸、地域社会との共存のための模索を続けるローソン。

 団塊世代が後期高齢者となる2025年はすぐそこまで迫っている。その後も超高齢化社会は続き、2040年には高齢者(65歳以上)の比率が35%を超える。移動販売のマーケットがますます拡大していくなかで、今後もさまざまなサービス合戦が展開され、進化していくことになりそうだ。

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