新型コロナウイルスの感染拡大で失業したり収入が減ったりした個人向けの貸付・給付金制度が分かりにくく、申請者の混乱を招いている。企業が従業員を休ませた場合に支給する「雇用調整助成金」は審査に時間がかかり支給まで数カ月待ち。目の前の資金繰りに苦しむ経営者は別の融資制度に頼らざるを得ない。全国民への一律10万円給付や中小企業、個人事業主向けの「持続化給付金」を盛り込んだ今年度補正予算は30日夜に成立したばかりだ。相談窓口には問い合わせが相次いでいる。
熊本市中央区のフリーカメラマンの男性(61)は2月以降、結婚式などの撮影依頼が軒並みキャンセルされた。例年この時期は月収50万円を超えることもあるが、今年は10万円前後。2016年の熊本地震で被災して物入りだったため貯金もない。生活費や個人事務所の費用には毎月十数万円かかるため、無利子で当座の生活費を借りられる国の「緊急小口資金」と「総合支援資金」を申請した。
緊急小口資金は最大20万円、総合支援資金は1カ月につき最大20万円を原則3カ月借りられる。「両方合わせて最大80万円」と解説しているサイトもあるため、男性は「両方あれば当面しのげる」と考えて貸し付けを申請。緊急小口資金の窓口ではすんなり20万円を借りることができたが、総合支援資金の窓口では「失業された方向けなので」と却下されて生活保護の申請を勧められた。
総合支援資金は公的ホームページで「収入減や失業などによって困窮した世帯が対象」とされ、失業者限定とは書かれていない。男性は制度を所管する厚生労働省に問い合わせながら窓口の熊本市生活自立支援センターと交渉。約3週間後に認められたが「窓口で断られて諦めた人も多いのでは」と首をかしげる。
雇用調整助成金は手続きに時間がかかっている。窓口の厚労省・各県労働局には申請や相談が殺到。受給まで数カ月かかるといわれている。
福岡市で美容室を営む60代男性は休業を決め、助成金を待たず経済産業省の融資保証制度「セーフティネット保証」を使った。
この制度では市が認定すれば信用保証協会が借入金を保証し保証料と利子が減免される。融資なので助成金に比べて事業者の負担は重いが、速やかに資金工面できるためこちらも申請が押し寄せ、福岡市には受け付けが始まった3月2日以降、4月27日までに8184件の相談があった。約9割は直近1カ月の売り上げが前年同月より20%以上落ちて回復が見込めない「保証4号」の対象だという。
男性は4月、市の認定を受けて約2週間で銀行から1000万円の融資を受けることができた。「休業が2〜3カ月になってもスタッフの給料を払える額を手元に置いておきたかった。助成金は時間がかかり過ぎるので最初から当てにしていなかった」。男性はそう言って胸をなで下ろした。
国や自治体の支援策の中には申請が始まっていないものもある。持続化給付金は売り上げが半減した中小企業に上限200万円、個人事業主に同100万円を給付する制度だが、補正予算の成立を受けて1日からようやく電子申請の受け付けが始まる。福岡商工会議所(福岡市)に設けられた相談窓口の担当者は「経産省のコールセンターを紹介している。電子申請に不慣れな人の支援窓口も詳細はこれからだ」と困惑している。【平塚雄太、門田陽介】