コロナ禍で浮き彫りになるコメンテーターの“質”、価値を上げる人・淘汰される人

新型コロナウイルスの影響が続く現在、普段以上に注目を集めているのが、ニュース番組、そして情報番組だ。情報番組では、キャスターのほかに各界のコメンテーターが出演し、コロナの状況や政府の対応等について情報を提供、自らの意見も述べる。平時なら、その内容に多少の問題があったり炎上したりしても、制作者側は視聴率につながる“ショー”として良しとしてきた。だが、今は有事。普段とは違う状況下であるからこそ、コメントの“質”が浮き彫りになっている。

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■有事だからこそ求められる“刺さる言葉”、単なるショーでは視聴者が納得しない

 ニュースや情報番組のコメンテーターといえば、ざっくりとタレント枠と識者枠の2つに分かれる。普段の放送であれば、タレントコメンテーターは“一般人代表”のような意見をしたり、歯に衣着せぬ発言、ユーモアある発言などを求められることが多い。一方で識者は、扱う事柄の専門家や、専門外でも自らの知見を生かした見解を述べる。

 「ですが、今は有事の時。しかもコロナという、誰にも身近な災禍であるがゆえ、観る側も単なる“テレビショー”では終わらせられない雰囲気がある」と話すのは、メディア研究家の衣輪晋一氏。

 「平時は野次馬的な感覚で、激論やバトル、的外れな意見をも楽しんでいた視聴者ですが、今は国民全員が当事者。今までのようなぬるい観点ではなく、質が高く、誰かの代弁者になり得、視聴者に刺さる言葉を語れるかが重視される。これをできるコメンテーターが存在感を増し、価値を上げている状況です」(同氏)

■メディアの論調に否の声上げたカズレーザー、詐欺を予言した小木博明

 タレント枠で言えば、カズレーザーがその一人。カズレーザーは火曜のスペシャルキャスターとして『とくダネ!』(フジテレビ系)に出演した際(4月7日)、感染拡大を「若者の外出が原因」としていたメディアの風潮に対し、「巣鴨のとげぬき地蔵商店街にはたくさんのお年寄りが集まっている」とバッサリ。「外出しているのは本当に若者だけなのか」という議論を投げ入れた。衣輪氏は「当時、ネットやSNSではこのメディアの論調に対し、『視聴者の多くを占める高齢層に忖度して、印象操作が行われているのではないか?』との疑問が上がっていました。そんな時節だったからこそ、彼の提示した“事実”が視聴者の胸に刺さった」と当時の反響を分析する。

 ほかに、おぎやはぎの小木博明も株を上げた一人だ。小木は4月8日の『バイキング』(同系)に生出演し、「今後、(オレオレ詐欺のような新たな)コロナ詐欺が起こる」と発言。そして22日、同番組で新型コロナウイルスに関する詐欺やトラブルの相談件数が増加していることが報告される。これにMCの坂上忍は「(予言的中した)小木くんは、ある意味一流のコメンテーター」と絶賛。その後も小木は詐欺のやり口、個人情報流出の問題にまで言及し、坂上をして「もはや専門家」とまで言わしめた。

 次に識者枠だ。ここには、感染症や医療、政府関係、地方自治など数多くの専門家が存在する。より専門性や責任を求められるだけに批判が生まれがちだが、これを機に名を上げた人も多い。なかでも、当初よりコロナ関連ニュースを徹底的に追ってきた『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)は、ある意味でコロナの“恩恵”を受けているとも言え、感染症学や公衆衛生学を専門とする岡田晴恵教授、呼吸器内科の大谷義夫先生というスターも生み出した。

 最近注目されたのは、コメンテーターの玉川徹氏と政治ジャーナリストの田崎史郎氏による論戦だ。「PCR検査をしないと感染者数がわからない」という玉川氏に対し、田崎氏は「(日本はCTの数が他国より多いので)CT検査が重要」と反論。また玉川氏は「緊急事態宣言が遅い」と口撃。田崎氏は、「政治家というのは、いろいろなことを考えるわけですよ。玉川さんほど短絡的に、バッといけるものじゃないんです!」と反論した。

 「玉川さんはテレビ朝日社員のジャーナリストですが、以前から激しく、一部偏りも感じられる発言をしており、それが一方では絶賛され、一方では大炎上するという極端な存在。ただ、大きな議論を生むということは、“視聴者に刺さる”という意味でテレビとして正解なんです。田崎さんは『モーニングショー』的“プロレス”の当て馬にされた感はありますが、玉川さんの「政府内の事情やゴタゴタはいいから、さっさと市民に寄り添え」という、政治に半ば素人の“視聴者代表”的な攻撃に耐えうる専門家=“巨大な壁”としての対立構造がうまく出来ていた。これにより、田崎さんもまた存在感を上げたと言えるでしょう。話題と議論を提供したという点では、番組にとってもメリットになったと思います」(衣輪氏)。

■識者はオールラウンダーではない…だがテレビでは“オールラウンド”でコメント求められ墓穴掘ることも

 ほかにも、『サンデー・ジャポン』(TBS系)で元衆議院議員・杉村太蔵とバトルになった岸博幸氏もいる。『全力!脱力タイムズ』(フジ系)ではバラエティーへの応用力を発揮していた岸氏だが、今回は元経産省官僚として確固たる意見を発し反響を呼んだ。また、吉村大阪府知事をはじめとする地方自治体の首長に注目が集まると、今度は元大阪府知事・元大阪市長の橋下徹や、元宮崎県知事の東国原英夫が何を語るかも注目された。

 とはいえ、識者として呼ばれる専門家やジャーナリストは、誰もがオールラウンダーなわけではない。それだけに、自身の専門性を元にした内容、独自の調査を元にした確かな意見をはっきりと述べることが求められる。議論を生む存在は必要だが、それも上記をベースにしてこそだ。制作側は、むやみに専門外のコメントを求めすぎないようにすることも、意識すべきだろう。

 有事の際だからこそ、広く情報を届けるニュース・情報番組には注目が集まるし、そのぶん責任も増す。出演するコメンテーターも同じだ。現在は感染の危険を避けるため、リモート出演するコメンテーターが増えたが、わざわざスタジオとつなぎながら、言っていることが箸にも棒にも引っかからぬコメントでは、視聴者は拍子抜けしてしまい、番組への信頼感も揺らぐだろう。

 「真実は一つでも、見る角度によって違う様相を見せるため、意見の相違が生まれるのは当然。もちろん無責任なデマは厳禁ですが、多少偏った意見だとして、それは視聴者へ気付きを与え、議論に繋がるので一概に悪いとは言えない。逆に事実を伝えるにしても、独自の見識がないと退屈な意見に。これらを織り込めないコメンテーターは、今後淘汰されていく可能性が高い」と衣輪氏。

 反響を呼ぶコメンテーターは視聴者にも伝わるし、制作側にも必要とされる。テレビ界でも様々な構造改革が行われるであろうコロナ後。コメンテーター界隈は、少し様相が変わっているかもしれない。

(文:西島亨)

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