ジャニタレCM対応、モスとJCBで明暗分かれた理由――消費者コミュニケーションの巧拙が問われた

ジャニーズ事務所の所属タレントをめぐって、CMキャラクターに起用している企業各社の対応が進んでいる。継続起用するか、ひとまず中止するか。同様に「出演見送り」を決めた企業同士でも、その経緯や発表文によって、消費者の受け止め方は異なっているようだ。 【写真】ジャニオタの批判を集めたモスのリリース  なかでも反応の差が目立つのが、クレジットカードのJCBと、ハンバーガーチェーンのモスフードサービスだ。両社の違いを見ていくと、感情を揺さぶる、いわば「エモい」コミュニケーションができているかによって、消費者が受け取る企業イメージも変化していくのだとわかる。

 そこで今回は、SNS上での反応を交えつつ、ジャニーズCM対応をめぐる「企業間の明暗」について考えていこう。 ■企業各社が、少しずつ今後の方針を固めつつある  故ジャニー喜多川氏による性加害問題で、有識者チームによる調査報告書が出され、ジャニーズ事務所が、東山紀之新社長ひきいる新体制への移行を発表した。2023年9月13日には、被害者に対する金銭補償と、調査報告書を受けた再発防止策を公表。あわせて、今後1年間、タレントの出演料は全額本人に払い、ジャニーズ事務所としては報酬を受け取らないと明言した。

 タレントの活動は、今後どうなるのか――。事務所会見から1週間、これまでジャニーズ所属のタレントを起用してきた各社が、少しずつ今後の方針を固めつつある。そんななか、9月13日夜にX(旧ツイッター)のトレンドに「モスの件」と「JCBさん」なるフレーズが上がった。  まずは「モスの件」だが、これは「モスバーガー」を展開するモスフードサービスを指す。この日、同社は「明確な被害者救済と再発防止の取り組みが認められない以上、ジャニーズ事務所との契約は継続しないことを本日決定いたしました」と発表。現在展開中の広告についても「できる限り速やかに変更します」と表明した。

 モスは、2021年から「Snow Man(スノーマン)」のラウールさんと渡辺翔太さんをCMに起用し、2022・2023年には「モス年間イメージキャラクター」と位置づけている。ジャニーズ会見後の9月11日にも、2人を新商品のテレビCMに起用すると発表していたが、その放送開始日である13日、一転して中止された形となる。  加えて、同日中には「【お詫び】モスバーガー店舗の掲示物について」と題したプレスリリースも出された。起用中止後の対応をしていたところ、「特定の店舗において、店頭掲示物に不適切な加工がされている事実を確認」したとして、タレントやファンらに謝罪するもの。発表に前後して、SNS上では2人の顔写真部分にステッカーのようなものが貼られた画像が拡散されており、その件についてだと思われる。

■「つながり」重視の意思表明は、消費者の心に響く  一連のモスによる対応をめぐり、SNS上では否定的な意見が多数派だ。ファンからは「ガッカリした」「もう行かない」といった反応が見られ、一般ユーザーからも「一度継続しておきながら、数日で方針転換するのは悪手」との指摘が出ている。  そんなモスと対照的に、好印象を与えているのが、JCBだ。公式リリースは出されていないが、スポーツ報知の取材に答える形で、CM起用を見送る方針が伝えられている。9月13日にウェブ配信された報知記事では、「二宮和也さんは、2010年より13年間、私達と一緒に歩んできた特別な存在」としたうえで、ジャニーズ事務所による「被害者の救済」と「再発防止」の具体化や実行が確認されるまで、二宮さんの起用を見送るとコメントしたと報じられている。

 こちらは、ファンにとっては残念な結果であろうが、敬称付きの「JCBさん」と呼ばれていることからわかるように、SNS上で好意的な反応がメインだ。「今後も愛用する」などと前向きな感想も少なくない。  JCBのコメントが好評なのは、これまでの敬意を評して、まず「特別な存在」と表現しているところだろう。事務所うんぬんではなく、まずはタレント個人を評価する。そのうえで、条件を示すことで、今後の事務所対応によっては、起用再開の余地を残す。

 具体的な言葉にせずとも、事務所とタレントの責任範囲を明確にしつつ、タレント個人との付き合いは排除しない。こうした「つながり」を重視した意思表明は、消費者の心に響く。少なくとも現時点では、「エモさ」がプラスに働いていると言えるだろう。 ■初手でキッパリした態度を示せるかがカギを握る  9月14日には、アフラック生命保険が、ジャニーズ事務所との広告契約を解除し、櫻井翔さんとの個人契約への変更を検討していると報じられた。各社報道によると、所属タレントの活躍の場が奪われてしまうことは遺憾だ、などとコメントしているという。こちらもJCB同様に、タレント個人を評価しているとして、ファンからは好感触を得ているようだ。

 タレントを広告に起用する目的は、ブランドイメージの強化も当然あるだろうが、最終的には「ファンによる消費を喚起させる」ことだろう。その点、JCBの場合は、プラスに働いたと考えられる。  一方のモスは、新CM発表で期待させておきながら一転中止と、結果的にファンを振り回してしまった。店頭ポスターの件は、特定店舗での事案ということで、本部は把握していなかったのかもしれない。しかしながら、統制がとれていない印象を強めたのは否めない。

 これまでネットメディア編集者として、あらゆる「炎上」や不祥事を見てきた筆者の経験からすると、一度「ブレた」と思わせてしまった組織は、その後イメージ向上につながりにくい。限られた時間の中でも、初手でキッパリした態度を示せるかがカギを握る。  ――と、ここまで書いてきたが、モスもまた、ジャニーズに振り回された立場であることを忘れてはいけない。会見以前から、すでに新商品のプロモーション展開に向けて、テレビを含めた広告枠を押さえていただろう。このタイミングで中止を余儀なくされれば、それなりの損害は確実だ。

 そもそも「年間キャラクター」として迎える以上は、かなり前からスケジュールを組んでいたはず。もしかすると、クリスマス商戦などについても、大幅な戦略見直しや金銭的損失があるかもしれない。そう考えると、同情の余地は否めない。 ■事務所とタレントを切り分けて考える是非  CMへの起用継続を決めた企業も、その対応は千差万別だ。読売新聞オンライン(9月11日配信記事)は、健栄製薬による「起用しているタレントが被害に遭っていた場合、契約を打ち切ると二度苦しめることになってしまう」というコメントとともに、契約満了まで継続起用の方針だと伝えている。

 事務所とタレントを切り分けて考える是非は、ここ最近よく議論されている。読者の中にも「うわさレベルであっても、知っていたなら同罪」や「性加害が認められてもなお、事務所に所属しているなら、相応の処分を受けてしかるべき」といった意見はゼロではないだろう。かたや、「事務所やプロデューサーと、タレントは無関係」との声もある。  ビジネス展開として、国内と海外のどちらに重きを置いているかも、対応を分けるだろう。ジャニー氏の性加害をめぐっては、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が当事者らへのヒアリングを行い、「深く憂慮すべき疑惑が明らかになった」などの報告としてまとめている。「国際社会からの目」を考えたとき、人権軽視と判断される企業との取引は、あまりにもリスクが大きい。国内資本か外資かも、分かれ目になるだろう。

 今回のコラムでは「エモい」企業コミュニケーションの有用性について書いてきたが、これも万能ではない。感情を揺さぶる表現は、ときに論点をボカして、受け手をケムに巻いてしまう。JCBやアフラック生命保険については、現状そのような声は見られていない印象だが、エモいコミュニケーションは、斜に構えている人が見た時に、「上手いこと言って、大衆を言いくるめた」ように受け取られる危険性もある。  しっかり問題の本質を見極め、責任を切り分けたうえで、エモさを「ほどよいスパイス」として散らせるか。そこに企業のPR力が試されると、筆者は考えている。

城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー

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