コロナ禍で飲食業界に異変? 焼肉店が増えている理由とは

コロナ第3波が襲来し、感染が再び拡大している。大阪では「大阪モデル」が赤信号の点灯で、通天閣も赤く染まった。飲食業界は年末のかき入れ時だが、再び営業時間短縮要請(北区、中央区)を受けるなど客離れは必至だ。飲食店のビジネスモデルが壊れ、先行きがまったく見えない。そんな中で今、異変が起きている。なぜか新しい焼肉店が増えているのだ。いったいその理由とは何か。コロナ禍の焼肉店の動向を探ってみた。 【写真特集】大阪モデルの「赤信号」点灯 通天閣・太陽の塔が赤点灯で知らせるも、飲食店関係者にとっては厳しい点灯となった

 外食チェーン大手のワタミは10月5日、居酒屋から焼肉店へ業態転換すると発表した。報道によると、新型コロナウイルスの影響で居酒屋の売り上げが落ち込む一方で、焼肉店は徐々に回復しており、今後も成長の可能性があると判断。『和民』『ミライザカ』『三代目 鳥メロ』などの居酒屋業態を順次『焼肉の和民』に切り替えていくという。 2022年3月期末までにグループの約3割にあたる120店舗を予定し、以降はフランチャイズ展開も始め、5年で400店舗の出店を目指すという。[写真]「焼肉きんぐ大阪鶴見店」は11月2日オープン。大阪は4年半ぶりの出店だ。

 他の大手焼肉チェーンでも、同様の新規出店が増えている。  物語コーポレーション(本社:愛知県豊橋市)が運営する『焼肉きんぐ』は、11月2日に全国248店舗目となる『焼肉きんぐ大阪鶴見店』をグランドオープンした。先に10月に開店した八尾店を加え、現在、大阪には8店舗ある。同グループは、『焼肉きんぐ』『丸源ラーメン』『寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵』などを運営し、海外も含めて552店舗(10月末時点)を展開している。  「2007年に焼肉きんぐの大阪での1号店を出し、6店舗出店しました。ただ苦戦を強いられ、出店をやめていました。大阪は4年半ぶりの出店です」(同社広報)  テーブルバイキング方式で、ターゲットはファミリー層だ。テーブルまで料理を届けてくれ、焼肉のおいしい食べ方を説明してくれるスタッフ(焼肉ポリス)を置いているのも特徴だろう。[写真]旨い焼き肉に食欲も満たされる。スタッフ(焼肉ポリス)がおいしい焼き方や食べ方を説明してくれる

 同グループの焼肉部門、ラーメン部門、お好み焼部門、ゆず庵部門、専門店部門の中では、焼肉部門が最も売り上げを伸ばしており、焼肉店の成長の可能性について「今後も積極出店によって弊社焼肉事業は成長する見込みです。しかしながら、新型コロナによる宴会需要の減少、またコロナ流行以前から続く少子高齢化により焼肉市場全体として需要の縮小は免れないです」と話す。  しかし「その反面、飲食の他業態と比較して焼肉業態は比較的堅調に推移しており、今後も他社の焼肉市場への参入は続くと見ています。市場は緩やかに縮小する中、他社参入は続き今後競争は激化すると考えられます。私たちとしては業態のブラッシュアップを図りお客様にお喜びいただけるブランドを作り続ける必要性があると感じています」と続けた。  また、来年1月からは店内で配膳下膳の業務の一部を担うロボットも導入。310店舗443台の導入を計画している。

ホルモン・焼肉座『ちからや心斎橋店』(大阪市中央区)も10月5日に新規オープン。焼肉どうらくグループのフランチャイズ店だ。1階2階でカウンター、テーブル席など総席数43。アシスタント・マネージャーの大鵬健太さんは北新地でふぐ専門店(2店舗)を10年経営していたが、コロナで大打撃を受けた。[写真]最近、焼肉店の新規オープンが増えている。今年10月に開店した「ちからや心斎橋店」もそんな1軒だ。

 「ふぐ店は、11月から翌3月までの5か月で1年分の売り上げを稼ぎます。今年に限ってはコロナの影響で2月初旬からキャンセルが相次ぎ、4月は休業したため全滅。季節モノのふぐ料理は夏場はダメですし、売り上げが見込めない。一方、焼肉店はフルシーズンで売り上げが見込めます。それでマネージャーになりました」(大鵬さん)

 だが、最近また困惑気味でこう話す。 「GoToキャンペーンのお陰でオープン以来、満席でした。ところが、『見直し』になって時短営業も加わり、またキャンセルが相次ぎました。北区と中央区の飲食店は厳しいでしょう。この前、十三に行ったらけっこう賑わってましたけどね…」  大鵬さんは結婚して30年。これまでふぐ店も順調だった。「キャンピングカーを持っているので、今年は妻とゆっくり日本をまわる予定でした。それもできず、コロナで生活がすべて変わった。でも、何とか乗り越えていきたい」と、力強く語った。

 1人焼肉のチェーンを展開する焼肉ライク(本社:東京都渋谷区)は7月に『焼肉ライク堺東店』をオープン。10月にも『尼崎店』をオープンしている。  「先日、焼肉ライクが取材で取り上げられてテレビ放映があったんですよ。その影響だと思いますが、1~2週間はお客様が増えました。1人で気軽に入れることもありますが、日本人は焼き肉が好きなんじゃないですかね」(フランチャイズの焼肉ライク堺東店)[写真]「ちからや心斎橋店」の各種メニュー。換気は3分に1回。換気量は 一般飲食店の10倍だ

 焼肉店増加の理由について焼肉チェーンの関西グループ統括者は、こう説明する。  「正直なところ、飲食業界の中で焼き肉は比較的コロナの被害が少ないのです。理由の1つは換気の良さがある。居酒屋さんは30分に1回の換気がほとんどですが、焼肉店は3分に1回の空気の入れ替えを行っています。換気量は一般飲食店のおよそ10倍です。それと、技術面でも、お客様が肉を焼きますので特殊な技術がいらない。それが増えている理由でしょうか」  居酒屋などの閉店が相次ぎ、居抜きの物件が多く出回っているので、新規出店の初期投資が少なくて済むとも言われている。

 焼肉店に足を運ぶお客さんにも、話を聞いてみた。

 「焼き肉は定期的に食べたくなる。体がエネルギーを欲しがってるんだと思います。いっぱい食べると、脳が満たされる。知り合いで韓国の女の子がいるんですけど、週に5回くらい食べるそうです。ただその分、焼き肉の2倍は野菜を摂ると言ってました」(20代女性)

 「焼き肉は網で焼いて食べたいし、そうなると、外食になる。牛肉を食べて長生きしてる人は多いでしょう」(50代会社員)

 在阪グルメライターによれば、「資金力があるところは『攻め』の経営で生き残りをかけて勝負に出ている。最近は『コロナに強い焼き肉』が合言葉です。焼き肉は年齢に関係なく人気ですから」とのこと。

今や忘年会シーズンの真っただ中。忘年会を中止する企業も多いが、焼肉店をはじめ飲食業界の今後が注目される。
(文責/むとクリエイト・北代靖典)

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