東京地検特捜部に逮捕された日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)は、民事でも責任を追及されることになりそうだ。日産が損害賠償請求訴訟を視野に入れるほか、有価証券報告書の虚偽記載などで株価が下落、損失を被った株主が訴訟を起こす可能性もある。過去には経営者に巨額の賠償命令が出た例も少なくない。法曹関係者は、ゴーン容疑者への請求は「100億円を超える規模になり、判決によっては、破産するような賠償額となる可能性もある」と強調する。
ゴーン容疑者をめぐっては、役員報酬の過少記載のほか、私的な目的で日産の投資資金や経費を支出したという不正行為があったと日産側が指摘している。
会社の費用で購入したブラジル、フランス、オランダ、レバノンにある高級住宅を無償で利用していたとされるほか、家族旅行や飲食代金などが会社から支出されていたという。
日産は、こうした利益供与が違法と判断できれば、民事手続きで賠償を求めていく方針だ。
高橋裕樹弁護士は、「会社代表者であれば自宅経費の何割かは計上できるうえ、オフィス、社宅として借り上げる例も一般的なので、現時点ではどこまで請求できるかは不透明な部分もある。住宅購入時点で100%私的利用であれば、購入費用の賠償も考えられるのではないか」と解説する。
そして、民事での責任追及で「最も大きい額になりそうなのは株主からの賠償請求ではないか」と高橋氏はみる。
ゴーン容疑者が逮捕された19日、欧州の株式市場では、日産株の約43%を保有するルノー株が一時、15%の下落に見舞われた。
翌20日の東京市場でも日産株は一時、6・5%安を記録、取引時間中として約2年4カ月ぶりの安値を付けた。日産傘下でゴーン容疑者が会長を務める三菱自動車株も一時、7・8%下落した。高橋氏はこう語る。
「株価の下落で損失が生じた株主は損害賠償請求訴訟を起こすことができる。株の価格は毎日変動するうえ、さまざまな要因で上下するので、下落した分がそのまま賠償額となる可能性は高くないが、株価が平均で5%程度落ちたと仮定すれば、損害賠償の額は100億円を上回る可能性もある」
2004年の西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載事件では、個人株主や機関投資家らが総額370億円の損害賠償を求める訴訟を起こし、東京高裁で西武側に計約46億円の支払い命令が出た。
株価下落による損害額の算定について最高裁は11年、「株主の株取得価格と売却価格の差額から、虚偽記載公表前の市場動向などによる下落分を差し引いた額」との判断を示している。
オリンパスの巨額損失隠し問題で同社の株価が下がって損失が出たとして信託銀行6行が損害賠償を求めた訴訟では、今年7月にオリンパスが約190億円を支払うことで和解した。これとは別にオリンパスと株主が旧経営陣に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は昨年、元社長ら6人に総額590億円の支払いを命じた。
ゴーン容疑者をめぐっては東京地検特捜部の捜査や日産の内部調査によって、さらなる不正が発覚することもありうる。また、日産とルノー、三菱自のアライアンス(3社連合)資本構成の行方も不透明感を増しており、株価に悪影響を与える恐れもある。
ゴーン容疑者が3社から得ていた報酬は10年から17年間の8年間で、公表されているだけで約133億円、約80億円を加えると、約213億円にのぼる。15年に離婚が成立した前妻と財産分与を行っている。
さらに、株主や会社からの賠償請求など、ゴーン容疑者の今後の出費はかなり大きなものになる可能性があると前出の高橋氏は見込む。
「(ゴーン容疑者に対して)追徴課税も入ることもありうるうえ、損害額が大口の株主が集団訴訟をしてくることも考えられる。最悪のケースでは破産するような賠償額になる可能性も否めない」