サンリオ、復活の舞台裏~海外ライセンスビジネス、テーマパーク成功で過去最高益に

サンリオが元気だ。運営するテーマパーク「サンリオピューロランド」(東京都多摩市)の新エリア「サンリオタウン」が7月20日にオープンした。旧キッズハウスなどがあった約4000平方メートルのスペースを、15億円を投じて改修。ハローキティの邸宅をモチーフにした「レディキティハウス」や、カートに乗って「マイメロディ」の世界観を体験できる「マイメロードドライブ」など3つのアトラクションを新設した。
 ピューロランドは、これまでショーやミュージカルが中心だった。年間入園者数は1990年のオープン初年度に記録した183万人がピーク。2013年3月期は115万人(無料入場者含む)まで落ち込んだ。テーマパーク事業の売上高は53億円で、営業損益は5億円の赤字。低空飛行の経営が続いた。
 そこでサンリオは、人気キャラクターの世界を体感できるアトラクションが必要と判断。リニューアルに踏み切った。改装効果により14年3月期は前期比3割増の150万人の入園者数を見込む。中期経営計画「新プロジェクト2015」では15年3月期にテーマパーク事業の黒字化を目標にしているが、前倒しでの達成が視野に入ってきた。ほんの数年前まで、「赤字を垂れ流し続けるテーマパーク事業から撤退するのでは?」との観測があったが、アトラクションを新設するまでに元気を取り戻した。
 事業の好転を受けて、サンリオの株価はいち早く回復した。株価の1000円割れが常態化しており、08年10月28日には過去10年間で最低の652円の歴史的安値をつけた。ところが、13年5月21日には過去10年で最も高い5460円に大化けした。アベノミクスによる株高バブルの恩恵ではない。業績にしっかり裏付けられている株価なのだ。
 サンリオといえば、まず、主力キャラクターであるハローキティ関連のグッズ、ショッピングモールなどにあるサンリオショップ、テーマパークのサンリオピューロランドを思い浮かべるだろう。
 13年3月期の連結売上高は前期に比べて1.0%減の742億円と減収となったのに、本業の儲けを示す営業利益は同6.8%増の201億円と過去最高を記録した。売上高のうちハローキティグッズなどの物販やテーマパークの売上は430億円で、前期より4.5%減った。物販は減収なのに営業利益は増えた。
 営業利益は10年3月期が92億円、11年期は149億円、12年期は189億円、13年期が201億円と右肩上がりに増えている。14年3月期は、さらに6.4%増の215億円を見込んでいる。
●ロイヤリティ収入で稼ぐ
 ハローキティなどのロイヤリティ収入(キャラクターの使用料)で稼いでいるから、こんな芸当ができるわけだ。ロイヤリティ収入は前の期より4.4%増えて311億円。これは連結売上高742億円の42%を占める。
 ロイヤリティ収入が大きいのは海外だ。売上高に占めるロイヤリティ収入の比率は欧州が95%、北米が82%、南米が98%、アジアが54%。これに対して日本は19%で、グッズなど物販の売上高比率のほうが高い。海外事業のセグメント利益(営業利益)は88億円。これは連結営業利益201億円の44%を占める。
 海外からのロイヤリティ収入で稼ぎ、増益街道を驀進してきた。営業利益率は27.2%と驚異的な数字を叩き出した。00年代、女子高生のキティブームが去り、低空飛行を続けていたサンリオは、実質無借金の優良企業に大変身したのである。
 サンリオが海外のライセンスビジネスに大きくかじを切ったのは、08年である。ライセンスビジネスとは、商標登録をしておき、各事業者がその商標を使う時に使用許可料(ロイヤリティ)を受け取る事業だ。
●独自のライセンスビジネス戦略
 事業転換の立役者は鳩山玲人常務(39)である。創業者の辻信太郎社長(85)の長男、辻邦彦副社長(60)が招聘した人物だ。鳩山氏は名門鳩山家の一員だ。鳩山一郎元首相の弟である鳩山秀夫氏が曽祖父。鳩山由紀夫元首相とは又従弟に当たる。帰国子女で英語が得意な鳩山氏は、青山学院大学国際政治経済学部に進学した。卒業後、三菱商事に入社。長髪とTシャツで出社し、役員の怒りを買ったというエピソードが残っているが、その後、エイベックスやローソンなどでメディア・コンテンツビジネスを経験した。サンリオはテーマパーク投資の損失で最終赤字を出した04年に三菱商事と資本業務提携に踏み切ったが、その時の三菱商事側の窓口が鳩山氏だったのだ。
 もともとマーケティングの分野に進みたかった鳩山氏は06年、三菱商事を退社し、米ハーバードビジネススクールに留学。マーケティングビジネスを徹底的に研究した。
卒業後の進路に迷っているときに、サンリオの辻邦彦副社長から誘われた。自らのマーケティング研究を実践する好機と即断して、サンリオに入った。
 08年5月、鳩山氏はわずか35歳でサンリオ米国法人COO(最高執行責任者)に就任。早速、直営店でキティちゃんグッズを売る物販を縮小して、ライセンスを供与してパートナーに売ってもらう形に変えた。「物販からライセンスビジネス」への転換である。
鳩山氏のライセンスビジネスのユニークな点は、ライセンスを供与されるパートナー側に、ある程度のデザインの変更を認めていることだ。普通はキャラクターのデザインを勝手に変えることは厳しく制限されている。サンリオの場合、つけまつげをしたキティもいれば、黒い服を着たキティもいる。
 キャラクタービジネスは、一業種一企業が原則だがサンリオは違う。ファストファッションの分野ではH&M(スウェーデン)やZARA(スペイン)、フォーエバー21(米国)にライセンスを供与している。子供向け、ティーンエージャー向けなどターゲットを細かく分類して、競合がないようにして、同業種の複数の会社にライセンスを供与する。
 不安は残る。自由にキャラクターを変えることができるため、キャラクターのイメージの統一感が失われ、飽きられてしまう可能性がある。ライセンスビジネスは、手軽にロイヤリティを得ることができる半面、ブランドの価値が失われるリスクを常にはらんでいる。
 海外でキティ人気が持続している今こそ、次の柱づくりが急がれる。ライセンスビジネスで大成功したサンリオの次の一手に注目が集まる。

タイトルとURLをコピーしました