【ロンドン=加藤美喜】ジャニーズ事務所前社長の故ジャニー喜多川氏の性加害問題で、3月に告発のドキュメンタリー番組を放映した英BBC放送のモビーン・アザー記者(43)が本紙取材に応じ「喜多川氏の行為は不道徳であり、犯罪だった。彼はもうこの世にいないが、過ちを清算して責任を負うことが必要だ」と徹底調査を訴えた。
◆藤島社長の「謝罪」を批判
アザー氏は「独立した調査で事実解明が行われるまでは、被害者にとっての『終結』はあり得ない」と強調。「事務所の責任ある対応と、メディアの継続的な報道を望む」と述べた。
YouTubeで公開されているBBCドキュメンタリー「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」(スクリーンショット)
BBCは3月にドキュメンタリー「プレデター(邦題・Jポップの捕食者)」を放映。被害者の声を伝え、この問題が長年のタブーとなっている状況を告発した。放映後、実名で名乗り出る被害者が相次ぎ、国会でも岸田文雄首相が子どもの性犯罪対策の強化を表明するなど影響が拡大した。
アザー氏は「日本での反響に驚き、うれしく思う」と述べ、6月に性交の同意年齢を引き上げる刑法改正案が成立したことも「性犯罪の再定義が進んでいる」と歓迎した。しかし藤島ジュリー景子社長の5月の「謝罪」については「世間の大きな圧力がかかってようやく出た声明だ。組織として喜多川氏の性的虐待の責任を取るとも言わなかった」と批判。「何が起きたかを認め、心から謝罪することが必要だ」と指摘した。
◆取材意欲をかき立てた「共犯関係」
週刊文春の記事を巡る名誉毀損訴訟で東京高裁が2003年、喜多川氏の性加害を認めたにもかかわらず、大きく報道されなかったことが取材意欲をかき立てたと説明。問題の背景に「メディアとジャニーズ事務所の共犯関係」があると指摘し、「批判的な記事を書けば事務所の機嫌を損ね、タレントと接触できなくなると何度も聞いた」と話した。
アザー氏は、わいせつ目的で子どもを手なずける「グルーミング」の概念が日本であまり認識されていないことや、警察が捜査をしていない問題点も指摘した。声を上げた被害者らには「その勇気に尊敬と称賛の念を抱くばかりだ」と強調し、「彼らの勇敢な声を増幅させてほしい」と報道に要望した。
「プレデター」日本語字幕版はYouTubeで視聴できる。
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インタビューは後日、詳報します。
ジャニーズ性加害問題 1980年代にジャニーズ事務所の元アイドルが喜多川前社長による性被害手記を出版。99年には週刊文春が喜多川氏のわいせつ行為を報道、事務所が文春の記事を巡り名誉毀損で訴えた裁判は2003年に東京高裁がセクハラの真実性を認め、04年に確定した。喜多川氏は19年に死去。英BBC放送は今年3月、喜多川氏の性加害を告発するドキュメンタリーを放映。4月には元所属タレントのカウアン・オカモトさんが実名で記者会見し被害を訴えた。5月には藤島ジュリー景子社長が動画で謝罪を表明、外部専門家の再発防止チームの設置を発表した。