コンビニが「焼き鳥」強化、何が起きようとしているのか

ファミリーマートが焼き鳥の本格的な販売に乗り出した。ローソンも2016年から焼き鳥を強化しているが、今後、コンビニ各社は総菜類の品ぞろえをさらに拡充していく可能性が高い。一方、国内でもじわじわと「UberEATS」や「楽びん」といったデリバリーサービスの普及が進んでいる。近い将来、デリバリーを軸に、コンビニなどの小売店と外食産業の垣根が消滅する可能性も出てきている。

[加谷珪一ITmedia

焼鳥強化の背景にあるのは市場の飽和

ファミリーマートは今月から、レジ横にある総菜売場を強化している。同社の主力総菜であるフライドチキン「ファミチキ」の販売を拡大するとともに、経営統合したサークルKサンクスで人気商品だった焼き鳥をラインアップに加える。さらに夏には天ぷらの販売も始める予定だという。

ローソンも焼き鳥のラインアップを強化している。2016年12月に、従来の焼き鳥と比較して20%増量した「でか焼鳥」の販売をスタート。人気商品である唐揚げと併せて、鶏肉関連商品の売上高を5割増にしたい意向だ。

photo ファミリーマートは焼き鳥などの総菜商品を、レジ横の大型のケース内で展開する

コンビニ各社が総菜類に力を入れている背景には、コンビニ市場の飽和がある。これまでコンビニ各社は売上高を伸ばすため積極的な出店攻勢をかけてきたが、その戦略もそろそろ限界に来ている。最近では、競合のみならず、同じグループ内で顧客を奪い合う状況となっており、各社の1店舗当たりの売上高はほとんど伸びていない。

こうした状況において、業績を拡大するためには、他の業態から顧客を奪ってくるしか方法はない。その方策の1つが焼き鳥など総菜類の充実ということになる。焼き鳥や天ぷらといったメニューが充実してくると、スーパーなど総菜を扱う他の小売店の顧客を獲得できることに加え、場合によっては居酒屋など外食産業からも一部の顧客を奪える可能性が出てくる。

外食産業の中でも、実は同じような動きが顕著となっている。牛丼チェーンの吉野家が、アルコール類やおつまみなど、いわゆる「チョイ飲み」のメニューを拡充したのも、居酒屋など他の業態から顧客を獲得するためである。チョイ飲み分野は、コンビニ、ファストフード店、そして居酒屋の3業態が入り乱れた状況だ。

背後では大きな地殻変動が起きている

こうした各社の動きは、単なる個別企業戦略の話にとどまらない可能性がある。消費市場に構造的な変化が生じており、近い将来、小売と外食の垣根が消滅する可能性が出てきたからだ。カギを握るのは、このところ急成長を遂げているITを活用したデリバリーサービスである。

スマホを使った配車サービスの最大手Uber(ウーバー)は、外食のデリバリーサービスである「UberEATS(ウーバーイーツ)」を2016年からスタートさせている。楽天も同様の配達サービスである「楽びん」を提供している。

ウーバーイーツは、提携する約500店舗(2017年4月時点)が提供するメニューの中から好きなものを選ぶと、指定の場所まで配達してくれるというもの。アプリでオーダーすると、画面には「準備中」「配達中」といったステータスが表示され、やがて配達員が料理を持ってくる。楽びんもほぼ同じサービスで、約300の店舗と提携(2016年12月時点)しており、希望の料理を自宅で楽しめる。

楽びんでは一部、コンビニからの配達にも対応しているが、コンビニが焼鳥などの総菜メニューを拡充することになると、デリバリーサービスの中においてコンビニと外食は完全に競合となる。デリバリーを頼む顧客にとっては提供するお店が小売店なのか外食なのかは関係ない。純粋に値段と味の問題になるので、市場のルールが大きく変わってくるのだ。

photo 「UberEATS(ウーバーイーツ)」

近い将来、外食と小売の垣根は消滅する

こうしたデリバリーサービスはまだ発展途上であり、全国どこでも利用できるという状況ではない。だが、ITを駆使した新しいサービスの潜在力は大きいと筆者は考えている。社会の動きが速い米国では、すでに外食産業に異変が生じている。

米国ではこのところ、ランチを食べにレストランに入店する顧客数が減少しているという(全米レストラン協会調べ)。日本と異なり米国は人口が増加しており、消費市場そのものは順調に拡大している。そのような中で顧客が減少するということは、市場構造の変化を疑う必要がある。

背景にあるのはIT化よる業務効率の高まりと考えられる。個人が自分のペースで仕事を進められるようになり、ランチをゆっくり食べることはせず、早く仕事を終わらせた方がよいと考えるビジネスマンが増えた。対面での仕事も減ったことで、商談目的のランチも減少しているという。ITを使ったデリバリーサービスの進展すれば、さらに外食のニーズは低くなっていくだろう。

一連の市場の動きに対して、外食産業が取るべき道は2つしかない。1つは、食事という「場」を提供する付加価値の高い業態にシフトする方法。もう1つは、デリバリー市場の拡大を受け入れ、メニューや価格体系、コスト構造を変えるというやり方である。

米マクドナルドや米ウェンディーズといったファストフードやファミリーレストラン各社は、相次いで宅配メニューを拡充し、新しいニーズに対応しようと試みている。

米国におけるこうした動きは、日本にも確実に波及してくるだろう。吉野家が、デリバリーサイトの出前館と提携し、1部店舗で出前サービスを始めるなど、既に動き始めているところもある。

デリバリーをめぐって外食と小売が顧客を奪い合うことになると、店舗の立地に対する概念も大きく変わってくるだろう。売上高の多くをデリバリーが占めるようになれば、わざわざ高いコストを払って好立地の場所に出店する必要はなくなる。これから先、10年の間に、外食産業や小売店に関する基本的な価値観が全て塗り変わっていたとしても、筆者はまったく驚かない。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。

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