普段あなたが利用していた店は、コロナ後も大丈夫か――。流通・小売業界ではコロナ禍の影響を受け再編、淘汰が進み、業界の寡占化を促すことが予想され始めている。コロナ禍の“後遺症”が長引けば、あなたがいつも使っている店や、その看板は残っていないかもしれないのだ。小売りの再編、集約が進んだその先に待っているのは価格が硬直化した、決して安くはない、非常に暮らしにくい世界の到来か。(流通ジャーナリスト 森山真二)
百貨店は 「負のスパイラル」状態
まず、再編によって店が残っていない、看板が変わっているという憂き目に遭遇しそうな小売り店舗の筆頭が百貨店だろう。
百貨店は今、「負のスパイラル」状態にあるといっていい。ご存じのように百貨店はインバウンド(訪日外国人)の増加の波に乗って、収益を拡大させてきた。大手百貨店の中には免税売上高比率は10%近くにも達しているところもある。多くの百貨店がインバウンドに依存してきた。
しかし、3月の大手百貨店の既存店売上高は惨憺たる状況だった。三越伊勢丹ホールディングスが前年同月比39.8%減、J・フロントリテイリング(大丸松坂屋百貨店)が同43.0%減、エイチ・ツー・オーリテイリング(阪急阪神百貨店)が同28.1%減、高島屋が同36・2%減。過去最大の落ち込みだ。
なかでも免税売上高は壊滅的だ。大丸松坂屋が同97%減、高島屋は同92.5%減とインバウンドの売り上げはほぼなくなっている。
そんなところに、運命共同体だった大手アパレルメーカーが赤字に沈み、店舗閉鎖や人員の削減というリストラを繰り広げている。
百貨店は主力商品だった衣料品でもうけるという構図をまったく描けないことに加え、インバウンドの激減に伴い、中国人観光客に人気だった化粧品や、ラグジュアリーブランドも落ち込んでいる。いわば売るものがない、売れるものがないという状態だ。
その上、新型コロナの感染拡大がとどめを刺そうとしている。非常事態宣言が出され、国とすったもんだのあげく、現在、デパ地下は営業を継続している百貨店があるものの、多くが営業自粛に踏み切っている。
4月以降の打撃は想像に難くないし、この先もコロナ騒動が終息するまでには長期間かかるとみられており、負のスパイラルに入った百貨店では「とても持たない店舗が増える」(ある百貨店関係者)といわれている。
地方にある大手百貨店の支店や地方の単独店の経営はとくに厳しくなりそうで「店を閉めざるを得ないところも出てくるだろう」(同)。
「そんなこと言ったってコロナが終息すればインバウンドだって戻ってくるでしょう」(40代会社員)という見方もあるようだが、終息後にインバウンド消費が従来のように日本に戻ることも、訪日外国人が以前ほど買い物をすることも少なくなるとみておいた方が賢明だろう。
それはインバウンド消費の大多数を占めていた中国人観光客の動向を見ても明らかだ。すでに中国では、EC(電子商取引)法の施行もあり、日本の百貨店で爆買いするようなことはなくなっている。百貨店の免税売上高も昨年下期あたりから漸減傾向にある。
この先もコロナの後遺症が続けば、気がついたらあなたが使っていた百貨店が、例えば商業ビルに姿を変えているという事態にもなりかねない。
もっとも、百貨店の場合、この先も淘汰が進み、大手に集約されたとしても商品の価格には何ら影響はないだろう。
アパレルにしてもラグジュアリーブランドや、化粧品にしても百貨店が価格決定権を喪失しているから何も変わらない。
もし、コロナ後、主力商品の価格で変化が起こるとすれば、アパレルだろう。ただし、到底、価格を上げることはできないから、価格をそのままに原価を下げ、百貨店側がもっと利益がとれるようにしていくとみられ、商品の“質”が問われてくると予想される。
ドラッグストア業界は再編の可能性 「低価格」のイメージも崩れる!?
コロナ後に急速に再編が進みそうなのが、ドラッグストア業界だ。「ドラッグストアって、今はマスクとトイレットペーパーで潤っているんじゃない」と思われる方も多いだろう。
事実、コロナの影響でマスクを買い求めるお客や外出自粛で食品などを買うといったこともあり「今まで(ドラッグストアに)来ていなかった消費者が結構、来ている」(ウエルシアホールディングスの池野隆光会長)という。
しかし、その一方で、実は大手の上位集中化が進み始めており、「生き残り」をかけた再編の火種はくすぶっている。
今年10月、マツモトキヨシHDがココカラファインと経営統合して業界トップに躍り出る。これを追う格好でツルハHDやウエルシアHD、さらにコスモス薬品が大量出店やM&A(企業の合併・買収)合戦を繰り広げている。
大手の中でもコスモス薬品以外は中堅、中小のドラッグストアチェーンを傘下に入れ規模を膨らませており、コロナ後はこうした動きが加速するのは確かだろう。
ドラッグストアの業界規模は7兆2744億円(18年度)だから大手は当面、マツキヨHD、ココカラファインの売上高1兆円を目指していく。
仮に市場は上位3社に集約されるとして、1社あたりの売上高は2兆5000億円程度、少なくても2兆円の規模が最終目標になるだろう。
現在、大手のウエルシアHDが同8682億円、ツルハHDが8200億円(2020年5月期見通し)、だから、この2社が組めば圧倒的なトップに躍り出て、マツキヨHD、ココカラ連合を圧倒的に上回ることができるし、中堅、中小のドラッグストアは、さらに大手の傘下入りを決断せざるを得ない、いわば業界再編の最終局面にあるといっていい。
コロナ後に再編が加速し、上位3社に集約されたら、今でこそ「価格が安い」というイメージがあるドラッグストアの価格帯も変わりそうだ。
これについては、総合スーパー(GMS)の前例がある。GMSはかつて“安売り王”がごろごろいた。ダイエーしかり、ジャスコ(現イオン)しかり、西友などもそうだった。
しかし、大規模小売店舗法という出店を規制する法律が敷かれ、競争がなくなり規模が拡大した途端、価格硬直性が生まれた。
「スーパーは安くない」といわれ、ユニクロの台頭やディスカウント店の台頭を許した。本部が巨大化し規模の利益を商品の質や価格に生かせなかったからだ。
今は価格競争バリバリのドラッグストア業界もコロナ後に集約が進み、競争がなくなれば、巨大化した本部を維持するためのコストが大きくなり、「低価格路線」を維持することはできなくなるだろう。
コロナ禍の後 コンビニは何で勝負するのか
一方、すでに大手3社に集約されているコンビニ。これ以上の再編があるとすれば、ファミリーマートとローソンの統合くらいしか思いつかないが、コロナ禍の後にコンビニ商品の価格はどう動くだろうか。
現在、大手コンビニは外出自粛の影響を受けている。オフィス街や繁華街といった人の集まる場所に店舗があるケースが多いからだ。
3月の既存店売上高はセブン-イレブン、ファミリーマートはそれぞれ前年同月比3.2%減、同7.6%%減、ローソン同5.2%減で済んだ。
だが「4月は大きなインパクトがある」(竹増貞信ローソン社長)。4月は緊急事態宣言の発令、リモートワークも増えた。デリバリー、テイクアウトに切り換える外食チェーンが増えており、さらにコンビニの売上高を直撃している可能性もある。
コンビニは3社で寡占状態だし、フランチャイズ加盟店と共存共栄を目指さなくてはならないから経営的に厳しくなっても価格競争に走る愚は犯さないだろう。
しかし、コロナ禍を経て、コンビニにはネット、デリバリー、テイクアウトという新たな競合とも対峙しなければならない。消費者の働き方、生活環境は変わり、ネットを活用した購買にかなりの部分がシフトする。その時、コンビニは何で勝負するのか。
「商品の質的な向上による圧倒的な差別化を目指すしかない」(大手コンビニOB)という声もある。
果たして、それだけでコンビニは勝ち残れるか。コロナ後の淘汰再編で小売りに生まれる新秩序は暗黒の世界か。それはそう遠くないうちに答は出る。