日本にコンビニエンスストアが誕生して約半世紀。この間にさまざまに進化を遂げ、現代社会になくてはならないインフラの一つになった。
ところが、「令和」の新時代を迎えた2019年は、コンビニも転換期に入ったことを印象づけた。24時間営業や食品ロス、キャッシュレス決済に無人営業、自然災害時の対応などと、次々に問題が浮上して、その成り行きが注目されている。
「コンビニが日本から消えたなら」(渡辺広明著)KKベストセラーズ
現代はコンビニ史上初の大転換期
2019年にまず顕在化したのは、24時間営業問題だった。東大阪市のセブン-イレブンの加盟店オーナーが、フランチャイズの条件だった24時間営業を独断で止め、時短営業を開始。これに端を発して、オーナーと本部との間の「確執」が露呈した。
「日本一のコンビニ流通アナリスト」の著者、渡辺広明氏はこのオーナーと本部との対立を通じて、「日本のコンビニ45年の歴史において、2019年は初めてともいえる転換期を迎えている」ことを実感。「それは、これまで決して動かないと思われていたコンビニ本部がオーナー側に対して歩み寄りを見せ始めたこと」。コンビニ誕生以来初の地殻変動。業界ウォッチャーである著者の目には、現代では「全店が24時間営業を行う必要はない」のであり、時代に合わせた当然の成り行き、と映った。
コンビニ業界の売上高は一貫して伸び続けており、2008年から19年までの11年間では7兆8600億円から10兆9600億円に増加した。
ところが、1店舗当たりの売上高をみると、この11年間はほぼ横バイ。1日の売上高(日販)では、2012年の55万4000円をピークに減少傾向で、18年は54万3100円だった。
業界全体の売上高が伸びているのに1店舗当たりの日販が停滞しているということは、店舗数が増えて競合関係が強まり、1店舗当たりの来客数の減少を招いているということ。経済産業省の統計によると、2008年に4万889店舗だったコンビニは、18年には5万5310店舗に増えていた。
コンビニチェーン各社は、地域内の市場占有率を上げ、独占状況を築くためのドミナント戦略を展開。会社としては収益を向上しても、店舗レベルでは客の奪い合いが発生。このことも、オーナーと本部が対立する原因の一つになっている。
日本国内は、ただでさえも人口が2008年をピークに減少続き。店舗間の客の争奪戦は激化が見込まれる。
コンビニ独特の商慣習にメス
「深夜の来店客が少ないエリアでは、病院群輪番制のように深夜営業を行う店舗を限定する必要があるでしょう」と、著者。「民間競争に任せず、行政の介入やフランチャイズ法の策定によって、問題解決に早急に動き出すべき」と主張する。
コンビニ各社もそれぞれ、今後は24時間営業を減らしていく意向という。著者はまた、利用者に向けて「コンビニの時短営業に慣れていく必要がある」と述べている。
24時間営業・時短営業の問題と並んで、2019年がコンビニの「取り組み元年」となったのが食品ロスの問題だ。10月1日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行され、コンビニ業界独特の商習慣に疑問が投げかけられるなどの経緯があり、大きな変化が起こり始めている。
コンビニの食品ロスをめぐる焦点の一つは「賞味期限の迫った食品の値引き販売」だ。「コンビニ会計」と呼ばれる仕組みで、食品ロスを防ぐための値引き販売が行われると利益が減ってしまう本部はこれまで、その実施に否定的な考えを示していた。
ところが、食品ロスが社会問題となってから重い腰を上げ、各店舗に実行を促す方向で動き出している。
だが、値引き販売の解禁で本部が恐れている、もう一つのことは「価格競争が招くデフレ」だという。オーナーが自由に値引きをするようになると「一律サービスのコンビニ」というチェーンのイメージが崩れ、また価格を前面にした販売合戦で、利益度外視となれば「本部・オーナーともにもうからなくなる」という問題が出てくる。著者は各社の動向を、注視しているところだ。
身近な存在なのに意外と知らないエピソード
食品の廃棄をめぐっては、オーナーは別の問題に頭を悩ませているという。深夜の若者のアルバイトが、来店した友人に、廃棄商品の弁当をあげることから高じて、廃棄前の商品まであげてしまうなど、商品ロスを誘引する行動につながってしまう懸念があるのだ。
多くのオーナーは、健康被害の可能性を理由にアルバイトに対して廃棄食品の持ち帰りを禁じているが、それは表向きで、じつは想定外の商品ロス発生を防ぐためだ。
廃棄の持ち帰りOKとなるとアルバイトが「目当ての弁当を客に購入されるたら困る」と、回収時間前に弁当をバックルームに可能性がないとは言い切れない。一部店舗では監視カメラを設置するなどの対策を講じている。
著者の渡辺広明さんは、流通アナリストとしてのほか、マーケティングアナリスト、コンビニジャーナリストとしても活躍中。コンビニチェーンのローソンで店長、スーパーバイザー、バイヤーとして22年間勤務し、約730品の商品開発にも携わった。テレビ番組のコメンテーター、新聞、インターネットメディアでの連載執筆など、さまざまなメディアで活動している。
本書では「コンビニの未来図」として、ほかにセルフレジや無人店舗のデザインなどについてもレポート。働き方改革や、高齢化社会が進む中でのコンビニのあり方なども論じている。
また、「『成人誌』のコンビニ撤退背景」や「コンビニコスメの誕生」、たばこ離れがコンビニに与えた意外な影響についての報告も。身近な存在ながら、意外に知られていないエピソードも数多く盛り込まれている。
想像力を掻き立てられる、「コンビニが日本から消えたなら」のタイトルは、「消えるわけがない」を意味する反語という。
「コンビニが日本から消えたなら」
渡辺広明