爆発的に売れ始めたスマートフォン(高機能携帯電話、スマホ)に需要の一部を奪われ、携帯ゲーム機やデジタルカメラといったデジタル製品が伸び悩む現象が広がっている。1台で何役もこなすスマホが伸びるにつれ、専用機器の需要が目減りする事態も顕在化。スマホとの攻防が激しさを増している。
◆ツイッターで台頭
台風15号が縦断した21日、東京・渋谷でタクシーが強風になぎ倒された大木の下敷きになると、短文投稿サイト「ツイッター」に多数の画像が投稿された。大半はスマホで投稿された可能性が高い。通信機能のないデジカメにはできない芸当だ。
スマホは従来型の携帯よりカメラの性能が高く、アプリケーションを使えば画像の加工もできる。カメラ事業などを担当するパナソニックの北尾一朗・DSCビジネスユニット長は「コンパクト型カメラの販売は厳しくなる」と危機感を隠さない。
「これほどまでとは…」。9月中旬に千葉市で開かれた見本市「東京ゲームショウ」でコナミの担当者は、スマホなどでネットユーザーと交流しながら遊ぶソーシャルゲームの人気に改めて驚いた。会場でのプレゼントを告知したところ予想を超えるファンが押し寄せたからだ。同社のソーシャルゲーム部門は4~6月期の営業利益が78億円と家庭用ゲームの77億円を初めて上回り、稼ぎ頭となった。
一方、対照的なのがゲーム機メーカーだ。任天堂が2月に発売した携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」の今年度の世界販売目標は1600万台だが、まだ400万台しか売れていない。8月には価格を1万円引き下げて1万5000円にしたものの、販売は伸び悩んだまま。ある業界関係者は「スマホに押されているのは明らか」と言い切る。
MM総研によると、スマホの2011年度の国内出荷台数は前年の2.3倍に達し、12年には従来型の携帯を上回る見通しだ。MM総研の横田英明取締役は「機能が少し劣っても、スマホやタブレット型端末があれば専用機は要らないという人は多いはず。性能差が少ない低価格の普及品が危ない」と指摘する。
◆付加価値高め勝負
テレビや辞書、携帯音楽プレーヤー、カーナビゲーション…。スマホはさまざまな機能で専用製品を脅かす。実際、2年前まで人気を集めていた低価格パソコンのネットブックは、スマホなどの普及を機に販売が一気に落ち込んだ。こうした中、専用製品を持つメーカーが対抗策や防衛策に動き出した。
ソニーは12月に発売する携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」の新製品の一部に、通信機能と米グーグルの基本ソフト(OS)を搭載し、楽曲を直接取り込めるスマホ並みの機能を加える。今年の国内市場が昨年より60万台少ない600万台に縮小するとみられ、「背景にスマホの存在がないといえば嘘になる」(同社)状況の中、浸食に歯止めをかける狙いがある。
カーナビでは価格戦略に影響が出始めた。パイオニアは最新のAR(拡張現実)技術を採用した高級カーナビを5月に発売したが、前モデルより5万円程度安くした。カーナビはここ数年、持ち運びが可能な低価格ナビ(PND)が売れているが、ナビ機能を持つスマホの登場で値下がりが加速している。「(つられて)一般のカーナビも中心価格が下がっており、中高級機の付加価値を高めて対抗したい」(同社)という。
デジカメでは、HOYAが一眼レフから光学部品の一部を省いた「ミラーレス一眼」で、初の新製品「ペンタックスQ」を8月末に投入。スマホと競合せず、高級カメラの付加価値を高めて収益を確保する戦略だ。
MM総研の横田取締役は「スマホの性能が高まり、専用製品との垣根が低くなるほど打撃は大きくなる」と予測。「スマホ対専用機」の構図は今後さらに鮮明になりそうだ。(井田通人、日野稚子)