日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕された事件で、ほかの役員の報酬の一部が同容疑者に流れていた疑いがあることが20日、関係者への取材で分かった。同容疑者には役員への報酬額を配分する権限があったとみられ、その分を有価証券報告書に記載しなかった可能性もある。

日産は株主総会で役員報酬全体の上限は約30億円と決議されていた。だが、実際に支払われた報酬額は毎年10億円超少なかった。ゴーン容疑者には役員への報酬額を配分する権限があったといい、差額の一部を同容疑者が追加で受け取り、その分を有価証券報告書に記載しなかった可能性がある。

有価証券報告書で開示が義務づけられているのは年間1億円以上の役員であるため、同容疑者以外の大半の役員報酬は外部からは分からない。この疑惑が事実なら、超過少記載は私腹を肥やすためだったことになる。

ゴーン容疑者はともに逮捕された日産の代表取締役グレゴリー・ケリー容疑者(62)と共謀し、2010年度から5年間の報酬総額が約99億9800万円だったのに計49億8700万円と偽って有価証券報告書に記載したとされる。

また、ゴーン容疑者が日産側にブラジル、レバノン、オランダ、フランスで住宅を提供させていたとみられることも判明。日産がオランダに設立した子会社が購入費などを負担したが、同容疑者が無償で利用していた疑いがある。

住宅があるブラジルのリオデジャネイロは幼少期まで過ごし、レバノンのベイルートは幼少期から高校まで過ごした都市。ほかにも仏パリでは大学時代や大学卒業後を過ごしていた。

購入費などは数十億円にのぼるとみられるが、有価証券報告書には報酬として記載されていなかった。東京地検特捜部は、ゴーン容疑者への不透明な金の流れの実態解明を進める。また、ゴーン容疑者が家族旅行の代金や飲食代などを日産側に負担させていた疑いがあることも判明した。

今後、ゴーン容疑者らは業務上横領や特別背任などの容疑で立件される可能性もある。

ただ、特別背任は会社へ損害を与える意図があったことを立証する必要があり、立件のハードルは高い。さらに海外子会社を使った取引は金額の確定などが難しく、司法権の及ばない海外での捜査は難航も予想される。

ゴーン容疑者は海外で生活する時間が多いが、日産の西川広人社長はゴーン容疑者が所得税について「日本で納税していたと思っている」と話している。

今後は過少申告した巨額報酬が適正に税務申告されていたのかといった点も焦点となりそうだ。