コロナをきっかけに売れた商品、売れなくなった商品を見ていくと、意外な事情が明らかになってきた(写真:Graphs/PIXTA)
緊急事態宣言に伴う巣ごもりが本格化して1カ月。食料品や医薬品、化粧品など生活必需品の売れ筋は大きく変わった。
市場調査会社のインテージは、消費動向への新型コロナ禍の影響を示すデータとして、2月3日以降、品目別に売上金額の前年同期比の増減率を週単位で公表している。直近は4月27日公表の4月13~19日分だ。
ファミリー層の動向が大きく影響
増加率トップはうがい薬で、対前年比は359.1%。5位の殺菌消毒剤(228.3%)、13位の体温計(183.7%)、19位のマスク(161.2%)なども含め、ドラッグストア店頭ではすでに3月の段階で品薄もしくは品切れで入手が困難になっていたことを考えると、商品がもっと供給されていれば、伸び率はもっと上がっただろう。
ランキング上位に顔をそろえたのは、子どもが家にいることで必要量が激増し、なおかつ店頭で買える品目だ。
お菓子作りに欠かせないバニラエッセンスなどのエッセンス類が2位(251.9%)、ホットケーキミックスや唐揚げ粉などのプレミックス製品が3位(245.5%)、小麦粉が6位(210.8%)、ホイップクリームが7位(205.6%)に入った。ほかにも鍋つゆなどの鍋補完材が11位(189.0%)、メープルシロップなどのシロップ類が14位(176.3%)、スパゲティが15位(173.0%)、パスタソースが16位(166.4%)といった具合だ。
飲食店が夜8時以降のアルコール類提供を自粛している影響からか、25位にスピリッツ・リキュール類が登場。前年比で155.6%となっている。
一方、減少率トップは鎮暈剤(ちんうんざい)。要は酔い止め薬だ。前年同期比で22.2%と、8割近い減少である。3月1週目で前年比5割を切り、4月に入って下落幅が拡大した。
平時なら子ども連れで長時間乗り物に乗る機会が増える、大型連休中のデータが出てくれば、さらに下落幅は拡大するのだろう。マイカーでのレジャーや帰省自粛ゆえか、眠気防止剤も20位(60.0%)に入っている。
このほか、口紅(2位、27.5%)、日焼け止め(3位、33.3%)、ほほべに(7位、46.3%)、ファンデーション(8位、49.0%)など、女性の外出が減ると使用頻度が極端に落ちるものが上位を占めた。
19位(59.8%)に鼻炎治療薬が入っているのは、今春は花粉の飛散量が東京で昨年の4割、大阪で3割(いずれも気象庁公表値)と少なかったことが影響しているのだろう。マスクが極端に不足する中で迎えた花粉シーズンだっただけに、花粉症の人にとっては不幸中の幸いだったといえる。
興味深いのは4位の強心剤である。4月13~19日では前年比で40.7%だが、2月1週目の時点ですでに前年比73.6%と、3割近く減少していた。時期からすると、外出自粛を原因とみるには無理がある。
強心剤というと、循環器系の疾患を抱える人が持ち歩く西洋薬、それも処方薬を連想しがちだが、この調査の集計対象は市販薬。売り上げが大きく落ちているのは、実は漢方薬なのだ。
市販の漢方薬が売れなくなったワケ
漢方薬メーカーの業界団体である日本漢方生薬製剤協会のホームページには、日本の漢方医学は、奈良時代以降に日本に伝来した「中国起源の伝統医学を基に、日本で独自の発展を遂げた伝統医学」とある。
日本の漢方薬は品質への信頼度が高く、世界シェアは8割とも9割とも言われている。本家本元でありながら数%にとどまる中国を大きく凌ぐ数値だ。
中国人にも人気が高く、処方箋なしで買える漢方の市販薬は、訪日中国人観光客が爆買いしていく製品の1つだった。
厚生労働省が毎年公表している「薬事工業生産動態統計」で、過去25年間の漢方製剤等(漢方製剤+生薬+その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品)のうち、一般用の生産金額を集計したものが下のグラフである。
2019年度分の公表は今年夏まで待たねばならないので、集計できたのは公表済みの2018年度分まで。2018年度の漢方製剤等の生産金額は1927億円で、このうち一般用はわずか404億円にすぎない。それでも、2014年度から2018年度までの5年間での伸び率は66%。医薬品全体ではおおむね横ばいであるのに対し、驚異的な伸び率だ。
公表済みの月次実績は4月17日公表の今年1月分が直近のもの。この時点では、医療用も含めた生産金額は前年同期比で3割増だった。訪日中国人観光客の爆買い需要喪失の影響が生産金額に本格的に表れるのは、これからだろう。