スウェーデンとフィンランドは15日、北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請すると発表した。ロシアのウクライナ侵攻を受け、歴史的な転換を決定した。 スウェーデンではこの日、与党・社会民主党がNATOへの加盟を支持すると表明し、加盟への道が開かれた。 またフィンランドも、加盟申請を正式に発表。同国では先にサウリ・ニーニスト大統領とサナ・マリン首相が、加盟申請を行うべきだとする共同声明を発表していた。 NATOは1949年、ソヴィエト連邦に対抗する形で設立された。 ロシアはかねて、NATOを安全保障上の脅威と見なしており、フィンランドの加盟申請に「対抗措置」を取ると警告している。ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナがNATO加盟を示唆したことを、侵攻の理由の一つに挙げている。 スウェーデンは第2次世界大戦中は中立を保ってきたほか、過去200年以上にわたり、軍事同盟への加盟を避けてきた経緯がある。 一方のフィンランドは、ロシアと全長1300キロにわたって国境を接している。これまではロシアとの対立を避けるため、NATO非加盟の方針を貫いていた。 スウェーデンの社会民主党は声明の中で、「NATO加盟にむけて動き出す」と発表。同国では、国民やほとんどの野党が加盟を支持しており、数日以内に正式に申請する予定だという。 一方で、核兵器の配備や、NATOの軍事基地の設置には反対していると付け加えた。 同国のマグダレナ・アンデション首相は記者会見で、与党はNATO加盟が「スウェーデンとスウェーデン国民の安全保障に最善」だと信じていると述べた。 「社会民主党にとって、これまでの軍事的非同盟が効果的だったのは明らかだ。しかし、今後は効果を出さないだろうと今回、結論に至った」 また、バルト海地域で唯一のNATO非加盟国となった場合、スウェーデンは「ぜい弱な立場」に取り残されてしまうだろうと説明した。 アンデション首相は16日にも、議会で加盟申請への支持を取り付ける予定。 フィンランドのニーニスト大統領もこの日、加盟申請を正式発表し、「歴史的な日」になると述べた。 ニーニスト氏はこれに先立ち、プーチン大統領と電話会談をしている。同氏は会談について、加盟方針を「率直に伝えたかった」と話した。 「私もフィンランドも、こそこそと立ち回ってこっそり消えるというような評判は持っていない」 フィンランドも、加盟申請には議会での審議が必要となる。 ■トルコの反対、「乗り越えられる」と NATO加盟には全加盟国による批准が必要となり、手続きは1年かかる可能性間もある。独ベルリンで会合中のNATO加盟国の外相は、スウェーデンとフィンランドに対し、「グレーゾーン」と呼ばれる加盟申請中にも安全保障上の保証を与えると約束した。 ドイツのアナレーナ・ベアボック外相は、「移行期間やグレーゾーンなど、両国の立場があいまいな期間」は設けないと述べた。 一方、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官とNATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長は、トルコによる加盟反対を乗り越える自信があると述べた。 NATO加盟国のトルコは、政府がテロ組織と見なし、何十年も紛争を繰り返しているクルド労働者党(PKK)を、北欧諸国が支援していると非難している。 同国のメヴリュット・チャヴシュオール外相は15日、スウェーデンとフィンランドはテロリスト支援を止めるべきだと主張。明確な安全保障上の確約をした上で、トルコに対する輸出禁止を撤回するべきだと述べた。 一方で、トルコ政府は誰かを脅したり、支配の拡大をもくろんだりはしていないと話した。 ブリンケン国務長官は、スウェーデンとフィンランドに対しては、NATO加盟国から「ほぼ全面的に」強い支持があると説明。トルコとも話し合いを持ったと述べた。 その上で、「もし両国が(NATO加盟を)選ぶのなら、合意が得られると確信している」と述べた。 トルコ・メディアの報道によると、フィンランドのニーニスト大統領は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談する用意があると述べたという。 スウェーデンとフィンランドの両国にはクルド人コミュニティーがあり、スウェーデンではクルド系の国会議員もいる。トルコ政府は、両国内のこうしたコミュニティーにPKKとかかわりがあるという証拠を示していない。 ■プーチン大統領はどう反応するのか プーチン大統領は、フィンランドとスウェーデンにNATOに加盟しないように警告したが、聞き入れられなかった。ウクライナ侵攻によって、プーチン氏が望んでいないこと、つまりロシアの国境近くまでNATOが拡大する事態となった。では、同大統領はこれにどう対応するのだろうか。 今のところ、プーチン大統領はウクライナで手一杯なので、フィンランドやスウェーデンのに向けて突然、軍事的に動き出す可能性は低い。フィンランドとの長さ1300キロにわたる国境近くにいたロシア軍は、南側に再配備された。 しかしいずれは、軍隊とミサイルの両方をフィンランド国境に近づけ、空と海から積極的なパトロールを行う可能性がある。 また、ロシアによるサイバー攻撃とサイバースパイ活動は、以前から大半のヨーロッパ諸国を対象に実施されている。フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟すれば、こうした攻撃が特に両国に向けられることが予想される。 さらに、プーチン氏は長期戦を好むので、北欧の2カ国が歴史的に中立だったことから、NATO加盟の決定を覆すためサイバー作戦で両国の国内世論を操作しようとする可能性もある。 <解説>歴史的な決定 ――マディー・サヴェッジ(ストックホルム) スウェーデンの与党・社会民主党は、予定されていた記者会見の30分前に、あえて地味な声明でNATO加盟申請を支持すると発表した。しかしその決断は、スウェーデンが2世紀ぶりに軍事的中立の立場から離れる道を開く、画期的なものだった。 発表そのものは驚くには値しない。社会民主党の閣僚は、13日に発表された超党派報告書の調査結果を支持し、NATO加盟によって北欧の安全が向上し、ロシアからの武力攻撃の引き金になる可能性は低いと結論付けた。 一方、ロシアがウクライナに侵攻して以来、NATOへの正式加盟に対する国民の支持は着実に高まっている。スウェーデンでの総選挙まであと数カ月となった今、ほとんどの野党が賛成している。 それでも、与党の中にも、野党の左翼党や緑の党の中にも、加盟に不安を感じている人たちがいる。NATO加盟でロシアによる軍事進攻の可能性が低くなると、誰もが確信しているわけではない。 また、主な世界的紛争からはかねて距離を置いてきた、中立で平和な国家としてのアイデンティティーを失ったことを嘆く声もある。