外出自粛で家計は大激変
新型コロナウイルスが蝕んでいるのは我々の健康だけではない。外出自粛しているはずの家計にも、“緊急事態”が宣言される日は遠くないかもしれない。
ウイルスの感染拡大を防ぐため、学校は休校になり在宅勤務を推奨する会社が増えた。その結果、家族の在宅時間が異様に長くなっている。強力な外出自粛要請が出される前に調査されたいくつかの消費者アンケートを見ても、家計の変化は明らかだ。
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いずれも「食費」「日用品(マスクやトイレットぺーパーなどの衛生用品含む)」が増えている。在宅率が上がると、家の外でまかなっていた分がそのまま家計に上乗せされてしまうからだ。
今後も家族がそろって一日中家にいるとなれば水道光熱費はさらに増え、リモートワークや子どものオンライン授業に使う通信コストが上がる家庭もあるだろう。また、学校に頼れないためか学習参考書も売れていると聞く。
逆に、交際費やレジャー費などは当然減っている。スポーツジムやエステは休業要請対象なので、利用料も発生しない。会社に行かなければビジネススーツも不要だし、女性の美容費もぐんと減るだろう。なかには「在宅でランチ代は不要だし、会社帰りの一杯もないんだから、小遣いだって減らしていいよね」とつつかれているビジネスパーソンもいるかもしれない。
ただ、やっかいなのは、これまでとは違う支出が発生していることだ。
膨れ上がる「自粛グルメ支出」
遊びに行けない、外食もできない。「#ステイホーム」が叫ばれるなか、人は何を楽しみにするかといえば、「食」になる。
ネットを開けば営業自粛で販売ができなくなった生産者からの“食材レスキューお取り寄せ”のお知らせが花盛りだ。「外食できないなら家で美味しいものを食べたい」「レジャーにお金がかからない分、プチ贅沢な食材を買ってみよう」「廃棄される食材を助けるために積極的に買おう」――そんな理屈で「食」が家レジャー化していく。
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当たり前だが、グルメ食材は安価ではない。どんなに安いものでも3000円以上、高級食材になれば1万円近いものもざらだ。しかも、生産地からの配送費がかかる。
また、外食がわりにデリバリーにハマってしまう人もいるだろう。通常の食費と考えれば高額だが、遊びに行けないストレスもあり、「産直グルメを取り寄せて、せめて家で旅行気分を味わいたい」という言い訳もできる。
気を抜くととんでもない金額に膨れ上がるのが、「自粛グルメ支出」だ。
この先も巣ごもり生活が続けば、次は高機能調理アイテムに関心が向かうだろう。パンやケーキ作り用にホームベーカリーやオーブン、塊肉がまるごと焼けるロースター等、手作りをレジャーとして楽しむ人々が出てくる。
逆に、在宅で仕事しながら食事も作らなくてはいけないワーキングママ達には、スイッチを押すと勝手に調理してくれるIH圧力鍋が魅力的だ。ついでに、取り寄せた食材をストックするための冷凍庫も買おうか、と際限がない。
「送料無料」に惑わされる人たち
次に、注意すべきなのが「サブスク支出」。ネット利用時間が増えるとともに、サブスク=定期購入・定額課金サービスも増殖する。
外出できない暇つぶしのための動画配信サービス、子どもが利用するオンライン学習サービス、コミックやゲームの課金など、家で楽しむためのコンテンツはネット空間に無限にある。遊びだけでなく、リモートワークに不可欠なサービスやアプリの有料会員になった人もいるだろう。
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ネット上の課金だけではない。家族のために一日三食、毎日料理を作らなくてはいけないストレスに悩んだ主婦たちの間で「ミールキット」が人気だという。調理メニューに必要な食材セットがカットまでされて宅配で届くシステムだ。買い物に出なくていいので感染防止にもなると需要が伸びているという。これも一種のサブスクだ。
サブスクの月額料金は、単体では手ごろに感じるが合計すれば大きな金額に膨れ上がる。しかも、契約者がバラバラだといくらかかっているかの全容が見えにくいという落とし穴もある。毎月払う固定費だけに厄介なのだ。
3つめは、「送料無料支出」。混雑しているスーパーに行かずにネットスーパーで済まそうとすれば、一定額まで買わないと配送料がかかる。そうなると、いつもの買い物よりも多めに買おうとする心理が働く。
ネットショッピングも同様だ。ただでさえ家でネットを眺める時間が増えており、買う気はなかったのについ…という声は多い。その時、「あと5000円で送料無料」という表示を見ると、余計なもう一品をむざむざ買ってしまうものだ。
ただでさえストレスフルな毎日が続くのだ。「どうせ旅行にもイベントにも行けないのだ。節約より、ぱっと使って巣ごもり生活を楽しもう」と心のハードルが下がる面もあるだろう。
おカネを使った実感がないまま…
こうして「自粛グルメ支出」「サブスク支出」「送料無料支出」の3つが増え続けると、家計にとってかなり危険な結末――「巣ごもり破綻」が待っている。
この3つの支出には共通点がある。それは、決済手段の主流がクレジットカード払いということだ。リアルな商品であれサブスクのサービスであれ、どれもがネット上で手続き・購入されるため、カード決済を選ぶのがデフォルトとなる。このカード払いが曲者だ。
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財布から出ていく現金であれば使った実感があるものだが、カード払いだとデジタル数字で表示されるためそれが薄い。しかも、最近の利用明細はカード会社のサイトに自らアクセスしなくては確認できない。購入時も請求時も口座引き落とし時も、消費した現金を見ることがないまま素通りしていく。
かくして、お金を使った実感はないのに、「なぜ、こんなに口座にお金がないのか?」と驚くはめになるわけだ。
さらにカード支払いは名義人ごとに行われるので、夫婦でも名義が違えば相手が何を買ったか把握することができない。よほど仲良し夫婦でも、昨夜買ったものをいちいち申告しあいはしないだろう。さらには請求月も異なるために、いつどれだけ使ったかの全容も見えにくい。そのため「使いすぎでは」と立ち止まるのが難しくなる。
もう一つの落とし穴は、今年のボーナスだ。
今でも収入が減っている家庭は多いだろう。3月に調査された家計簿アプリ提供会社スマートアイデアのレポートでは、「コロナウイルスの影響で収入が減少した」と答えた人のうち、自営業で月約6万3000円、会社員(役員含む)で10万円近い減収があったという。
今夏はボーナスも頼れない
現状はもっと厳しく、在宅勤務への切り替えで残業代が減ったり、パート先が休業してしまったためこれまで通りの収入が確保できない家庭は増えていく。収入が減った状況でこれまでの調子でカードで買い物を続ければ、むろん赤字にまっしぐらだ。
これまでは、赤字の防波堤がボーナスだった。赤字家計では、口座の残高が足りなければカードでしのぐというのはよくある手だ。
給料が振り込まれても前回までのカード利用代金が引き落とされれば残高が減る。それで足りなくなれば、またカードを使う。以下繰り返し、の延々赤字先送り方式を続け、なんとか半年耐えれば、振り込まれたボーナスでいったん赤字は清算――という禁じ手が使えた。
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しかし、今や多くの業種がコロナ対応を余儀なくされ、生産も販売現場も開店休業状態だ。どんな大企業であっても先行きは楽観できようもない。夏冬のボーナスが昨年通りというわけにはいかないだろう。もし、ボーナスでの赤字清算ができなくなれば、家計破綻は現実へと近づいてしまう。
破綻を避けるためにすべきなのは、まずコロナ後の家計の変化を洗い出すことだ。どんな支出がいくらくらい増え、逆に何が減っているのか。我が家は赤字なのか黒字なのか、それを正しく把握できている家庭は案外少ない。
もし赤字に近いイエローゾーンなら、今のうちに見直しに着手する。まずは、毎月の固定費となっているサブスク支出の合計額を家族で共有しよう。この先月収が減る可能性も考えたうえで、契約の見直しやネットショッピング全体の引き締めを話し合おう。
また、ボーナス激減に備えて、そのタイミングで支払ってきた住宅ローン返済なども改めて確認しておくべきだ。乗り越えなければならないのはウイルス禍だけではない。家計もまたオーバーシュート瀬戸際なのだ。