新型コロナに感染した都内の20代女性が、症状を疑いながら山梨に帰省していたことがわかり、批判の嵐に晒された。ネットでは「もう逮捕しろ」といった書き込みが殺到し、当初は女性の行動歴を詳細に公表した県が「本人や家族に配慮してほしい」と異例の呼びかけを行なうという騒ぎになった。
こうしたやりすぎにも思えるバッシングが、各地で相次いでいる。
4月7日の緊急事態宣言以降の自主休業中に無観客ライブを配信していた東京・杉並区のダイニングバーに「次発見すれば警察に通報します」という匿名の張り紙が見つかるといった奇妙な事件が続発しているのだ。
自粛や休業要請を受け入れていないとみるや攻撃する人たちは「自粛警察」と呼ばれ、ウイルスとは別の“拡大”を見せている。顔の見えない“自警団”の標的になった人たちは言いようのない恐怖を感じている。
福井市内でライブハウスを営む田中哲夫さんもその一人。コロナ禍でツアーキャンセルが相次ぎ困っていたバンドを出演させたころから無言電話が増えたという。
「自宅の前にゴミやアダルト本が散乱していたこともありました。彼らは好き嫌いを自分たちの正義として振りかざしているように感じます。今後も音楽を愛する人たちのために活動すべきか自粛すべきかで悩んでいます……」
休業中にもかかわらず店先に「コドモアツメルナ オミセシメロ」と張り紙された千葉県の駄菓子屋「まぼろし堂」の店主、村山保子さんはこう話す。
「赤い文字が恐ろしくて放火されるのではないかとぞっとしました。休業していることは近所の人には知られているので、誰が一体こんなことを……と不安です」
自粛警察の矛先は休業要請対象施設外にも向かっている。駐車場が満杯になったゴルフ場の様子がワイドショーで報じられるや、「営業するな」という苦情電話が殺到。5月1日には日本ゴルフ協会などが日本民間放送連盟に対し、報道の“自粛”を求める声明を公表した。
なんとも言えない“イヤ~な感じ”を生み出す自粛警察について、近現代史研究者の辻田真佐憲氏はこう指摘する。
「彼らは、不安に駆られたふつうの人たち。不安を助長するばかりのワイドショーやSNSから離れるデジタルデトックスも必要でしょう」
緊急事態宣言の延長が決まり、“イライラの種となる情報”からもソーシャルディスタンスが必要か。