サンマルクカフェ、V字回復の鍵は原点回帰 若年層はコラボでつかむ

売り上げが落ち込んでいたサンマルクカフェがV字回復している。鍵になったのは、ブランドの原点に立ち返る「ベーカリーカフェ回帰」戦略でコンセプトを明確にしたことだ。顧客の中心である40~50代に加えて、SNS映えを意識したコラボで若年層の取り込みも着々と進めている。2024年5月20日には、その路線をさらに推し進める「パンマルクプロジェクト」を発表。若年層に人気があるスムージーのコアメニュー化や、かつてのユーザーには懐かしい復刻商品も展開する。 【関連画像】人気商品「チョコクロ」の季節限定商品など、サンマルクカフェの店内には、手作りした焼きたてのパンがずらりと並ぶ  「サンマルクカフェ」をはじめ「鎌倉パスタ」「バケット」などを展開し、拡大路線を続けてきたサンマルクホールディングス(岡山市)が曲がり角を迎えたのは2017年のこと。  18年にグループをけん引してきた創業者が急逝し、20年以降は新型コロナウイルス禍による外食需要の減少が起こると、業績は悪化した。  サンマルクカフェを含む喫茶事業も、16年度には約47億円だった営業利益が20年度には約18億円の営業損失へと大きく落ち込んだ。しかし、ここから事業を立て直し、23年度には営業利益が16億円を超えるまでになった。  V字回復を果たす鍵になったのは、ブランドの原点に立ち返ることだった。サンマルクカフェの鎌田滋之社長は、「あの窮地はサンマルクカフェを見直す機会になった」と語る。  売り上げが低迷していたころ、社員が集まってサンマルクカフェの事業を見つめ直す中で浮かび上がってきたのは、様々な商品に手を出すあまり、ブランドの本質を見失っていたことだった。  例えば、夏場ならかき氷を出したり、食事需要を取り込もうとドリアをメニューに加えたり、新型コロナウイルス禍ではテイクアウト需要を狙ってお弁当を出したりしていた。商品数が非常に多くなり、ジャンルもばらばらで統一感がなく、店内のオペレーションも複雑化していた。  鎌田社長は当時の問題を、顧客からと従業員からの2つの視点で捉えている。  「まず、お客様視点で見た場合に、サンマルクカフェというブランドが何を売りたいのか、何を軸にしているのかが非常に分かりづらかった。そして最も大事なことだが、従業員視点で見た場合に“私たちは何を売らなければいけないのか、お客様に何を売って喜んでいただくのか”を全く見失っていた」(鎌田氏)と言う。自分たちのあるべき姿が分からなくなっていたのだ。  それを踏まえて、サンマルクカフェの強みはどこにあるのかを議論して打ち出したのが「ベーカリーカフェ回帰」戦略だ。メニューを減らし、パンメニューとカフェメニューに集中することで、ブランドコンセプトを明確にした。  サンマルクカフェは、他のカフェチェーンのようにセントラルキッチンで調理したものを店舗に持ち込んで提供するのではなく、パンやドリンク類などを店内で調理して提供するのが特徴だ。  「店内で手作りした焼きたてパンを提供して、お客様のおなかも心も満たすベーカリーカフェであることが我々の強み。その原点に立ち返って、お客様と接していこうとなった」と鎌田社長は語る。  合わせて、人気商品「チョコクロ」の季節限定商品など、高価格帯の販売にも注力。サンマルクグループの24年中期経営計画資料によると、客数は依然、新型コロナ禍前の水準に戻り切っていないものの、客単価は右肩上がりで、24年3月期の客単価は、19年3月期の1.36倍となった。 ●ベーカリーメニューとカフェメニューに注力  ベーカリーカフェへの原点回帰を進める中、24年5月20日に事業戦略として発表したのが、ベーカリー強化とカフェ強化の2本柱による「パンマルクプロジェクト」だ。  ベーカリー強化では、これまで1段でデザートやパンを陳列していたスペースを2段にして陳列数を増やした。「陳列のボリュームが増えることで、パン屋さんのように選べる。視覚的にもインパクトがあり、お客様にとって選びがいがある」と鎌田社長は狙いを語る。  そこに並べるのは、同社のベーカリーメニュー。売り上げにおける構成比が高い「サンマルクホットサンド」シリーズが中心だ。これまで一部店舗で試験的に提供されていたフレンチトーストやピザトーストは全国販売する。  また、人気が高いチョコクロは、引き続き高価格帯商品を積極的に投入する。これらのチョコクロには、様々な企業とのコラボを通じてSNSで話題になるものも多く、若年層へのアピールにも欠かせない商品だ。  この路線を継続し、目に見立てたトッピングで話題を呼んだ23年秋の「プレミアムチョコクロ いたずらおばけのWスイートポテト」のように、SNS映えを意識してデザインにも力を入れていく。  さらに、サンマルクカフェ25周年企画として、創業当時に1番人気だった「十勝あんぱん」を24年6~7月に復刻する。サンマルクカフェの顧客は40~50代が多く、そうした層を中心に復刻の要望が多いという。サンマルクカフェから離れてしまった、創業当時の顧客を呼び戻すことにも一役買いそうだ。

昭和レトロなパフェ

 カフェ強化は、コーヒーの「サンマルクブレンド」を飲みやすくリニューアルするほか、若年層に人気の高いスムージーをコアメニューに据えて力を入れる。  スムージーはもともと夏向けの商品だったが、近年は季節商品やコラボでの人気が高まり、通年で提供するようになってきた。サンマルクカフェは、冬でも暖房が効いているショッピングモールへの出店が多く、年間を通じて冷たいスムージーの需要は高いという。  ユニークなのがパフェのリニューアルだ。これまでもパフェを提供してきたが、新メニューとして「クリームあんみつ」や「プリンアラモードとクリームソーダ風ゼリーのレトロパフェ」など、昭和レトロ感のあるパフェを提供する。容器にもこだわり、懐かしさを感じさせるパフェグラスを用意する。  「サンマルクカフェには、レトロな喫茶店のイメージを持たれているお客様も多い」(鎌田社長)とのことで、前述のフレンチトーストやピザトーストと合わせて、レトロな喫茶店のイメージを演出するのが狙いだ。  鎌田社長は「パンマルクプロジェクトによって、V字回復を果たした流れを今後も継続していきたい」と語る。店内で調理する模様をテレビの取材で映してもらうなど、カフェベーカリーであることの周知も怠らない。こうした取り組みで、これまで以上にブランドコンセプトを明確にアピールしたい考えだ。  一方で、従業員に対するブランディングは、これからが本番だと襟を正した。「メニューを絞ることで何を売っているのかが明確になり、オペレーションが簡素化されるというメリットもある。今年(24年)4月から新しい教育制度を導入しており、サンマルクカフェの強みなどの理念は、そこで伝えていく」(鎌田社長)と言う。  原点に立ち返ったサンマルクカフェ。“私たちは何を売っているのか”が明確になり、従業員に浸透していけば、売り上げをさらに拡大できそうだ。

湯浅 英夫

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