大手コンビニが相次いで成人誌販売の中止を発表している。この決定を歓迎する声の一方で、成人誌の存続を危惧する声も上がっている。そんな中、「チャンスにしなくてはいけない」と語るのは、成人誌やアダルトビデオ(AV)を扱う東京・神保町の老舗専門書店「芳賀書店」の芳賀英紀社長(37)だ。コンビニと違い18歳未満は入店できない書店に商機はあるか−−。【中嶋真希】
古書店が並ぶ神保町に芳賀書店はある。シンプルな外観で、店内に入らない限り過激な写真やタイトルが目に触れることはない。入り口の自動ドアも、中が見えないように色がついている。一時期は入り口にアダルト商品のポスターを張っていたこともあったが、「入り口であおるよりも、中身で勝負したいと思ってやめた」と芳賀社長は言う。
店内は1階から3階までぎっしりとAVのDVDや雑誌が並ぶ。取り扱うのは、DVD5万点、雑誌や書籍は毎月3000冊、アダルトグッズ200点。戦前から続く老舗で、1936年に巣鴨で創業し、戦後は神保町に移転。かつては出版部門もあり、67年には、寺山修司の「書を捨てよ、町へ出よう」を出版。70年代には、団鬼六の「花と蛇」シリーズの初版も手がけた。芳賀社長は21歳で3代目トップに就任した。
セブン−イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマートが今年8月末までに成人向け雑誌の販売を原則中止すると発表したが、専門書店として「これをチャンスにしていかなくてはいけない」と芳賀社長は話す。「おすすめの作品を聞かれたり、『この時代の女優は良かったよね』と話しかけられたり。『また来るよ』と言ってくれる人もいる。店に足を運ぶ人は、会話を求めている」と、実店舗ならではの良さがあるという。「その代わり、これからの専門書店は百貨店のような質が求められる。信頼度が高くないと、成人誌はもう売れない」と意気込む。
◇「解決に向かう姿勢見せなかった」
芳賀社長は、コンビニで成人誌が売られていることに対し、「人には『今はエロを目に入れたくない』という時があるのでは。いつでも入れるコンビニで売ることで、迷惑もかけていると思う」と話す。「数年前からコンビニで成人誌の販売ができなくなるのではと言われており、出版社には今のうちに売っておこうという思いがあったのではないか。表紙のインパクトで手に取ってもらうビジネスになってしまった」と残念そうに話す。「出版社は解決に向かう姿勢を見せずに『コンビニで売れない』とまるで被害者のように振る舞っている」と手厳しい。
「エロは安心感があってなんぼ。ヘビーユーザーほど、落ち着いた映像を求める。それなのに、最近は目にストレスがかかるような明るい写真や映像が使われていることが多い」と芳賀社長。「落ち着いた表紙にすれば、コンビニに置いてもらう余地もあったはず」と指摘する。
◇問われる成人誌の質
コンビニで販売されなくなれば、書店の売り上げが伸びる−−。そう簡単にはいかないのが現状だ。最近の成人誌には付録としてDVDがついており、DVD目当てで買う客も多い。店内にある廃棄ボックスに、買ったばかりの雑誌がDVDだけ抜いて捨てられていることもある。「雑誌ではなく『安いDVDが買える』という感覚。こうなってしまったのは、自分たちのせいでもある」と芳賀社長は言う。
一方で、客からは「高くてもいいからいいものが欲しい」という声がある。「雑誌のデフレ化を防ぐのが、これからの専門書店の役割」と芳賀社長。「『エロならなんでも売れる』時代は終わり。おもしろそうだから買ってもらうという時代にしていかないといけない」。そのためには、値上げしてでも実力のある書き手をそろえ、質を上げていく必要がある。
「日本は、ポルノ先進国でありながら、性教育では大きく遅れている。女性が商品化されることで、どんな気持ちになるのか、男性はしっかり考えていかなくてはならない」と芳賀社長は指摘する。「カップルで読める成人誌や、健康としての性の情報を盛り込んだ雑誌があってもいい。一方的に『女性はこうすれば口説ける』という情報だけでなく、それに対する女性の感想も載せるというのはどうか。女性目線の男性向け成人誌があってもいいと思う」と芳賀社長のアイデアは止まらない。「どんな成人誌がいいのか、出版社と話し合っていきたい」と、前向きに捉えていた。