コロナ禍で急増している「未経験IT就職」の実態 志望者は若者だけでなく、30~40代にも広がる

 コロナ禍になってもう1年半ほどが経過した。常時マスクをつける生活やリモートワーク、自宅で過ごす週末にも慣れてきた感がある。しかし、このコロナ禍によって社会が大きく変わったのは事実だ。特に業界や企業の業績には大きな影響があった。

 今年4月に帝国データバンクが発表した「新型コロナウイルスによる企業業績への影響調査」(2020年度4~12月期決算速報)によると、主要43業種の売上高の前年比平均増減率は、「電気通信・郵便(26.0%増)」「教育(11.4%増)」「スーバーストア(9.6%増)」「専門サービス(7.7%増)」「不動産(7.7%増)」が伸びた一方、「貴金属製品卸(17.1%減)」「皮革製品製造(12.9%減)」「飲食店(11.3%減)」「宿泊業(9.6%減)」「娯楽業(7.8%減)」といった業種は大きく業績を下げている。

IT関連業界が好調

 業績が伸びた業種を見ていると、ある共通点が見えてくる。それは「IT(情報通信)」が関わる業種が多いことだ。

 例えば、「電気通信」はインターネット通信を指し、「教育」も「eラーニング」によって業績が伸び、「専門サービス」には「DXコンサルティング」が含まれる。5.6%増えている「広告・情報サービス」もまさしくIT分野だ。リモートワーク(授業)の導入においても、すごもり需要においても、その鍵を握っているのは「IT」だと言える。

 筆者が所属する、20代の若者(Z世代、第二新卒)向けに就業支援を行うUZUZが、コロナ禍の2021年6月12日〜8月3日に「IT業界への志望意欲」を既卒生、第二新卒生計866人に調査したところ、就業経験のない既卒では51.0%、3年以内の就業経験がある第二新卒では50.5%が「意欲が上がった・どちらかと言えば上がった」と回答した。

 また、ディスコ社が新卒(2022年卒)向けに行った志望業界の調査(2021年1月実施)によると、1位が「情報・インターネットサービス(18.8%)」、2位が「情報処理・ソフトウェア・ゲームソフト(16.4%)」と、IT業界が上位を独占している。

 コロナ禍において、新卒から20代若手社会人に至るまで「IT業界」の人気がかなり向上していることがデータからも見て取れる。現場でキャリア支援を行っている筆者の元にも、未経験からIT業界への就職(転職)を志望する求職者の相談が増えている。

コロナ禍前は人気のなかったIT業界

 では、IT業界は、コロナ禍前から人気があったのだろうか? 実はそうではない。

 コロナ禍前の2019年4月にマイナビが行った「AI推進社会におけるキャリア観に関するアンケート」によると、2020年卒業予定の新卒(大学生・大学院生)の75.4%が「AI(人工知能)やIT(情報技術)関連の職種を”希望しない”」と回答している。AI・IT関連職種を希望しない主な理由として、「必要スキルがわからない(61.1%)」「選考ポイントがわからない(25.5%)」という回答が多い。つまり、「よくわからない」「選考難易度が高い」ことから敬遠している求職者が多いことがわかる。

 実際にコロナ禍前にキャリア支援していた20代社会人からも、同じく「わからない」「難しそう」といった声は上がっていた。コロナ禍前から需要が高く、未経験者向けの求人が多かったIT業界だが、当時は志望者が少なく、需給ギャップがどんどん広がっていると感じていた。

 筆者が現場でキャリア支援を行っていると、最近は20代だけでなく、IT就職を希望する30代や40代の求職者の相談を受けることがある。その多くは、今までITとまったく関係のない仕事をしていたが、コロナ禍による業績悪化や社会構造の変化もあり、IT業界への就業を希望している。具体的にIT業界への転職を考えている求職者の理由にはどのようなものがあるかというと、次のような理由だ。

・コロナ禍でも成長した数少ない業界であり、今後も成長が見込める。

・今いる業界はコロナ禍で業績が悪化しており、将来に不安を感じる。

・リモートワークといった「働きやすい環境」を構築しやすいと思う。

・自分のスキルひとつで「環境」や「待遇」を手に入れられることに魅力を感じた。

・業績が安定している分野なので、自己成長に集中しやすい環境だと思う。

・もともとIT業界に興味はあったが、オンラインで提供されるサービスを利用することが増え、さらに意欲が上がった。

ただ、未経験者がIT業界への就業を希望しても、簡単に就職できるわけではない。ニーズが圧倒的に伸びており、慢性的に人手が不足しているため、一見すると「入りやすい業界」だと思われているが、実態は少し違う。

 未経験者を採用すると、教育に人手が取られるうえに、即戦力としては計算できない。人手が足りないとはいえ、未経験者を多く採用してしまうと教育のためにリソースを割く必要があり、一層人手が足りなくなる可能性がある。そのため、業務経験者は圧倒的な売り手市場(すぐに就業先が決まる)なのに対し、未経験者に対する採用ハードルはあまり下がっていない。

 特に30代や40代となると、企業も年齢的に未経験者としての採用は避ける傾向があり、実際にキャリア支援をしていても「ほぼ採用されない」という状況になっている。

未経験からIT就職するポイント

 では、「未経験者はIT就職できないのか?」というと、そうでもない。ポイントは、「未経験者を採用している分野を選ぶこと」と「未経験者でもアピールできる材料を増やすこと」の2つだ。

1 未経験者を採用している分野を選ぶ

 IT分野の仕事は、「開発系」と「インフラ系」の2つの分野に大別される。近年人気がある「Web系」という分野は、「開発系」に含まれ、「自社勤務」「Webアプリケーション開発」といった条件を満たす求人が多い。

 しかし、この「Web系」ポジションは、求職者に人気がある一方、経験者採用が中心で、未経験者の採用をほとんど行っていない。未経験者で採用される場合、そのほとんどは新卒、さらに高学歴の人材に限られることが多い。

 下記は「開発系(業務系)」「開発系(Web系)」「インフラ系」の3分野ごとに特徴を比較した図となる。

 結論としては、未経験からIT分野への就職を目指すのであれば、「インフラ系」を中心に考えて就職活動することがおすすめだ。インフラ系のエンジニアポジションであれば、採用ニーズも高く、業務レベルにも幅があるため、能力に合わせた採用枠がある。特に30代以上であれば、開発系での採用は年齢要件で足切りになってしまうので、インフラ系一択で進めた方が現実的だ。

未経験者でもできるアピール

2 未経験者でもアピールできる材料を増やす

 採用において最大のアピール材料は「実務経験」となる。ただ、未経験者はそれがない。なので、実務経験に代わるアピール材料を手に入れる必要がある。例えば、未経験者からIT就職する場合、次のようなことがアピール材料になる。

・業務に関連した専門資格(基本情報技術者試験、CCNA、AWS認定資格など)

・業務に関連した基礎学習(独学でもいいが、専門学校やスクールを利用した方がアピールしやすい)

・コミュニケーション能力の高さ(営業職や販売職としての経験がある)

・マネジメント経験や人材教育の経験がある(将来的にはマネージャー、教育担当として計算できる)

・前職での実績(分野が違ったとしてもビジネスマンとしての能力の高さは証明可能)

 社会人経験があれば、能力や経験、実績をアピールできる。ただ、別分野での経験はあくまでも別分野の経験なので、アピール度がそこまで高いわけではない。結局は基礎学習が必要となり、業務に関連する資格を取得することが最もアピールにはなる。

 筆者が以前支援した30代前半の求職者は、大学卒業後フリーターとして居酒屋で働いていた。勤続年数も10年を超えていたため、接客や調理だけでなく、アルバイト管理、店長補佐業務まで経験していた。しかし、就職活動を開始した当初、書類選考を通過した企業は1社もなかった。不採用となった理由は、30代前半という年齢の割に「社会人経験がない」「業務レベルがそこまで高くない」ことだった。

求人ニーズの高いITスキルを学ぶべき

 そこから業務に直結する専門資格であるCCNA(インフラエンジニアの登竜門的資格)の取得を目指し、取得後に面接まで進める企業があり、無事に内定となった。このケースでは、資格を取得したことで「教育コストが下がる」「配属しやすい」といった採用企業側のメリットが生じたことが良い結果に繋がった。

 IT未経験から学習を進めたいという人には、無料の学習サービスもあるので、利用をおすすめする。ちなみに、筆者が所属するUZUZではプログラミングやネットワークの基礎学習ができる動画教材をYouTubeで無料公開している(こちら)。

 専門資格の取得を目指したり、ITの基礎学習を進めようと考えた際、ITスクールの利用を検討する求職者は多い。しかし、ITスクールにも落とし穴がある。それは、せっかく学習しても、学んだ範囲が「未経験を採用していない分野」であると、就職には繋がらないことだ。

 スクールを利用する場合は、まず「どの分野であれば未経験者でも採用される可能性が高いか?」をしっかりと調べ、その分野の就職につながる基礎学習ができるカリキュラムを提供しているサービスを選ぶべきだ。間違っても、就職につながらない上にお金や時間を浪費してしまう就職活動にはならないよう、気をつけてもらいたい。

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