新型コロナウイルスの感染者が増加する中、自治体から国に対し、市民に注意や警戒を呼びかける基準の作成を求める声が上がっている。感染症法で同じ「5類」に位置づけられる季節性インフルエンザには基準があるが、国はデータがそろっていないとして、新型コロナの基準作成には慎重だ。自治体からは「いつ注意喚起すればいいのか」との戸惑いも漏れる。
「流行状況を客観的に判断できる基準を設けてほしい」。26日に開かれた厚生労働省の厚生科学審議会(厚労相の諮問機関)感染症部会では、成田友代・東京都保健医療局技監ら自治体や保健所関係の委員から、こうした要望が相次いだ。
新型コロナは5月8日に「2類相当」から「5類」に移行し、全ての感染者を毎日把握する「全数把握」から、全国約5000か所の定点医療機関で1週間ごとの感染者数を把握する方式に変わった。
7月17~23日の1週間に全国で報告された感染者数は1医療機関あたり13・91人。5類に移行する直前の1週間(5月1~7日)の感染者数を定点1医療機関あたりに換算した参考値1・80人の7倍を超え、昨冬の「第8波」のピーク(昨年12月19~25日、29・83人)の半数に迫っている。全国最多は佐賀県で、27・44人に上る。
厚労省は、季節性インフルエンザについては、1医療機関あたりの1週間の感染者数が10人で「注意報」、30人で「警報」などとする基準を定めている。マスクの着用や手洗いなどを促し、感染拡大を抑える狙いだ。
一方、新型コロナの基準は示していない。厚労省の担当者は「定点把握でのデータ蓄積が不十分で、検討が難しい。いくつか波を経験し、感染者数や入院者数などの上昇傾向をつかむ必要がある」と説明する。
東京都の小池百合子知事は5類移行前の4月、岸田首相に要望書を手渡し、感染状況について注意喚起するための基準を示すよう求めた。都は現在、感染者数などを毎週発表しているが、担当者は「コロナへの関心が薄れる中、どうすれば情報が伝わりやすいか試行錯誤している。わかりやすい発信のために統一の基準があるとありがたい」と話す。
関連するビデオ: 全国の新型コロナ定点把握の患者数「13.91人」 5類移行後10週連続で増加 (テレ朝news)
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テレ朝news
全国の新型コロナ定点把握の患者数「13.91人」 5類移行後10週連続で増加
大阪府も5類移行と同時に、感染動向の目安となる基準値を設定するよう求める要望書を厚労省に提出した。
8月は夏休みやお盆などで人の動きが活発になって感染が拡大しやすく、これまでの波でも感染のピークが来ることが繰り返されてきた。和歌山県の担当者は「このままでは、注意を呼びかけるタイミングを逃してしまうのではという不安がある」と訴える。
一方、独自の基準を作った自治体もある。
静岡県では、昨年10月以降の第8波の感染状況を分析し、感染者の増加ペースが上がったポイントなどを考慮して基準を作成。1医療機関あたりの感染者数が8人以上で「注意報」、16人以上で「警報」としている。現在は注意報にあたる14・19人となり、ホームページで「注意報を発令中」などと呼びかけている。
鳥取県も、1医療機関あたりの感染者数が10人で「注意」、20人で「警戒」と定めた。県内を三つの区域に分け、現在はうち2区域で「警戒」、1区域で「注意」を発令している。
東京医科大の浜田篤郎特任教授(渡航医学)の話「地域によってはすでに感染者数がピークを越え、注意喚起のタイミングが失われたとみられるところもある。この夏は間に合わないとしても、国は入院患者数など医療体制の状況も加味した上で、秋までには注意報や警報の目安を作るべきだ」
■東京は「1か月後に1・5倍」…専門家推測
東京都内でも感染者数の増加が続いている。夏を迎えて旅行や帰省が本格化し、感染リスクが高まっており、専門家は注意を呼びかけている。
都内の定点医療機関(419か所)で1機関あたりの感染者数は7月17~23日の1週間で9・35人。ほぼ全ての年代で前週を上回っており、5類移行直前の1週間(5月1~7日)の1・41人と比べると6・6倍に増加した。東京消防庁の救急相談センターへの発熱相談件数は、直近1週間(7月20~26日)の平均で1日157件に上り、5類移行時の約2倍となった。
都医師会の尾崎治夫会長は、今のペースで感染が拡大すると、1か月後には感染者数が1・5倍になると推測し、「定期的な換気や必要に応じたマスクの着用が重要だ」と訴えている。