コンビニ弁当で密かに「チルド化」が進む納得理由 丼ものや麺類中心から技術改良で種類が拡大中

コンビニの弁当コーナーが密かな変化を見せている。

おにぎりが並ぶ常温ケースの下の棚に置かれている弁当の数や種類が、以前と比べて減少。その代わり、丼ものや麺類が中心だった冷蔵ケース内に置かれる弁当が増えているのだ。

おにぎりの下の棚にある弁当は「常温弁当」と呼ばれ、20℃程度の温度帯で管理される。一方、5℃程度の温度で管理されている冷蔵ケース内の弁当は「チルド弁当」と呼ばれる。冷蔵されているため、「電子レンジ専用」と注意書きが付されている。

コンビニ大手に弁当や総菜などを卸すベンダー会社によると、「チルド弁当の納入数が増えており、2022年度には常温弁当と数が逆転する見込み」だという。

以前のカツ丼は”モドキ”だった

「カレーや丼ものなどのようにご飯とおかずがつねに触れている弁当は、常温だとべちゃべちゃになってしまう。それがチルドなら半熟の卵も使える。チルド弁当が登場する以前のカツ丼などは、正直”モドキ”だった」

セブン-イレブン・ジャパン商品本部の笠石吉美デイリー部長は、チルド弁当の登場でコンビニ弁当のおいしさが増したと話す。

消費者の気にする健康面でもチルド弁当に分がある。常温弁当では保存用の添加物を一定程度使わざるをえないうえ、消費期限を延ばすために塩分や砂糖が多めに使用されがちだ。

店舗サイドからすると販売上のメリットは大きい。商品にもよるが、常温弁当の消費期限は店に到着してから20時間前後。対するチルド弁当の消費期限は1日半~3日程度と長い。購入されるチャンスがそれだけ増え、廃棄ロスの削減につながる。店頭に並べられる時間が長くなることで、ラインナップが薄くなりがちな深夜帯にも一定の品ぞろえを確保できる。

チルド弁当が増えれば、製造コストの引き下げにもつながる。セブンの場合、消費期限の短い常温弁当は1日に3回店舗に配送され、工場から配送できる距離に限界がある。一方のチルド弁当は1日1回の配送が基本で、遠方への出荷が可能。結果として生産体制を集約化できるため、製造効率が向上するのだ。

あまたのメリットがあるにもかかわらず、2021年までチルド弁当の大半は丼ものか麺類に限られていた。ご飯ものの中心が丼ものだったのには理由がある。チルド化した際の弱点を克服しやすかったからだ。

「冷蔵はご飯がつねに老化していく状態。レンジにかけた際にどうしても米粒が割れてしまう」(笠石部長)。そこで具材とご飯を上下に分けた二重の容器を採用した。レンジで加熱した際、下のご飯の容器に蒸気がこもってコメが蒸されるため劣化しにくい。笠石部長は「開発に3年ほど要した。最後まで社内でOKが出なかったのがご飯だった」と振り返る。

ところが、2021年からセブンが販売を始めた「たんぱく質が摂れる」シリーズは、おかずの鶏肉の横にご飯が盛り付けられている。これもチルド弁当だ。状況を変えたのは味の素が販売している酵素だと、笠石部長はいう。酵素はご飯に天然の粘りを出す。

「丼もののチルド弁当が最初に登場したのは2009年頃。その頃から数えて(味の素の酵素は)すでに10代目くらい。今回の改良で、(1つの容器の中で)ご飯とおかずが分かれているタイプのお弁当でもご飯の美味しさをキープできるようになった」(笠石部長)

加えてセブンでは、低アミロース米という粘り気の強いコメを配合。粘りを強めて、ご飯を保護しているという。同社は今後、ご飯とおかずを盛り付けたチルド弁当のラインナップをさらに増やしていく方針だ。

チルド化が難しいのは「幕の内弁当」

進化を続けるチルド弁当にも死角はまだある。幕の内弁当など具材数の多い弁当だ。

具材によってレンジ加熱に必要な時間は異なる。ある具材は熱すぎるほど温まっているのに、ほかの具材はまだ冷たいといったケースは、多くの人が経験していることだろう。レンジ加熱が必須のチルド弁当で、この問題をどうクリアするか。加熱時間が延びるほどご飯の味も落ちていく。

具材が増える分だけ、製造工程では人の手もかかる。人の手で具材を詰めると、それだけ衛生面の維持が難しくなる。結果として消費期限を延ばすハードルも上がる。セブンではカツ丼などの卵とじを行う丼もの専用ラインを開発し、人の手が入る工数を大幅に減らすことで消費期限の長期化を図っているほどだ。

徐々に広がってきたチルド弁当。さらなる進化へ、コンビニチェーンが開発にしのぎを削る状況が続きそうだ。

中野 大樹:東洋経済 記者

タイトルとURLをコピーしました