コロナ禍で一気に200店舗閉店の衝撃――急速な閉店で「ファミレス難民問題」も

コロナ禍で多くの飲食店が苦境に陥っているなか、大手ファミレス各社は大企業ならではの「徹底した衛生管理」を掲げるとともに、あの手この手で経営の立て直しに挑んでいる。

 とくに、大手ファミレス各社の殆どが取り組んでいるのが「店舗整理の実施」――つまり、将来性が無いと判断された店舗の閉店だ。一部のファミレス運営企業では早くも閉店が進みつつあるが、一方でその閉店が社会問題化しつつある地域もあるという。

ファミレスを襲うコロナ禍――業界3位も一気に「約200店舗を閉店」

 大手ファミレスのうち最も急速に店舗整理を進めているのが、大分県大分市に本社を置く「ジョイフル(Joyfull)」だ。すでに同社は直営店だけでも2020年6月から12月末までの僅か半年間に全店舗の約2割に当たる約110店舗を閉店している。

 ジョイフルは1976年に焼肉店として大分市で創業。1979年に九州ではまだ珍しかったファミリーレストラン業態の店舗「ジョイフル」の展開を開始した。1970年代当時、九州には洋食レストラン・機内食製造企業を起源とする「ロイヤルホスト」(本社:福岡県福岡市)もファミリーレストラン業態の店舗を広げつつあった。しかし、ジョイフルは同社とは一線を画した「和洋中の幅広いメニュー」と「格安大衆路線」を採ることで人気を集め店舗網を拡大。2020年春時点では九州沖縄・中国・四国地方を中心に、北は北海道札幌市から南は沖縄県宮古島市、海外を含めると台湾・高雄市まで約700店舗を展開し、ファミリーレストラン業界国内3位にまで上り詰めた。

 同社は長らく東京都心に店舗が無かったため、大手でありながら全国メディアに出る機会が少なかったが、2015年には東京・赤坂に都心初出店。大分市出身であり、実家近くのジョイフルを勉強部屋替わりに使っていたという指原莉乃がSNSで「ジョイフルすごいね!」と紹介するなど話題を呼び、また上京した西日本出身者には「赤坂の料亭」という愛称で呼ばれ「地元を懐かしむ場」として定着することとなった。

コロナ禍で一変し、200店舗閉店へ

 2018年には神奈川県と北海道に初出店するなど近年は東日本でも店舗を増やしつつあり、2019年度末にはグループ全店で800店舗台を数えるまでに成長したジョイフルであったが、コロナ禍でその状況は一変。2020年6月には全店舗の3割弱にあたる約200店舗を閉店する方針を発表するに至った。

 これにより、東京23区で唯一の店舗であった赤坂店も2020年12月末で閉店することになったほか、経営再建の過程で2018年からジョイフル傘下となっていた老舗洋食レストラン「キッチンジロー」(本社:東京都千代田区)については近年バル・居酒屋メニューを強化していたことが裏目に出たとみられ、2店舗を残して殆どの店舗が閉店することとなった。

 これらの閉鎖対象となった店舗がある地域ではSNSなどでも閉店が大きな話題となっており、なかには「ファミレスの消滅は地域の生活に関わる問題だ」という声も多くみられる。

「インフラの1つ」となった地方のファミレス――撤退が「地域の生活問題」に

 さて、それでは単なる「ファミレスの閉店」がなぜ「地域の生活に関わる問題」として捉えられるのであろうか。

 それは、同社が地盤である西日本各地を中心に「中山間地域・農山漁村地域」や「離島地域」にも多くの店舗を持つことが大きな要因だ。

 先述したとおり、ジョイフルが創業したのは大分県。創業初期から大分県をはじめ宮崎県、熊本県など都市部以外での展開を中心としてきた同社ゆえに、小商圏型の店舗ノウハウは他の大手ファミレスより長けており、中山間地域はもちろんのこと、地場資本との提携をおこなうことにより他のファミレスチェーンが出店しないような離島・島嶼部への出店も積極的におこなってきた。そうした地域では、少子高齢化によりすでに周辺に飲食店が殆ど無くなっているような集落も多く、そのため、ジョイフルが近隣唯一の「洋食レストラン」、さらには唯一の「フリーWi-Fi設置店」「深夜営業店」であるという事例も少なくない。

 実際に筆者も九州内で駐車場に農業用トラクターやデイサービスのマイクロバスが停まっているジョイフルを見かけたことがある。周辺にスーパーマーケットも無いような地域でありながら店内はそこそこ賑わっており、客席には農作業着のままデザートを楽しんだり、介護職員らとランチを楽しむ高齢者の姿が多くあった。こうした地域ではファミレスが貴重な雇用先になっているのは勿論のこと、地域で貴重な天候や時間に左右されない「農作業中の休息場所」や「高齢者の憩いの場」にもなっていることが伺えた。

 仮にこの店舗が無くなれば、地域に「ファミレス難民」――ひいては「飲食店難民」が生まれることとなり、店内で憩っていた人たちの農作業の計画やデイサービスの経路も大きな変更を余儀なくされるであろう。

「非常時の合理化」の皺寄せ

 コロナ禍のように、大企業による「非常時における合理化」がおこなわれるとなれば、大抵最も大きなしわ寄せを受けるのは地方都市や小さな町だ。

 ジョイフルは2020年末までにジョイフル屋号の店舗だけで約110店、系列の和食店「喜楽や」などを含めるとグループ全体で約170店ほどの閉鎖店舗を実施、もしくは予定している。やはりそのなかには中山間地域や農山漁村地域に立地する店舗が多くあり、なかでも福岡県みやこ町、佐賀県玄海町、熊本県芦北町、宮崎県綾町などはジョイフルの閉店によって自治体単位での「ファミレス空白地帯」となってしまった。

 ジョイフルほどではないものの、ジョイフルと同じく地方に店舗が多いファミレス業界最大手「すかいらーくグループ」も2021年までに全体の1割弱にあたる約200店舗の削減を決めており、今後は全国各地でこうした「ファミレス空白地帯」、そして「ファミレス難民」が多く生まれ、地域社会に影響を及ぼすことになるかも知れない。

 ファミレスの業態誕生から約半世紀。永年に亘って地域に根付いたファミレスは、もはや「家族の憩いの場」を超えた「地域社会のインフラ」の1つとなっている。

 ファミレスの運営は決して慈善活動ではないことはいうまでもなく、今回のような非常時に「過疎地域の店舗が犠牲になる」ことは、小売業・流通業の世界では珍しくない。

 しかし、小さな町にとっては、「コロナ禍によるファミレスの消滅」はいわゆる「買い物難民問題」と同様に、地域の生活環境を大きく変えた出来事のひとつとして歴史に刻まれることになるであろう。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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