近年「不況」以外に話題になることが少ない出版業界。いよいよ、システム自体も崩壊の危機を迎えている。出版取次最大手の日本出版販売(日販)も創業以来初めてとなる赤字となり、もう現状の流通システムが機能しないことが明らかになっているのだ。
もはや当たり前の状態となった出版不況の右肩下がり。その実態が「出版不況」ではなく「雑誌不況」だということは、業界関係者には周知のことだ。売上の多くの部分を担ってきた雑誌がインターネットに取って代わられたことで売上が減少。その影響が業界全体に及んでいるのだ。
これまで雑誌・書籍は出版社から日販トーハンなどの取次に納められ、そこから全国の書店に配送されるというシステムによって、成り立ってきた。
このシステムは、日々なんらかの雑誌が発行されることによって維持されてきたもの。ところが、近年の雑誌の減少で輸送コストが跳ね上がり、配送システムが機能しなくなりつつあるのだ。
「長らく取次は土曜日にも配送を行っていました。ところが日本出版取次協会では2017年から、それまで年間5日程度だった土曜休配日を倍以上の13日に増加。出版社からは売上の減少を危惧する声もありましたが、輸送コストを削減するためにはやむを得ないということで押し切られました。さらに取次は出版社に対し運送費の負担を求めていますが、難航しています」(取次会社社員)
出版社から見た取次の機能には、さまざまな利点もある。納品した分はいったんは支払われる金融機能もそれ。そして、印刷さえすれば、書店に配送してくれるから、ほかの業種のように営業が売り込みをしなくてもよいという側面もあった。しかし、これも過去のものになりつつある。
「日々、さまざまな本を出版していますが、全国の書店に薄く広く本をバラまくよりも売れそうなところに大量に置いてもらうのは商売として当然です。今の苦境の背景には、そうした営業努力を怠ってきた出版社自身の問題があると思います」
そう話すのは、ある中堅出版社の社員。この出版社では既に取次を通す本は、全体の数パーセント程度まで減少。ほとんどを書店との直取引でまかなっている。
「例えば、若者向けのサブカル本を年寄りが多い地域に置いても売れません。自社の出版物が、どこで売れるのかデータを取り、それをもとに営業をかけるのは、モノを売る仕事なら当然のことと思うのですが……」(前同)
書店との直取引を行うとなれば、出版社にも大きなリソースが割かれる。ただ、商品を売っているという視点で見れば、それはごく当たり前のこと。
すでにAmazonは出版社との直取引を増加させており、それによる「寡占化」を危惧する声も多く聞かれる。だが、出版社や書店からの「取次はもういらない」といった声の高まりには、取次も真剣に耳を傾けなくてはならないだろう。