コンビニは失われた20年の象徴? 低賃金が支える「社会インフラ」は適正か

2019年はコンビニ業界にとって節目の年になりそうだ。セブンイレブンとファミリーマート本部が、フランチャイズ(FC)加盟店との団体交渉に応じるべきかどうかについて、中央労働委員会(中労委)の判断が下る見込みだからだ。

いずれも地労委では、応じるべきとの命令が出ており、本部が不服を申し立てていた。

オーナーが団交を求める背景には、過酷な労働環境がある。近隣に店舗を密集させる「ドミナント戦略」などで、コンビニが飽和する一方、最低賃金は毎年引き上げられており、加盟店は難しい運営を余儀なくされている。

コンビニ加盟店ユニオンによる書籍『コンビニオーナーになってはいけない』(旬報社)の出版記念シンポジウム(2018年12月1日)から、現場で何が問題になっているのか整理したい。 ●オーナーの死亡率、「通常残業省」の3倍?

まず問題になるのが、労働時間だ。一部の複数店経営者をのぞき、多くのコンビニオーナーは、他のスタッフと同様、店頭に立つ。

近年は、最賃の引き上げによる人件費の高騰や、そもそも働き手が集まりづらいことなどもあり、オーナー自身の稼働が増えやすい。利益が出なくても、契約期間は10年ほどあり、途中解約には違約金が伴う。辞めるのも容易ではない。

社会保険労務士の飯塚盛康さんはこうした中、オーナーの過労死リスクが高まっていると指摘する。

飯塚さんはセブンイレブンの共済会資料を分析し、2012年7月1日〜13年6月30日に43件(計9億1100万円)の弔慰金が払われていることに着目。死亡率は、飯塚さんのかつての勤務先で、激務から「通常残業省」とも揶揄される経産省の3倍ほどと試算した。

当然、すべてが過労死かは定かではない。そもそも、FCオーナーは労災の適用外とされ、公的な数字が出て来ない。しかし、言い換えれば、「本部が数字を出さない限り、闇から闇」(飯塚さん)ということでもある。

休みがとれないオーナーは珍しくなく、現状の労働環境が改善されない限り、「命と健康が惜しかったら、コンビニオーナーになったらいけない」と飯塚さんは話す。 ●コンビニ独自の会計方法

オーナーの労働時間を短くするためには、利益が必要だ。しかし、店舗にノウハウを伝えるはずの社員(OFC/SV)の能力にはバラつきがある。

本部社員にノルマが与えられていることもあり、「本部のセールスマン」にしかなっていないことも珍しくない。商品を大量に発注させるだけだったり、ひどいときは勝手に発注をしてしまったりすることもあるという。

商品を大量に並べれば、売上はあがる。ただし、オーナーの利益になるとは限らない。チャージ料を計算するとき、そのベースとなる粗利益(売上−仕入原価)から、売れ残りの仕入れ代は除外されてしまうからだ。

一方で、売れ残りを減らそうとしても、本部側は価格を下げる「見切り販売」によい顔をしない。 ●仕入れ値の高さ、ぬぐえない「中抜き」疑惑

大量発注にはもう1つ問題がある。仕入れを「代行」する本部は、スケールメリットがあり、本来は安く商品を仕入れられるはずだ。しかし、仕入れ値が近所のスーパーの売価より高いことがままあるという。

公認会計士の根本守さんは、「かかっているコストをなんらかの形で仕入れ先に負担してもらっている可能性がある」と指摘する。帳簿からは見えない「リベート」があるかもしれないということだ。

もちろん、仕入れそのものが安くできても、配送や保管コストがかかることも考えられる。しかし、その内訳が開示されないため、「中抜きされているのでは」とオーナーの不信感は募る。

コンビニ業界では2016〜17年にかけて、ファミリーマート、山崎製パン(デイリーヤマザキ)、セブンイレブンの3チェーンに対して、下請法違反で公正取引委員会の勧告が出ている。

商品の製造委託先(ベンダー)に対し、キャンペーン費用などの負担を求め、支払いを不当に減額していたというものだ。

経済ジャーナリストの北健一さんは、「ベンダーは仕入れてもらう客(コンビニ本部)に対し、身を切って便宜を図っていたということ」と述べ、リベートの存在を推認させる事案との見解を示した。 ●「労働者」になりたいわけではない

日本にはフランチャイズ(FC)を規制する法律がなく、脱サラオーナーと日本有数の大企業は法律上は対等関係になる。しかし、交渉力が違うのは明らかだ。

コンビニ加盟店ユニオンはだからこそ、「点」ではなく「面」としての団交を通じ、チャージ料の減額などを求めている。

中労委では、ユニオンにその団交の権利があるかどうかが争点になる。オーナーが労働組合法上の「労働者」と言えるかということだ。

一方で、「労働者」という響きを嫌がるオーナーもいる。経営者になりたいから脱サラしたのに――といった具合だ。実際、オーナーの中には複数店舗を経営したり、自分の土地で開業したりすることで大きな利益をあげている人も一部存在する。

この点について、ユニオンの副執行委員長も務めた元オーナーの三井義文さんは、「日本の法制度では、団交するには労働組合法しかない。『労働者』になりたいということではない」と説明した。

ユニオン顧問の中野和子弁護士も、「事実はいろんな側面を持っている。労働者だろうが、経営者だろうが、使えるものは使えばいい。大事なのは、本部に『今までのやり方ではダメだ』と気づかせること」と強調した。

オーナーとしては、「経営者」としての自負もある。一方で、店の「看板」やシステムを利用するためのチャージ料は払っているのだから、割に合わない部分は、社会・経済状況も考慮して、改めてほしいという。

現在のFC保護は手薄と言ってよく、日本大の大山盛義教授(労働法)は、「救済を求めても『サインしたでしょ』『契約の自由でしょ』と言われてしまう」と説明する。

こうした状況で、仮にコンビニオーナーが労組法上の労働者でないと判断されれば、FCを規制する法律の必要性はかえって高まると言えるだろう。 ●最賃バイトが支える「社会インフラ」…失われた20年

日本フランチャイズチェーン協会の調査によると、コンビニの数は1990年度末に約1万7000店だったのが、2010年度末に4万3000店に増加。景気が低迷する中、高い成長を遂げてきた。しかし、ここ数年は5万8000店ほどで、足踏み状態となっている。

大山教授は、そんなコンビニを日本の「失われた20年」の象徴だと言う。

「日本から長時間労働がなくならない。夜11時、12時に会社を出ても、スーパーは閉まっているが、コンビニは開いている。朝早く会社に行くときもコンビニで弁当を買っていける」(大山教授)

もちろん、便利さは「功」でもある。一方で、どんなに遅くても買い物ができることは、労使双方に「遅くまで働ける」という意識をもたらしたと言えるだろう。

大山教授はさらに、コンビニ周辺の労働環境にも言及する。

「工場や配送業者が過重労働になっている。アルバイトも低賃金。最賃は法律で上がっていくから、オーナーが利益を出そうとしたら人件費を削るしかない」

低賃金の労働者が長時間働くことで、過剰サービスを支えるーー。平成不況の中で増えたそんな働き方は、最賃の上昇などの中、転換点に立たされているのかも知れない。

本部としても、加盟店を支援していないわけではない。しかし、オーナー側が交渉のテーブルにいないままの決定は、「生かさず、殺さず」を大きく超えるものにはなりづらい。「本部だけは今のシステムでなんらデメリットはない」(大山教授)からだ。

コンビニでできることは年々増えており、2019年は災害時に存在感を示すことも多かった。一方、元オーナーの三井さんは次のように問いかける。

「(コンビニという)『社会インフラ』を支える現場は、最低賃金のアルバイトで成り立っていますよ。これをインフラと呼んでいいんでしょうか」

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