岸田文雄首相が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを「5類」に引き下げると表明したことを受け、東北各地では「行動範囲が広がり、感染が拡大しないか」「コロナ禍前の生活に近づく」と、不安と期待の声が聞かれた。
医療体制、高齢者対策に重点
5類になると、感染者の入院勧告や外出自粛要請などの法的根拠がなくなる。保健所の業務が激減する可能性もある。
福島県いわき市保健所総務課の小島有喜係長は「この3年間、職員は走りっ放しの状態。対策の緩和には慎重な検討が要るが、事務処理の軽減はありがたい」と歓迎。仙台市感染症対策室の石川邦雄室長は「入院調整や陽性者の健康観察といった保健所の役割がどう変わるのか、政府の対応を注視する」と述べた。
コロナ関連の診療や入院は指定医療機関に限られてきた。つがる総合病院(青森県五所川原市)の成田弘人事務部長は「コロナに対応する医療機関が増えればありがたいが、行動制限緩和が感染拡大を招く不安もある」と複雑な心境を明かした。
発熱外来で感染者を診てきたあんどうクリニック(仙台市太白区)の安藤健二郎院長は「全体の感染者数や致死率を考えれば、医療体制の段階的な緩和には賛成。今後は高齢者対策に重点を置くべきだ」と語る。
現在の流行「第8波」は重症化リスクの高い高齢者を中心に死者数が増え、高齢者施設のクラスター(感染者集団)も多発。訪問介護事業所を運営するハートワンケアセンター(太白区)の加藤勢津子社長は「利用者を守るために今後も厳しい感染対策を続ける」と慎重な姿勢を崩さない。
学校生活、戻るのはいいこと
屋内のマスク着用も原則不要となる方向だが、加藤社長は「マスクなしの無症状者が増えれば、介護者の感染リスクが高まる」と警戒する。一方、同社運営の保育所では「互いの表情が分かるコミュニケーションは子どもの育ちに欠かせない」として、保育士がマスクを外すことを検討する。
マスク着用に慣れた若い世代には戸惑いの声も。東北福祉大2年の女子学生(19)は「お互いの素顔を知らない友人が多い。気兼ねなくマスクなしの生活をしたいが、自分の素顔を見せる不安もある」と明かす。
仙台一中(青葉区)では屋外のマスクは原則不要だが、生徒の大半は登下校時に着用。高橋恭一校長は「マスク生活が日常となり、今後もすぐには外しづらいかもしれない」とみる。
3年に及ぶコロナ禍は不自由な学校生活を強いてきた。高橋校長は「一気に全ての制限をなくすのは心配だ。ただ、少しずつコロナ前のような学校生活が戻るのはいいことだ」と期待もにじませる。