佐野研二郎氏(43)の作品が選ばれた2020年東京五輪エンブレムの選考コンペに応募したデザイン関係者が1日、日刊スポーツの取材に応じ、「佐 野氏ありきの選考」が、今回の事態を招いたと振り返った。組織委員会からは、佐野氏のデザインが選ばれた後、通常のコンペならある連絡すらなかったとい う。「広告代理店がデザインを『カネ化』し、デザイナーもそのいいなりになってきた日本デザイン界のうみを、これを機に全部出し切った方がいい」とも指摘 した。
取材に応じたデザイン関係者は、当初から五輪エンブレムのコンペが、通常と違うと感じていたと話す。
「通常なら、選ばれなかった側にも『こういうデザインに決まったが、引き続き協力をお願いしたい』という連絡くらいある。しかし今回、組織委員会か らの連絡は全くなかった」という。「応募したほかの103人のデザイナーに、最低限の礼儀もなかった。修正してまで、佐野氏のデザインに決めた。その段階 で、佐野氏と我々は平等ではないと思った」と振り返り、「佐野氏ありき」のコンペだったとの見方を示した。
佐野氏は「プレゼンがうまい」印象があるという。その上で「この30年くらい、デザインコンペは広告代理店中心に動いている。デザイナーも、代理 店の意のままに動くようになってしまった」と話す。「お金になればいい、と要求がエスカレートする代理店に、これまで佐野氏はうまく乗ってきたのではない か。代理店にとっても、使いやすいのだろう」と推測する。
「一番残念なのは、日本を代表するメンバーが審査委員に名を連ねながら、今回の選考を許したことだ」とも指摘した。「本来デザインは、コンセプト やストーリーを考えて決めるべきだ。今回は今後の展開も含めて、お金になりやすい、お金を生みやすいものが選ばれた」と、審査過程にも疑問を示した。
審査委員代表の永井一正氏について「純粋にデザインを考えてきた方だが、今回は周囲に押し切られたのでは」。64年大会のエンブレムをデザインし た亀倉雄策さんを引き合いに「デザインで国を良くしたいという思いが根底にあり、当時はデザイン界にもモラルがあった。それが変わってしまった。代理店が ベースになっている流れを変えるべきだ。亀倉さんは今ごろ泣いているのではないか」。
1日の組織委の会見も「上から目線で、国民の方を向いていない」と感じた。新しいエンブレムは「国民目線で、国民に愛されるものを選んでほしい」と期待を込めた。【中山知子】
◆選考経緯 昨年11月、104人が参加したコンペの審査会を2日間にわたって、作者名を伏せた状態で、永井一正氏ら8人の審査委員が残したい作 品にチップを置いていき、絞り込み。初日に104→37、37→14と選出。2日目に14→4に絞られ、最終投票で佐野氏のデザイン案が4票を得て決定し た。しかし類似調査から2度の修正が発生し最終的に4月7日に決定。組織委が約3カ月かけて正式な国際的商標調査を実施し審査委員8人のうち7人の了承を 受け、7月24日に発表した。