長引く新型コロナウイルスの流行を受け、オンライン旅行の人気が定着してきた。画面越しでも予想以上の満足感が得られると好評だ。事業者はオンラインならではのサービスに力を入れ、コロナ後の観光需要を喚起したい考えだ。
(生活文化部・浅井哲朗)
宮城県柴田町に住む主婦のミエコさん(48)=仮名=は2020年秋、ツイッターで参加者募集の投稿を見つけ、オンライン海外旅行に初挑戦。世界遺産のペルー・クスコの街並みを堪能した。すっかりはまり、ヨーロッパやアジアを中心に20回近く経験した。
旅行経験はあまりなく、平日はパートと家事に忙しいミエコさん。だが「自分へのご褒美」として、週末にノートパソコンを開いて1時間半ほど、数十人規模の「ツアー」に参加する。
「地元の隠れた名所を、現地ガイドが面白く紹介してくれるのがうれしい。いつか本当に、台湾で思い切りスイーツを食べたい」と話す。
オンラインによる海外旅行は、ビデオ会議アプリを使い、カメラを手にした現地の日本人や外国人のガイドが町歩きしながら、名所を紹介するのが一般的。1、2時間ほどで料金は数百円から数千円台。サービスによっては無料のツアーもある。
エイチ・アイ・エス(HIS)は20年6月、大手旅行会社でいち早く商品化に踏み切った。利用者は8万人を超え、今年中に30万人達成を目指すという。
5カ国を90分で回る「世界一周」や、土地の土産物店でガイドに物産を買ってもらい郵送してもらう買い物ツアーなど、常時1300のメニューを用意する。
「いつか訪れてみたい旅行先を下見する使い方もできる。コロナ後も継続したい」と広報担当者。冷え切った旅行ニーズの復活を目指す。
オンライン旅行を専門に手掛ける会社も登場した。Torch(トーチ、東京)は20年4月から、50カ国のガイドと結ぶサイト「トラベルアットホーム」を展開する。
30、40代の「女子会」や子どもの学習目的など、幅広く利用されているという。観光立国に加え、ウガンダやミャンマーなどのツアーも企画。取締役の嶋頼彦さんは「有名な観光地とはひと味違う旅の魅力を提供したい」と話す。
東北でもコロナ禍で大きな打撃を受けた観光事業者が、オンラインに活路を見いだしている。
全国新酒鑑評会の金賞受賞数で8回連続「日本一」の福島県。郡山市で飲食店を展開するエフライフは20年5月、「オンライン酒の会」を始めた。
毎月1カ所、県内の酒蔵と結び、杜氏(とうじ)らとのトークライブを実施。参加者には事前に日本酒のほか、蔵一推しのさかなが郵送される。そのグレードによって料金は3500~1万円に設定されている。全国の左党40人ほどとつながる。
広報担当の野坂実央さんは「『家飲み』需要への対応はもちろんだが、何より福島の日本酒を愛するファンとの交流を維持したい」と話す。
記者も体験 バルセロナ90分散策
記者もオンライン旅行を体験しようと、「トラベルアットホーム」のメニューから憧れのスペイン・バルセロナの旅を選んだ。
世界遺産「サグラダ・ファミリア教会」を巡る90分(4500円)。ホームページの専用フォームで希望日時と行きたい場所を伝え、申し込みから4日後、バルセロナとつながった。
「初めまして」。あいさつもそこそこに、現地に住む日本人の男性ガイドが1対1で案内を始めた。間もなく、情熱の国にそびえ立つガウディの最高建築が現れた。迫力の外観がノートパソコンの画面からも伝わる。
約40分かけ、周辺からぐるり眺める。ファサード(建物の正面デザイン)に施されたイエス・キリストの彫刻も遠目に映し出してくれた。建設工事のため解体が予定される周辺アパートには、抗議の横断幕もあった。
サッカーファンの記者は「世界一」のクラブ、FCバルセロナの本拠地カンプノウ訪問も事前に要望した。
ガイドさんの移動でしばし中断。到着した巨大なスタジアムの壁面には、無数のサポーターの写真をコラージュして作ったメッシらスター選手の勇姿が浮かぶ。メーンスポンサー「Rakuten」(楽天)の文字も誇らしげだ。30分ほど周辺を散策してもらい、終了となった。
抜けるようなスペインの青空が印象深かった。ガイドさんの明るく丁寧な説明で十分、旅行気分に浸れた。