スポンサーの「ジャニーズ離れ」が始まれば終わる…性加害問題で「ノーコメント」を繰り返すテレビ局の無責任

■告発者の声を握り潰すテレビ局の「二枚舌」  ジャニーズ事務所の創設者・ジャニー喜多川氏から複数回の性加害を受けた、と元ジャニーズJr.の男性が「週刊文春」で実名・顔出しで告発してから1カ月が経った。 【この記事の画像を見る】  ※「計15回はあった」初めての実名・顔出し告発 元ジャニーズJr.岡本カウアン氏が語るジャニー喜多川氏性加害  ネットやSNSではこの話題はだいぶ沈静化してきてはいるが、一方でテレビ局に対する人々の「不信感」と「怒り」は日増しに高まってきているように感じる。  いつもは「報道の自由」「権力者の不正を許すな」なんだと立派なご託を並べて、「疑惑」だけボロカスに叩くくせに、それが「身内」となると途端に人が変わったように、「疑惑だけでは報じられない」なんて神妙な顔をして、告発者の声を握り潰しているからだ。  元ジャニーズJr.男性が外国特派員協会で記者会見を催したことで、新聞やNHKはどうにか報道をしたが、民放テレビ局は軒並みスルー。しばらくして事務所が取引先企業に本件に関する説明をした、という報道が出るとようやく重い腰を上げてウェブニュースで触れ、地上波のニュースでも小さく報じたものの、いつもやっている「疑惑」だけで芸能人や政治家をボロカスに叩くお祭り騒ぎとかけ離れている。  このゴマスリ上司のような露骨な二枚舌に、「日本のテレビ局はマジで終わっている」「テレビが報じないことのほうが正しいってことだな」などと厳しい声が上がっているのだ。

■“ノーコメント作戦”は完全な悪手である  では、当のテレビ局はこの「危機」にどう対応しているのか。4月28日のフジテレビの港浩一社長が定例記者会見で本件についての見解を問われ、こう答えている。  「一般論として性加害は決して許されないが、事実関係がよく分からないのでコメントは差し控える」  これは「取引先企業」が何か不祥事を起こした時の「常套句」で、表向きは「中立」を装いながら取引先を庇い、社会がこの一件を早く忘れてくれるのを待つという作戦だ。  ただ、報道対策アドバイザーとして同様の不祥事対応の経験もある立場から言わせていただくと、一般企業ならいざ知らず、公共の電波を預かるテレビ局がこのような“ノーコメント作戦”をとるのはかなりの「悪手」だ。  なぜかというと、今回のスキャンダルはそう遠くない未来、再燃して日本中で議論される大問題に発展するからだ。その際、この問題に対して明確に「批判」というフラッグを立てていないテレビ局は、「この卑劣な犯罪を闇に葬り去ろうとした共犯」として大炎上してしまう可能性が高い。

■このニュースの価値に気づいた海外メディア  一体どういうことか順を追って説明していこう。まず、今回の問題がなぜ再度、炎上すると考えるのかというと、「海外メディア」「組織ぐるみ疑惑」「テレビのスポンサー企業」という3つの大きなリスクを抱えているからだ。  まず、最初の「海外メディア」についてだ。ご存じない方もいらっしゃるかもしれないが、実は今回の性加害報道の火付け役はイギリスのBBCだ。  3月にBBCでは「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル Predator: The Secret Scandal of J-Pop」というドキュメンタリーを放映して、世界的にも非常に大きな反響があった。実際、会見を催した男性も、この番組を見て告発を決意したという。  これだけ反響が大きいとなると、BBCとしては当然、「続編」を制作する。また、テレビ局のような「ジャニーズタブー」のないネットフリックスやアマゾンなど海外動画配信サービスも、コンテンツとしての価値に気づいたので、同様のドキュメンタリーを制作する可能性もある。

■日本のマスコミは海外メディアを後追いする  このように「海外メディア」が疑惑を「追撃」するようになると、日本国内のメディアも無視できずに「後追い」に走る。悲しいかな、島国根性丸出しの日本人は、欧米人から問題視されると迎合して、慌てて騒ぎ出すということが、これまで何度も繰り返されてきた。  古くさかのぼれば、田中角栄の金脈問題がある。1974年、月刊『文藝春秋』に立花隆氏の記事「田中角栄研究――その金脈と人脈」が公表されたが、国内マスコミはほぼノーリアクション。しかし、それを外国メディアが後追いして、田中首相に厳しい質問を投げかけて大きく取り扱ってから、テレビや新聞もくっついてきた。  2011年に発覚したオリンパス事件もわかりやすい。月刊誌『FACTA』が調査報道でオリンパスの不正を明らかにしたもので海外ではテレビで速報が流れるほど大きく報じられたが、日本のマスコミはスルー。海外メディアの勢いに押される形で「後追い」をした。  この構造は令和になった現代も何も変わっていない。先日も米・イェール大学助教の成田悠輔氏の“高齢者の集団自決”発言が問題になったが、実はあれも当初はネットメディアやSNSで問題視されていたが、マスコミはスルーしていた。それが「NYタイムズ」が批判した途端に大騒ぎになったのである。  つまり、日本における「報道の自由」というのは、「雑誌やネットが不正や問題を指摘→テレビ・新聞は無視→海外メディアが報道→テレビ・新聞が慌てて後追い」というスタイルが基本なのだ。

■再追及の端緒となるのは「組織の関与」  今回の問題も同じだ。先ほど火付け役はBBCだと書いたが、彼らの取材は1999年からこの問題を報じている「週刊文春」の全面協力の下で進められたものだ。そして、毎度お馴染みのようにマスコミはスルーした。  いつもと同じパターンということは、いつもと同じ結末になる可能性が高い。つまり、今は「鎮火」したように見えるが、海外メディアが再び厳しい追及を始めたら、いつものように風向きが変わって、国内マスコミも大騒ぎをする可能性があるということだ。  では、どのような厳しい追及になるのか。それが2つ目のリスクである「組織ぐるみ疑惑」だ。  現在、ジャニーズ事務所は、告発を真摯(しんし)に受け止めるという声明を出しているが、ジャニー喜多川氏がすでに鬼籍に入っているということで真相解明が困難だとしている。死人に口なしではないが、真相は藪の中なので最悪、ジャニー喜多川氏の「個人犯罪」ということでどうにか逃げ切ろうとしている、ように見えてしまう。

■事務所の人間たちは性加害を知っていたのか  ただ、冷静に考えるとこれはかなり苦しい。BBCのドキュメンタリーや文春に登場する告発者たちによれば、ジャニー喜多川氏の自宅である高級マンションで、彼らと同様のことをされた被害者は100人をくだらないという。  多い時は十数人も宿泊することがあったという、この高級マンションに住民から不審がられることなく、未成年の少年たちが出入りするとなると、ジャニー氏だけでは難しい。車での送迎など事務所の人間のサポートが必要だ。  また、先ほども申し上げたようにジャニー氏の「疑惑」は少なくとも20年以上前から報じられている。だから、今回告発した男性たちも「噂に聞いていたけれど、本当にあるんだと驚いた」というようなことを言っている。  このような“公然の秘密”ならば当然、事務所は察知していたはずだが、被害は近年まで続いていた。ということは、見て見ぬふりをしていたか、「容認」していたのではないか、という疑惑は当然あって然るべしだろう。  実際、BBCのドキュメンタリーに登場した被害者は、周囲から「ジャニーさんに従わなければ、ステージでの立ち位置が悪くなるよ」と言われたと証言している。つまり、事務所内ではアイドルデビューするための一種の「通過儀礼」のように捉えられていた可能性もあるのだ。

■テレビ局のスルー作戦が終わるきっかけ  BBCの続報や、他の海外メディアがこの問題を引き続き追及する場合、同じような告発者の証言を再び並べてもしょうがない。ジャニーズ事務所にも性加害があったという事実は認めさせた。となると、次は事務所側が主張している「個人犯罪」というストーリーをどう崩していくのか、だろう。  具体的には、事務所側がいかにしてジャニー喜多川氏の性加害を黙認して、サポートして、さらに被害者たちに「アイドルデビューするためにはこれに耐えるのが当然であって、先輩たちもみんなそうしてきた」と諭してこの「犯行」の隠蔽(いんぺい)を手伝ってきたのか、ということを取材で浮かび上がらせていくのだ。  もしこのような形で海外を中心に「組織ぐるみ疑惑」が持ち上がると、日本のテレビ局もさすがに今のような「事実関係がわからないのでスルーします」というスタンスは続けられない。なぜかというと、3つ目のリスクである「テレビのスポンサー企業」が黙っていないからだ。

■グローバル企業は日本企業よりも性犯罪に敏感  今回の問題が、日本よりも海外の方で反響があったことからもわかるように、未成年者への性加害や、権力者によるグルーミング(わいせつ目的で相手を手なずける、懐柔行為)などの性犯罪は、日本よりも欧米社会の方が厳しく糾弾される。  例えば、ハリウッドのプロデューサーなどは、女優に対しておこなったグルーミングやセクハラがたとえ数十年前の行為であっても問題視され、業界から「永久追放」されている。一方で、日本では映画監督や役者が同様のことをやっても一定の擁護論が出るし、時間が経過すれば「復帰」もできる。  このように「性犯罪」に厳しい欧米社会の常識では、この卑劣な犯行を長年、組織ぐるみでおこなってきた企業が、社会的責任を有する大企業と関係と持つことなどあり得ない。  「テレビCMに出稿する大企業」の中には、そのような欧米社会で顧客や株主をもつグローバル企業も少なくない。つまり、このような企業に対して、「創設者の性加害を容認、手伝ってきた事務所のタレントをCMに起用するとは何事だ」という圧力がかかる恐れもあるのだ。

■テレビ局も「ジャニーズ切り」せざるを得ない  こういう事態になったら、そのグローバル企業としてはまずは電通や博報堂といった大手広告代理店を呼びつけて、「どうなっているんだ!  テレビも新聞も騒がないからこのまま鎮火をするって話じゃなかったのか」と文句を言うだろう。  しかし、「スポンサータブー」を持ち出せば、ある程度「自粛」をしてくれる日本のテレビや新聞と違って、海外メディアにはそういう忖度(そんたく)は一切ないので、大手広告代理店としても打つ手がない。  そうなると、そのグローバル企業はどうするのかというと、ジャニーズタレント出演のCMの放映中止と今後も起用しません、という宣言をするのだ。こうなると、テレビ局としても「ジャニーズ切り」に動かざるを得ない。  このパターンは、『週刊新潮』で銀座ホステスへの性加害報道が出た香川照之さんのケースがわかりやすいだろう。

■トヨタのちゃぶ台返しで情勢が変わった  忘れてしまった人も多いだろうが当初、テレビ局の間ではこの問題は、香川さんが謝罪・反省することで「一件落着」という方針で進んでいた。実際、報道が出た後にもかかわらず、香川さんはTBSの報道番組に出て謝罪してそのまま出演していた。この時点でテレビ業界では、人気俳優のホステスへの性加害は、「失言」程度のリスクだったのだ。  しかし、あるグローバル企業の判断によってこれがちゃぶ台返しでひっくり返される。そう、報道から1週間後、国内外の世論の反応を分析していたトヨタ自動車が、香川さん起用のCMの全停止を発表、過去のコンテンツも閲覧できなくさせたのである。  ご存じのように、同社は「トヨタタブー」なんて言葉もあるように、日本の広告ビジネスにおけるキャスティングボードをがっちり握っている大スポンサーだ。トヨタが明確に「ノー」と言っているタレントをCMに起用する企業も広告代理店など存在しない。そうなると当然、スポンサーさまさまのテレビ局もこれに追随しないわけにはいかない。  かくして、香川さんはテレビ界から「追放」になった。罪の重さでこうなったのならば、報道が出た直後にこうなっていなければおかしいが、一度は「不問」になりかけたのにこうなったというのは、「大スポンサーの逆鱗(げきりん)に触れた」以外に理由はない。  これとまったく同じことが、今回の問題でも繰り返される可能性はある。

■テレビ局が「共犯者」として叩かれる未来  つまり、今の段階では「創業者の個人犯罪」ということなので、ジャニーズタレントは当たり前のようにテレビ番組やCMに起用されているが、海外報道をきっかけに「組織ぐるみ」という疑惑が持ち上がり、国際的な批判を嫌がったトヨタのようなグローバル企業が、ジャニーズの広告起用を停止すると宣言したら……。  香川さんのような「追放」になるとは考えにくいが、ジャニーズ帝国にとってはこれまで経験したことがない、「逆風」が吹くのは間違いない。  そうなると当然、「事実関係がわからないのでコメントを差し控える」なんてモゴモゴ言って揉み消す気マンマンだった民放テレビ局も「共犯者」扱いされてボロカスだろう。  ましてや、自分たちが長年、利益を得てきた日本のショービジネス界の「タブー」を、海外テレビ局の調査報道によって世界中に晒されてしまったわけなのだから、同じテレビ局としてこんなに恥ずかしいことはない。また、「日本には報道の自由がない」という現実を世界に示してしまったという点でも、国民の信用はガタ落ちだろう。

■いつまで「報道しない自由」を行使するのか  国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が毎年公表している「報道の自由度ランキング」で、日本は調査対象の180カ国・地域のうち68位で、G7の中でダントツの最下位だ。  この毎度おなじみの情けない評価について、日本のマスコミは「安倍政権の恐怖政治で現場の記者が萎縮している」「一部のジャーナリストが海外で日本の報道環境を不当に貶めている」なんて訴えて、「誰かのせい」にするのがお約束だ。  しかし、今回の民放テレビ局の対応を見る限り、「自分たちの商売の足を引っ張るような話はお口にチャック」という感じで、勝手に権力者に忖度して「報道自粛」をしているからではないか、と勘繰ってしまう。  いずれにせよ、報道機関を名乗りながら、自社のビジネスのためには「報道しない自由」を行使する民放テレビ局の危機管理は、かなりヤバい窮地へと追いやられている。  海外メディアの続報が出て国民にそっぽを向かれる前に、報道機関らしいことをしておくか。あるいは、ジャニーズ事務所と心中する勢いで、このスキャンダルを全力で握り潰すか。  これまでの経緯からは後者のような気もしなくないが、放送人たちの「最後の良心」に期待したい。 ———- 窪田 順生(くぼた・まさき) ノンフィクションライター 1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)など。 ———-

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