新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「コロナ離婚」の増加が懸念されている。在宅勤務が導入され、家でともに過ごす時間が増える中、互いの価値観の違いが目立って不満をためる夫婦も多いという。国内外ではストレスから家庭内暴力(DV)に発展するケースも増加している。夫婦間の危機をどう乗り越えればいいのか。(江森梓、石川有紀)
■相談、日に日に増加
《あー旦那むかつく 子供の世話してるとか言って携帯しか見てねーし》
《旦那だって好きで家にいるわけじゃねーからな》 ツイッター上では、「#(ハッシュタグ)コロナ離婚」と付けられた投稿が目立ち、夫婦間の愚痴がつぶさにつづられている。
夫が在宅勤務なのに家事を手伝わなかったり、飲み会に出かけるなど新型コロナに対する危機感の相違にいらついたりと、内容はさまざまだ。
夫婦問題に関するカウンセラーの大塚くにこさんによると、感染拡大後は相談件数が日に日に増えており、「こんなことは初めて」ともらす。
■「熟年離婚と同じ」
なぜ、こうした事態が起きるのか。
「定年後の熟年離婚と問題の芽は同じ。在宅勤務などで、一緒に過ごす時間が長くなり、夫婦問題が顕在化したに過ぎない」
中高年の更年期障害を長年診療し、夫の言動が原因で妻の心身に不調が起こる症状を「夫源病(ふげんびょう)」と命名した医師、石蔵文信・大阪大人間科学研究科招聘(しょうへい)教授はこう打ち明ける。
新型コロナ感染拡大の影響で物資が行き渡らなくなったり学校が休校になったりと生活環境が変化する中、家事や育児ストレスが増す一方、経済・雇用情勢も不安定化してリストラへの不安も大きくなっている。そうした中で互いに不満を募らせていくケースが少なくないという。
石蔵氏は「妻に生活面で依存する夫、夫に経済的に依存する妻、といった依存関係が危ない。夫が率先して食事を準備したり、妻も働いて経済力をつけたりするなどして互いに自立し、助け合うことが重要だ」と指摘する。
■夫婦片方の受け入れ施設も
とはいっても、夫婦間の関係性は一朝一夕で変えられるものではない。大塚さんは「少しの時間でも一人の時間をつくることが大事」と助言する。「別室で本を読んだり、散歩に出かけたりと、とにかく四六時中一緒におらずに、頭を冷やす時間を確保する必要がある」と話す。
民間では、夫婦どちらかを受け入れる「一時避難場所」として民泊施設を貸し出すサービスも始まっている。手掛けるのは、民泊施設を運営する「カソク」(東京都)と法務サービスを行う「ジーテック」(同)。希望者は弁護士や行政書士にコロナ離婚に関する相談や合意書の作成を依頼することもできる。担当者は「夫婦間でこじれてしまっても、一時的に距離を置いて考え直すきっかけになれば」と話している。
■各国でDV相談増加
米国や英国では感染拡大以降、DVに関する報告や相談件数が増加している。国内でも4月上旬に東京都内で、感染拡大の影響で収入が減ったことから始まった口論がきっかけで、夫が妻に暴力をふるって殺害した事件が発生している。
こうした事態を受け、内閣府は専用の相談窓口(0120・279・889)を設置。各自治体でも相談窓口を設置したり、相談員を増強したりするなどの取り組みが行われている。
DV被害者を支援するNPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」(神戸市)の正井礼子代表理事は「DVがあっても外出自粛要請で逃げ場がなく、深刻化するケースもある」と指摘。その上で「災害時など皆が大変なときは、家庭内のことで相談するのを躊躇(ちゅうちょ)しがちだが、まずは勇気を出して政府や自治体、支援団体などの窓口に相談してほしい」と呼びかけている。