■「農作物の食害激減した」「瓦が消え営巣できない」
日本人の暮らしと密接なスズメは都市化に伴って減少しているのか? そんな疑問を受け、「日本野鳥の会東京」がスズメの全数調査に乗り出した。「ものさし鳥」といわれ、野鳥を見分ける上で基準となるスズメ。スズメの生息する環境は何を意味するのか。(日出間和貴)
◆寿命は1年3カ月
「道に迷ったらスズメを探せ」-。山奥などでスズメを見かけたら、それは近くで人が暮らす証し。たとえ道に迷っても、スズメを見かけたらあきらめるなという教えだ。
日本野鳥の会の安西英明主席研究員は著書『スズメの少子化、カラスのいじめ』(ソフトバンク新書)で、人が住む環境と深くかかわってきたスズメの習性を紹介している。
「都市化が進む中、各地で『スズメを見かけなくなった』という話をよく聞く。しかし、スズメが実際に減ったかどうか科学的に判断できるデータはない」
安西さんによると、日本にいるスズメは3種類に限定される。平均寿命は1年3カ月と短い。中には越冬できないものも多く、常に生存の危機にさらされている。決まった人家周辺で一生を終えるスズメもいれば、餌を求めて旅を続けるスズメもいる。姿、形が似た野鳥も多く、スズメをめぐる“誤解”は少なくないという。
今回の調査は東京のほぼ真ん中に位置する日比谷公園で、10年間実施。調査員らが一定範囲に出現するスズメの数を計測、年次推移を調査していくという。
◆4千回以上虫を運ぶ
一方、岩手医科大の三上修助教は「スズメによって被った農作物面積の年次推移」からスズメの減少の可能性を推測する。農林水産省の統計データによると、最近20年間にスズメによる農作物の被害は激減。三上助教は「スズメの農業被害が減っていることから、スズメの数が減少している可能性は高い。ただ、スズメが減少したから農業被害が減ったとまでは言えない」と説明する。
日本のスズメ研究の第一人者、佐野昌男さんは居住する長野県を中心に長年、スズメの分布などについて調査してきた。スズメが人家の密集した地域に深く入り込む習性や、ヒナが巣立つまでの2週間に親鳥が4千回以上も虫を運ぶことを明かす。
スズメが減少したとされる背景に「住環境の変化がある」とし、(1)建築様式で瓦が消え、スズメが営巣・繁殖する場所が減少(2)宅地化の影響で餌の確保が困難-の2点を挙げる。
佐野さんによると、野鳥に関心を持つ愛好家でもスズメの生態に熱心に目を向ける人は少ないという。「スズメの生息数は季節ごとの増減があり、長年追い続けないと判断できない。過疎化が進んで人間のいない農村より、都市部の公園の方がスズメの環境が整っていることも考えられる」と話し、調査結果に期待を寄せる。
■人間に追いやられる動物
人間と生活圏を共有しながら生息してきたのはスズメだけではない。昔話『さるかに合戦』のモデルともいわれるアカテガニも、かつては海沿いの民家や路地、石垣に生息していたが、宅地の造成や周辺のコンクリート化で住みかを奪われている。暮らしとなじみの深い“隣人たち”の激減は、日本の原風景の喪失と軌を一にする。
20世紀以降、鳥類や哺乳(ほにゅう)類などの動物群の絶滅速度が加速している。その背景には人口の増加があり、絶滅の主たる原因について「人間活動による影響」を挙げる専門家も少なくない。
「日本野鳥の会」ではスズメを特集した会誌『野鳥』4月号を希望者に無料で配布する。詳細は同会ホームページ「野鳥誌プレゼントキャンペーン」で。