本来は病気を治すための場所なのに、「うつす」「うつされる」場所となってしまう──そんな危険性があるのだ。新型コロナウイルスの感染拡大が大きな問題となっているなか、病院で感染しないための予防策も必要となってくるだろう。
◆腕時計をしている医師には要注意
病院の待合室は危険がいっぱいだ。時間つぶしに、顔見知りと世間話を楽しむ患者の姿も目にする。「マスクをしているから大丈夫」という考えもあるが、安心とは言い切れない。
確かにマスクは咳やくしゃみで飛び散ったしぶき(飛沫)を吸い込むことでうつる飛沫感染を防ぐことができるが、使い方では逆効果になるという。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは言う。
「病院という場所柄、マスクの表面には通常よりも広範囲に病原菌がついている可能性があります。マスクの端を軽く触っただけで手にウイルスが付着し、その手で目や口を触ると、そこからウイルスが入って感染してしまう。マスクのズレを直すときは、表面を触らないように注意する必要があります」
3月17日、今度はマスクそのものが無意味になりかねない研究結果が発表された。米国国立衛生研究所などの研究グループは、新型コロナウイルスが霧のように空気中を漂う「エアロゾル」という状態でも、3時間以上生存できると論文で結論付けたのだ。
「広範囲で感染するかはまだはっきりとしていませんが、少なからず、くしゃみなどで体外に出たウイルスが空気中に漂い、空気感染することも否定できなくなりました。そうなれば“通常のマスク”では隙間から吸い込んでしまうので、防ぎきれません」(前出・上さん)
“危険エリア”は待合室だけではない。日本救急医学会は「新型コロナウイルス感染症への対応について」と題した感染対策の指針の中で、トイレについても注意を喚起している。
《新型コロナウイルスは糞便中にも排出されることが明らかになっており、トイレ排水後の汚染した水のエアロゾル化に対しても注意する必要がある》
特に女性にとって、病院のトイレは危険がいっぱいだ。ちくさ病院総合内科の近藤千種さんは説明する。
「女性はトイレの滞在時間が長く、男性と違い個室のみを使います。エアロゾル化した新型コロナウイルスが漂う個室は感染する可能性が高いエリアといえます。また、個室に入る前に手を洗う人は少ないので、ドアノブにウイルスがたくさんついている可能性も高い。サニタリーボックスを触るのも、要注意です」
使用後に念入りに手を洗えばいいが、軽く流すだけや指先だけ洗って済ますような人は心配だ。
「その手で髪を触るのは、危険な流れです。ウイルスのついた髪が口に入ったり目に入れば、感染につながることもあります。鏡を前にメイク崩れが気になり、その手で化粧直しをするのも危険な行為といえます」(前出・近藤さん)
廊下の手すり、ドアノブ、エレベーターのボタンなど、「人が触るところにはすべてウイルスがついている」と考えて行動する方がいい。診察券や処方箋の受け渡し、会計時のお金のやりとり、薬局の待合室や薬の受け取りなど、危険はいたるところに潜んでいるのだ。
なかには、医療従事者が感染源になっている場合もあるようだ。『病院でもらう病気で死ぬな!』(角川新書)の著者で、医師の堤寛さんが言う。
「医師が着ている白衣は汚れがつくことを前提とした予防衣なので、患者からもらったウイルスがついていると考えた方がいい。白衣のまま食堂に行く医師や、白衣を着て車に乗って通勤している医師は、感染予防を考えたことがないのかもしれません。また、腕時計をしている医師は、手を洗う際に手首まで充分に洗えていない可能性が高い」
感染予防の意識の低い医師や看護師のいる病院は、避ける方が賢明だ。