ジャニーズ事務所は9月7日の記者会見で、藤島ジュリー景子氏が故ジャニー喜多川氏によるタレントへの性加害を認めて謝罪した。タレント引退を発表した東山紀之氏が新社長となった。 【動画】ジャニーズは会見でどう説明したか 事務所がようやく性加害を認めたことを受けて、テレビ各局はジャニーズとの取引について声明を出したが、取引を「止める」と明言した局は現在のところない。 考えてみてほしい。今いったん仕事がなくなるのと、今後ずっと人権侵害状態が続くのと、タレントたちにとってどっちが不幸な状況だろうか。 筆者は正直言って、ジャニーズとテレビ各局の双方が「まともな企業」になるまで取引停止するべきではないかと思っている。(テレビプロデューサー・鎮目博道) ●傍若無人な商売をしてきたジャニーズは今さら変われるのか? ジャニーズは根本的な改革をし、生まれ変わるのだという。しかし、主要な取引先であるテレビとの関係が続いたままでは、ジャニーズに改革への強いモチベーションは働きにくい。 テレビ局側の声明によれば、その理屈は「タレントは被害者で罪はない」といったところだ。だが、「罪のないタレント」がかわいそうだというなら、その期間は事務所ではなく、タレントに直接ギャラを支払うなどの方法もありえる。 これからジャニーズの問題を考えるときに、「ジャニー氏による性加害」にあまりに限定しすぎると正しい理解を妨げるはずだ。問題はそれだけではないからだ。 おぞましい児童への性虐待が認められたジャニー氏はすでに故人であり、今後再発することはない。被害者に誠意を持って粛々とジャニーズが謝罪し、補償をしていくしかない。 しかし、それに加えて考えなければならないのは、現在の所属タレントが新たに人権侵害に遭ってはならないし、さらに言えば、他の事務所に所属するタレントたちも人権侵害に遭ってはならないということだ。 誤解を恐れずに言えば、ジャニーズはこれまで、通常の商慣習上のルールでは許されるはずのないような”滅茶苦茶な商売”をしてきた。 テレビ局などの取引先に対して、そのタレントパワーを背景に、自分たちの意のままに強引な条件で取引をおこない、番組内容からキャスティングまで口を挟み、競合する芸能事務所を妨害したのみならず、報道機関の記者にまで無茶なクレームをつけるなど、まさに傍若無人な振る舞いをしてきた。 SMAPの元メンバー3人の番組起用が明らかに少なくなったことをめぐり、公正取引委員会がジャニーズに注意したこともあった。 このような事務所のタレントに人権が保障されるだろうか? 他の事務所のタレントにも人権蹂躙をしないだろうか? 私は今のままでは非常に怪しいと見ている。 東山社長は9月7日の会見で「テレビ局はジャニーズに忖度する必要はない」「辞めたタレントや競合グループの邪魔もしない」という考えを示した。だが、現場で動くジャニーズの社員は本当にこれまでの振る舞いを変えるのか。 タレントである東山社長にどこまで現場が見えているか疑問だし、経験のない経営者としての手腕にも疑問が残る。本来ならば、芸能とは無関係の業界から経営のプロを連れてきて「社会通念上許されないことはすべてダメ」とハッキリ明言するくらいの改革がされなければ、ジャニーズは変わらないというのは、厳しすぎるだろうか。 ⚫︎今すぐ求められるテレビ側の改革、報道内容にまで口出す「ジャニ担」からまず廃止せよ 変わらなければならないのは、テレビ局も同じだ。今回各局はもっともらしく「人権侵害が起こらないようにします」のようなコメントを出しているが、その中で具体的に何をするのか、なにひとつ約束されていない。残念ながら、この程度の何も中身のないコメントを出すようでは、きっと「ジャニーズへの忖度」は続くだろう。 なぜテレビ各局の報道部門が「忖度して何もジャニーズのことを報じてこなかったか」というと、その大きな原因のひとつは「ジャニ担」という制度があったからだ。 テレビ局に限らず多くのメディアにはジャニーズ事務所との窓口として設けられた「ジャニ担」がいる。 「ジャニ担以外はジャニーズに触れてはならない」という暗黙の了解のもと、「ジャニ担」から「それはやめておいてくれ」と言われれば、報道の現場は悔しい思いをしながらも局の利益・商売を考えてジャニ担の言うことに従い、沈黙した。 横並びの競争の中で、他局よりも不利に扱われたくないという心理の中、ジャニ担という「ジャニーズの御用聞き」の言いなりになったのは、報道機関として恥ずべきことだ。 ジャニ担が存在し続けて、「報道よりも金を稼いでくる制作現場が偉い」という空気を改められなければ、今後も何も変わらない。 そして、ジャニーズ以外にも、タレントへの性加害の噂があったり、タレントの人権を侵害してそうな事務所はもっとあるはずだと、テレビマンとしては考えざるを得ない。 まずテレビ局が取り組むべきは、少なくともジャニ担を廃止することだ。そして、人権侵害の可能性がある事務所と取引しないために、取引先の調査部署を設置すること。調査部署には制作担当部署よりも強い権限を持たせるような具体的な改革案を作成し発表するべきではないか。 ●「人権侵害事務所」との取引停止をテレビ局に言い渡す「第三者機関」設置を ただ、残念ながら、テレビ局が「人気者がいる事務所の言うことはなんでも聞き、都合の悪いことには目をつぶる」という体質から完全に抜け出すのは難しいと思う。 そのため、ジャニーズもそれ以外のタレントも、人権侵害を受けた場合に告発できるような第三者機関も設けるべきではないかと思う。 民放連などの業界団体の下に置いてもいいし、タレントによる組合のような団体を新設してそこに設置してもいいだろう。タレントから人権侵害の告発を受けて調査し、人権侵害が認められた事務所との取引を各局に禁止する権限を持つくらいの第三者機関を作らなければ、立場の弱いタレントたちへの人権侵害はなくならないのではないかと思う。 これまで日本の芸能事務所やテレビ局は、タレントをあまりにも「道具」として扱いすぎてきた。「人気さえあればそれでいい。結果が出ればそれでいい」という考え方を改め、「人間」としてきちんと権利を守るのだ、という姿勢に変わるには、今が絶好の機会だ。 今こそ徹底的にテレビ局と芸能事務所のあり方を根本的に改革するべきだ。それをせずに、「ジャニーズとの取引は変わらず継続する」などと言い続けるテレビ局は、もはや誰からの信頼も得ることはできないだろう。
弁護士ドットコムニュース編集部