下水中の新型コロナウイルス濃度から感染状況をつかむ調査の結果を公表するかどうかで、自治体の判断が分かれている。国の2022年度の実証事業には、仙台市や秋田県など26自治体が参加。得られたデータは「国の方針が定まっていない」として公表を控える自治体が多いが、注意喚起の情報として住民に周知し、高い関心を集めるケースもある。(報道部・片山佐和子)
「国の指針ない」仙台市など慎重 注意喚起へ積極的に発信する自治体も
政府は21年度、調査の実用化を見据えた下水サーベイランス(監視体制)推進計画を策定。実証事業では8府県18市、大学、研究機関がそれぞれ組んだ計20の共同体が感染状況の把握や予測、データ利用の検討などに取り組んだ。
実証事業の報告書は「処理人口の多い下水中のウイルス濃度は、新規感染者数との相関が高い」と成果に言及。「下水データを使った住民への注意喚起は重要な活用策の一つ」と位置付けた。
だが、現時点では6割に当たる12共同体が「公表に関する国の指針がない」「まだ実証段階でデータの積み重ねが必要」と慎重な姿勢を取る。
仙台市は実証事業後も下水調査を続ける東北大研究グループに協力するものの、新規感染者数の予測値は研究グループが発表し、市は関与していない。市保健所は「調査は有用で情報発信はありがたいが、公的な活用には国の統一基準が欠かせない」と説明する。
秋田県は実証事業中のみ下水調査を実施。報告書では感染動向の把握に期待を示したが、活用の条件にデータの信頼性向上などを挙げた。
一方、石川県小松市は積極的に活用する。22年11月から毎週、ホームページ(HP)でウイルス量の推移を更新。無料通信アプリLINE(ライン)の公式アカウントでも配信し、必要に応じて市民に感染対策を呼びかける。
「専門家を交えて庁内で議論し、活用を決めた」と市上下水道管理課。市民の関心は高く、流行第8波の22年12月にはHP内のアクセス数が2位となった。
神奈川県や札幌市、兵庫県養父市もHPにウイルス量をそれぞれ載せる。神奈川県医療危機対策本部室は「定点把握は警報発令などの基準がなく、感染状況を判断しづらいため、下水データを補完情報と位置付けている」と指摘。公表については「研究段階のため参考扱いで国指針の対象外と考える」との立場だ。
東北大下水情報研究センター長の佐野大輔大学院教授(環境水質工学)の話 下水調査はウイルス濃度の増減から感染の現状を分析する方法が多いが、東北大では人数に換算した将来予測を重視している。定点把握は受診やPCR検査など患者や医療機関の動きが色濃く出るため、5類移行後は予測値と定点把握の推移に差が生じている(グラフ)。下水情報は感染状況の全体像を把握できる。対策に役立ててほしい。