私事で恐縮だが、私の田舎は新潟県妙高市である。
ここら一帯ではタケノコというと、おもに「ネマガリタケ」という笹の一種を指す。5~6月頃に収穫する、季節の山菜である。とはいえ収穫後はビン詰めにして保存するので、ストックさえなくならなければ年間を通して食べられる。
田舎に帰る楽しみのひとつともなっている、いわば故郷の味だ。
このネマガリタケ、我が家に限らず、周辺一帯では味噌汁の具として使われている。小さい頃から食べているので「タケノコの味噌汁」といえば、このネマガリタケの味噌汁だと思っていた。普通のタケノコの味噌汁を食べたときは、たいそう驚いたものである。
「で、いつになったら長野とかサバ水煮の話になるんだよ!」
とイライラしている方も多いだろうから先を急ぐが、この味噌汁は実は新潟ではなく、長野の郷土料理としてよく知られている。私の田舎の妙高市は長野と新潟の県境に位置しているので、長野の文化圏と重なる部分が多々あるのだ。
ネマガリタケの味噌汁には、ほかに溶き卵、タマネギ、ジャガイモなどの具が入る。これらの具は家庭によって多少内容が異なるのだが、必ずどの家庭でも共通して投入される具がひとつだけある。それこそが、何を隠そう「サバ水煮」。ネマガリタケの味噌汁とサバ水煮は、切っても切れない絆で固~く結ばれているのだ。
味噌汁にサバというと違和感を覚える方も多いだろうが、なかなかどうしてサバの脂とうま味が味噌汁にたっぶり溶けこんで、得も言われぬおいしさになる。サバ節なんてものもあるくらいだし、そりゃあいいダシが出るのも道理だわい。
サバの身も食べ応えがあり、これもネマガリタケの味噌汁の楽しみのひとつだ。
噂によれば、このネマガリタケの味噌汁を長野県民が作りまくってしまうため、なんと海がないのに長野県はサバ水煮の年間消費量が日本一だというではないか。
私は思った。「これが本当だったら、ネマガリタケの味噌汁すごいじゃないか!」
と。だから水産加工品の大手メーカー、マルハニチロホールディングスにホントのところを聞いてみた。
今回の取材に快く応対してくれたのは同社の広報担当さん。
まず同氏から発せられたのは、予想外のお言葉であった。
「社内資料なので数値などは申し上げられませんが、弊社のグループ会社・マルハニチロ食品から発売しておりますサバ水煮の缶詰『月花』に関して言えば、年間消費量がもっとも多いのは東京都ですね」
え~。違うじゃん、ヤバいじゃん。打ちひしがれる私。
しかしマルハニチロ食品は私を見捨てていなかった。絶望的な気持ちになっていたところ、彼の口からさらなる言葉が!
「ただし一人あたりの市場規模が一番大きいのは長野県です。次いで秋田県、青森県、そのあとに同率で岩手県と新潟県ですね。長野県では、ネマガリタケの味噌汁を作るために大量消費されていると思われます」
気持ちは一転。
やったー! 長野、日本一じゃん! これでネタとしても成立するぞ~!
ちなみに一人あたりの市場規模で比較すると、長野県民は東京都民の5倍ものサバ水煮の缶詰を消費している計算になるというから、こりゃすごい。
今回取材にご協力いただいたマルハニチロ食品が生産しているサバの缶詰「月花」は、昭和30年代から生産され続けているロングラン商品。DHA、EPA、カルシウムを豊富に含んでおり、健康な体づくりにもオススメだというし、成長期のお子さんとかにもよさそうだ。
「サバ水煮の缶詰をお義母さんからもらったけど、使い方がわからな~い!」
という主婦の皆さん。扱いに困ったら、とりあえず味噌汁に入れちゃいなさい。
きっとおいしくなるはずですよ。絶対にハマります。
そして実際に試してみたら、お義母さんにも教えてあげましょう。
株が上がるかもしれません。
(新井イアラ)