若い世代にとって面倒なのは上の人間。特に再雇用されたシニア社員も増えているなか、疎ましいのがマウンティングおじさん・マウンティングおばさんだ。なぜ彼ら彼女らは、必要以上に「上から目線」になってしまうのか。ライフジャーナリストの赤根千鶴子氏がレポートする。
内閣府が6月に公表した「令和元年版高齢社会白書」によると、労働力人口総数に占める65歳以上の割合は12.8%と上昇し続けている。また65歳以上の起業者の割合も増加。現在仕事をしている60歳以上の約4割の人が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答という結果からは、“生涯現役”をめざすシニアが明らかに増えてきていることがわかる。
高齢者が元気であることは実に喜ばしいことだが、その一方で話題になってきているのがマウンティングおじさん・マウンティングおばさん問題だ。定年後再雇用でシニア社員として会社に戻ってきた元・管理職の「上から目線」がウザイ。バイト先のシニア女性の自慢話につきあわされるのは、面倒くさくてもうイヤ。ネット上ではマウンティングシニアを敬遠するつぶやきや嘆きが増加している。「上から目線」で他人に接していれば、どんどん嫌われていくのは火を見るよりも明らかだろう。にもかかわらず、なぜに人は「上から目線」がやめられないのか。
『職場の紛争学』の著者で人事コンサルタントの各務晶久さんは言う。
「そういう人は、そもそも若いときからその傾向があるのです。自分の優位性を誇示する人というのは、プライドが高いだけでなく、そのプライドを安定して保持することができません。つまり心のどこかに自信がなくて、自己肯定感が低い。でも『自分を認めてほしい』という承認欲求は高い。そして権限やパワーを獲得したいという欲もある。この3つがそろうと、人は他人に『上から目線』で接するようになるのです」
おまえより自分のほうが上だ。こっちのほうがエライんだからな。それをわざわざアピールするというのは、よほど不満を抱えて生きている人なのでは?
「その通りです。マウンティングがやめられない人というのは、自分の現状に納得ができていないんです。端から見たら立派に見えるようなポジションでも、本人自身が自分の現実を受け入れられないから、マウンティングして自らの不安をかき消そうとするのです」と教えてくれたのは、『「上から目線」の構造』『50歳からのむなしさの心理学』の著者で心理学者の榎本博明さんだ。
本当は、自分の人生はもっともっと輝かしいものであるはず。いまの自分なんて仮の姿ですから! そんなコンプレックスの裏返しが「上から目線」を後押ししてしまうのだ。
「でもやっかいなことに『コンプレックス』というものは無意識の内にありますから、マウンティング行為をしている本人に、まったく悪気はないのです」
そして悪気がないからこそ、繰り返してしまう。自分より上の立場の人間には丁寧なのに、自分より下と位置付けた人間にはとことん、ぞんざいな態度をとる。わざとらしく名字を呼び捨てにしてみたり、命令口調で話してみたり。口を開けば、自分の過去の手柄を語りたがったり……。
「そんな自分の姿がどれだけ見苦しいか、想像をしたこともないのでしょう。そういう人は自分を客観視する『自己モニタリング』のカメラが壊れてしまっているので。ただ、周りの人はしっかり見ていますからね。本人に何にも言わなくても『仕事でのつながりが切れたら、もうあんな人とはつきあいたくない』と思っている人は多数いるはずです」
このようにして、マウンティングがやめられない人の“孤独への道”は確実に開かれていくのだが、実は職場ひとすじ、仕事ひとすじで生きてきた人ほど、孤独な老後へ突き進む危険性が高いという。人生のすべてが仕事中心だったために、個人対個人という人間関係をまったく持っていない。そのため仕事のしがらみがなくなった時点で、“人とのつきあい”というもの自体が消滅してしまうからだ。