スズキ水揚げ自粛 漁業者、不安と怒りの声

福島第1原発事故による放射能汚染問題で、金華山以南の仙台湾沿岸でスズキの水揚げを自粛する方針が28日、決まった。東日本大震災で壊滅的被害を受けた漁業の再興を目指そうとする矢先の自粛。「生活できない」「復興が停滞する」。県内の漁業関係者は不安と怒りの声を上げた。
 宮城県亘理町荒浜の荒浜漁港は、スズキやマダラなどの刺し網漁が旬を迎えている。漁師山川育夫さん(61)は1日約700キロを水揚げし、スズキは1キロ当たり850~1000円で取引される。「自粛がさらに広がれば食っていけなくなる。東京電力に補償を求めたい」と怒りをあらわにする。
 荒浜沖のスズキは、県が3月に実施した放射性物質測定結果で、4月に施行される新基準(1キロ当たり100ベクレル)を超える値が検出された。
 震災で被災し、昨年6月に漁再開にこぎ着けた山川さん。「これからという時だったのに。スズキだけでなく、ヒラメ、カレイなど他の魚へ(自粛が)拡大するかどうか心配だ」と言う。
 震災で壊滅的被害を受けた山元町の磯浜漁港では4月末にも、スズキやヒラメなどの定置網漁を始める予定だった。県漁協山元支所の大和郁郎運営委員長(65)は「当面漁はできない。津波、放射能のダブルパンチだ」と落胆を隠せない。
 県漁協網地島支所(石巻市)の阿部欽一郎運営委員長(64)は「一つの魚種の制限を、消費者は宮城全体の海が危ないと受け止めるのではないか」。石巻魚市場買受人協同組合の布施三郎理事長(61)も「自粛要請は安全な魚しか出荷していないことを示す意味があると思うが、宮城の魚を不安視する声が広がらないか心配だ」と気をもむ。
 自粛要請を決めた水産物放射能対策連絡会議。関係者は「安全・安心」の徹底を主張する。議長を務める川村亨県水産公社理事は「100ベクレルを超える県産の水産物を流通させないという強い覚悟で、業界と県が一体となり取り組んでいく」と強調した。
 宮城県や県内の水産関連団体でつくる「県水産物放射能対策連絡会議」は28日、金華山以南の仙台湾沿岸で捕れたスズキの水揚げを自粛するよう各漁業団体に要請した。県産海産物の水揚げ自粛は初めて。水揚げを続ければ、4月に導入される放射性セシウムの新基準(1キログラム当たり100ベクレル)を上回る可能性があると判断した。
 30日の漁から、金華山以南の(1)仙台湾北中部(2)仙台湾南部-の2海域で捕れた魚を漁船上で選別。スズキは海に放流する。県は「4月から毎週実施する検査で1カ月間、各海域の3カ所以上で検査結果が全て100ベクレルを下回れば解除する」との目安を示したが、実際にどの水準で解除に踏み切るかは、今後連絡会議で検討する。
 ことしに入り3検体のスズキが100ベクレルを超えた。2月28日に七ケ浜町菖蒲田浜沖で採取したスズキからは360ベクレルを検出。3月16、20日の採取分からも127ベクレル、130ベクレルを測定している。

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