ササニシキの食味継承 有望株「東北194号」冷害への強さプラス

 かつてブランド米として一世を風靡(ふうび)した「ササニシキ」。宮城県で誕生し、「宮城=ササニシキ」のイメージがあったが、冷害に弱く栽培が難しいことなどから作付けが激減した。だがササニシキには根強い需要があることから、宮城県古川農業試験場(大崎市)はササニシキの食味があり、冷害に強いひとめぼれのような栽培しやすい新品種の育成に取り組み、「東北194号」を実らせた。デビューに向けた準備が進められており、関係者はササニシキの食味を受け継ぐ“新人”の登場に期待を寄せている。(石崎慶一)
 ササニシキとひとめぼれを生み出した古川農業試験場では平成13年、ササニシキを母、ひとめぼれを父に人工交配。栽培を重ねて世代を進め、食味がササニシキに一番近いものを絞り込み、19年に東北194号の試験番号が付けられた。試験場内のほか、20年からは県内農家の水田で県の奨励品種決定の判断材料を得るための試験栽培も行われている。
 ササニシキの食味に近いものの選抜は、コメの食味鑑定の第一人者のいる農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所(茨城県つくば市)と共同で取り組んだ。炊いたご飯の表面の硬さや粘りを機械で計測、ササニシキに近い食味のものを選んだ。
 ともに銘柄米のササニシキとひとめぼれの系統を引く東北194号は、いわばコメの世界の“サラブレッド”。だが「本当は掛け合わせてはいけない組み合わせ。互いに弱点が多すぎる。こうした中で東北194号を得られたのは、いろいろな面で運がよかった」。試験場作物育種部の永野邦明部長はこう語る。
 全国で主流を占めるコシヒカリ、コシヒカリ系の食味の特性は「粘り」。一方、少数派のササニシキは「あっさり」した食味が特徴。だが、その食味や冷めてもおいしいことなどから、寿司(すし)や和食の業界で引き合いがある。試験場ではこうした店にサンプルを送り、試してもらっている。「東京の大手寿司店からは『文句のつけようがない。ササニシキ以上』との評価をもらった」と永野部長。
 ササニシキの県内の作付比率(21年産うるち米)は9・2%と1割を切っている。全国的にはわずか0・6%と、いまでは「希少価値」のコメとなっている。かつては全国第2位の作付面積だったが、なぜ減ったのか。「ササニシキは気象変動に弱かった」と永野部長は指摘する。
 ササニシキはブランド米としての地位を確立していたが、昭和55年以降、冷害がたび重なり、良質米を安定供給できなかったことから、消費者や卸売業者の評価を下げた。「55年の冷害でササニシキの弱点が暴露された」(永野部長)
 これを契機に試験場では、冷害に強い品種開発について根本から見直し、その結果、生まれたのが平成3年にデビューした「ひとめぼれ」だった。昭和56年に冷害に強いコシヒカリと初星を交配して育成され、63年、平成5年の冷害で強さを発揮。ササニシキからひとめぼれへの作付け転換が急激に進んだ。6年には全国の作付面積第2位に躍り出て、ササニシキとの立場を逆転した。
 こうしてササニシキは少数派となったが、栽培しやすいササニシキタイプの品種が登場すれば、その食味への需要が再び広がる可能性はある。県農林水産政策室は「コシヒカリと違う食味なので、商品としてブレークする要素はある。ネーミングを含め、どう売っていくか、検討していく。ブランド力のあるコメにしたい」と期待する。
 県は今年度、農水省へ品種登録を申請する方針で、県の奨励品種とするかどうかの検討も行う。商品化では、県の農商工連携プロジェクトとして取り組むことになり、今年はセールスに向けて2ヘクタールで栽培される。来年以降、販路を開拓するなどして、数年後に「まとまった面積の作付けができれば」(県農林水産政策室)としている。
 ■コメの全国作付比率 農水省によると、平成21年産うるち米の全国の作付比率のトップはコシヒカリ(主要産地新潟、栃木、福島)で37・3%。2位はひとめぼれ(同宮城、岩手、福島)の10・6%。東北関連では、あきたこまち(同秋田、岩手)が7・8%で4位、はえぬき(同山形)は2・8%で7位、つがるロマン(同青森)は1・6%で9位。まっしぐら(同青森)が1・3%で10位。ササニシキ(同宮城、山形)は0・6%で18位。

タイトルとURLをコピーしました