サラリーマンの強い味方、ワンコインランチ-。オフィス街の路上で販売されるこの弁当について、東京都が今秋から規制強化に乗り出す。クーラーボックスな どによる温度管理を義務付け、届け出制だった販売を許可制にする。“食の安全”を守るための対策だが、業者にとってはコストが膨らみ、「廃業せざるを得な い」という声もでるなど、安さと手軽さがおびやかされる事態も。「ランチは500円まで」と節約を続けるサラリーマンの懐を直撃する可能性も出てきた。 (小林健一)
■「店をたたもうか…」
「からあげ弁当、ハンバーグ弁当、ロコモコ丼。どれも500円!」。東京・東品川のオフィス街には昼時になると、威勢のいい声が響く。
オフィスビル沿いの路上には弁当を乗せたリヤカー3台が連なり、弁当業者が行き交う会社員を呼び止めていた。
「多いところでは1日に80個のお弁当が売れるよ」
3年前からここで弁当を路上販売する三田尚人さん(39)は笑顔を見せる。周辺の飲食店のランチは1千円以上というケースも多く、安くて手軽が人気の秘訣(ひけつ)だ。
ただ、今年10月からの都の規制強化が気がかりといい、「食品衛生の免許取得にもお金がかかる。温度管理のコストもどれだけかかるか見えない」とし、 「店をたたもうかと思っている。とにかく安さを売りにここまで頑張ってきたのに、お客さまには申し訳ない」と肩を落とした。
■行政上は「行商」扱い
都によると、台車やリアカーを使った路上の弁当販売は平成10年ごろから、23区のオフィス街を中心に目立つようになった。
行政上は豆腐販売などと同じ「行商」扱いとなり、保健所に届け出をすればだれでも営業できるが、炎天下で販売するケースも多いことから、衛生面への懸念もあった。
都が25年夏、都内の260業者を調べたところ、約6割にあたる158業者が保冷容器を使わず、プラスチック製の衣装ケースなどに入れて運搬していた。 都食品監視課は「日なたで販売すれば、温度管理が不十分になり、食中毒のリスクが増える。夏場は特に危険だ」などとし、2月議会に温度管理の厳格化などを 盛り込んだ条例改正案を提出し、可決成立させた。
今年10月の施行後は、路上での弁当・総菜販売を「弁当等人力販売業」と定義し、許可制にするほか、販売時には食中毒防止の講習を受けた「食品衛生責任 者」の設置を義務付ける。また、弁当をクーラーボックスなどの保冷容器に入れ、容器から取り出しての陳列販売も禁止する。無許可で路上販売した場合、6カ 月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。アイスクリームやラーメンなどは対象外だ。
■「食の安全も大事」
新生銀行の平成26年調査によると、全国のサラリーマンの昼食代の平均は男性が541円、女性が512円。ワンコイン(500円)が中心の路上販売がなくなれば、節約志向のサラリーマンには“痛手”となる。
都の規制強化については、これまで路上販売の弁当を原因とした食中毒が確認されていないことから「業界いじめだ」などと反発の声もあった。だが、罰則な どのない現状では無届け業者も多いとみられ、「仮に発生した場合、販売業者の特定や追跡が難しい」(食品監視課)という。
路上販売近くに勤める女性会社員は「路上販売は安くて便利。今後もずっと営業してもらいたいけれど、安いだけじゃなくて、食の安全も大切」と話した。
都の担当者は「未然防止のため、こうした規制をかけることは不可避だ。食中毒などが出てからでは遅い」と述べた。