スマホはレイトマジョリティに、SEOは古典に–2013年上半期、アプリビジネスの考察

 2008年7月11日、日本でiPhoneが発売された。あれから5年が過ぎ、スマートフォンは今や誰もが日常的に使う道具である。もはやスマートフォンはレイトマジョリティ商品となった。ソーシャルメディアの発展と時を同じくして、スマートフォンとソーシャルが数々の変革を促し、世界は変わった。もしかすると変わったことに気付かないほどに人々の日常に浸透しているのではなかろうか。それこそが本物のイノベーションであったと言える。イノベーションは5年前に起きていたのだ。
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2008年7月11日、日本でiPhone 3Gが発売
 スマートフォンが手放せない道具となり、月額会員制ケータイコンテンツ業界は崩壊した。ケータイコンテンツからアプリへ。ビジネススキームは携帯電話会社の月額会員制課金から、App StoreなどOSプラットフォーマーのアプリストアでのダウンロード課金または無料からのアイテム課金へと変わった。ケータイコンテンツではブラウザ型のコンテンツと呼ばれるウェブページ情報のリッチ版が主体であったが、アプリではネイティブアプリと呼ばれるスマートフォン向け専用ソフトウェアが主力である。
SEOからソーシャルへ
 この5年間を経てインターネットの利用方法で大きく変わったのはソーシャルだ。Facebook、Twitter、LINEなどソーシャルメディアと呼ばれる情報流通が、人々の「知る」という行為に変革をもたらした。自分の友達や趣味のあう第3者など「フォロー」することで知りたい情報や、気づいていなかったけれども有益な情報、これぞ欲しかったものだ、という情報を知ることができるようになった。新たな気づきや発見がもたらされることがソーシャルメディアの面白さの源泉だ。
 インターネットで商品を売る全ての事業者の必須事項は「SEO」である。検索エンジン最適化と呼ばれる手法は単語が検索されたとき自分のウェブページが上位に表示されるようにするものだ。検索ページで上位にあればあるほど、そのページに来訪する人が増える。来訪者が増えれば売上も増えるというロジックだ。しかし、SEOの最大の弱点は「単語を検索してもらうこと」である。検索されなければ自社ウェブページにたどりついてもらえない。そのためにテレビCMなどで「○○を検索!」と連呼する。単語を浸透させたり検索してもらう動機を人々に与えなければならないのだ。
 ソーシャルメディアはSEOの弱点を吹き飛ばした。単語を能動的に検索してもらう必要がないのだ。つぶやかれた情報に興味が沸き、その中にURLが載っていれば、すぐにクリックして該当ページを確認できる。検索という手間を省くことができる。その情報がフォローしている人からの情報であれば自分の趣味に合うことも多いはずだ。
 「SEO」はストック型情報を取り扱い、倉庫の物品を販売するには適している。ロングテールの源だ。しかし鮮度の高い「今」や「旬」の情報を伝える力はソーシャルメディアが圧倒的だ。リアルタイム性をもった鮮度の高い情報とは「フライングで販売開始」「さきほど値下げされた」「今テレビで放送されている」などだ。さらに、自分だけでは知り得なかった興味があるはずの未知の情報を「気付かせる」という新しい道具でもある。
 知らなかった本の感想がタイムラインに現れ、なんとなくクリックしたら書評のブログに飛び、なんとなくアマゾンのページに飛んでしまい、読みたくなって買ってしまった、という経験はないだろうか。友達が使っているというアプリのレビュー記事がツイートされて、記事を読んでみたら便利そうだったのでApp Storeでダウンロードしていた、というのはどうだろう?筆者にとっては、これは当たり前になっている。この購買行動は一般的になりつつあるのではないだろうか。
アプリストアはインターネット販売事業の最先端
 スマホが一般化したことでアプリストアはマス商材市場としての地位を確立し、売上上位の会社では月商1億円以上を稼ぎ出している。
 スマホがイノベーション商材だった数年前はアプリ販売もアーリーアダプター向けの商材だった。しかし、マス化した今、アプリは誰もが購買対象者となる一般商材となった。これがもたらした大きな変化はテレビである。
 テレビでアプリの紹介をされることが多くなった。だれもが使っているスマホだからこそ、有為なアプリ情報をテレビが伝えるようになったのだ。2013年の春頃から筆者がしているルーチンに「ガラポンTVで単語『アプリ』を検索する」というタスクが加わった。ガラポンTVとはワンセグ全局を録画し番組情報や字幕を検索できるというHDDビデオレコーダだ。一般消費財のマーケティングパーソンには必要不可欠な道具であると言っても過言ではない。対象商材がテレビで紹介されたかどうかを字幕の単語検索で逐一チェックできるからだ。
 テレビでアプリが紹介されるとどうなるか。ランキングが上昇するのだ。つまり、その瞬間から売れる。マス商材であり、在庫が存在せず、直ぐにダウンロードして買えるからこそ反応が早い。
志村どうぶつ園でわんショットが話題に
志村どうぶつ園でわんショットが話題に
 例えば5月11日のゴールデンタイムに放送された志村どうぶつ園で「わんショット 」というアプリが紹介されていた。このアプリはもともとApp Store有料総合ランキングでランク外だったが、放送後にいきなり2位に登場したのである。これは“倉庫型商材”の典型だ。テレビによって注目されるとアプリ名などが検索され、検索サイトからアプリストアへ誘導、購買へとつながるパターンだ。数千万人に届くテレビで商材が紹介、購買行動へ直結するマス的購買行動の典型例だ。テレビが購買に与える影響力を見直す良い題材でもある。なお、この場合の検索は商品が特定されているためSEOに意味はない。
インターネットマーケティングの最先端は今夏の選挙にも投入されている
 もう一つ例に挙げたいのが「あべぴょん」(iOS、Android)だ。安倍総理をモチーフにしたカジュアル・ゲームで自由民主党の公式アプリとなっている。インターネット選挙解禁の最初の選挙として注目が集まる中、ゆるくて、手作り感満載なアプリであるが、そのゆるさとは裏腹にマーケティングは最先端だ。あべぴょんを検証すると、PRやダウンロードへの誘因、固定客化の強化プロセスなどさまざまな施策が随所に施されたプロの策であることがわかる。
 このアプリは5月中旬にリリースされジワジワと話題が形成された流れでダウンロードランキングが上昇し、ゆったりと総合無料ランキングで50位前後をキープしている。図はQuerySeeker Analyzeで取得したマーケティング指標データだ。1段目の赤いグラフがダウンロードランキング、2段目以下のグラフはメディア掲載数、Twitter数、ストアのレビュー数だ。
あべぴょんの分析(QuerySeeker Analyzeで取得したマーケティング指標データ)。1段目の赤いグラフはダウンロードランキング、2段目以下のグラフはメディア掲載数、Twitter数、ストアのレビュー数
あべぴょんの分析(QuerySeeker Analyzeで取得したマーケティング指標データ)。1段目の赤いグラフはダウンロードランキング、2段目以下のグラフはメディア掲載数、Twitter数、ストアのレビュー数
 アプリをリリースして最初にすることは、アプリを知ってもらうことだ。これは全ての商材に共通することであり、予算があれば広告を大量に投入することで商材を知ってもらう。あべぴょんの場合は広告は全くしていないと推測できる。これはランキングの動きを見るとリリース後にランキング300位外の日が何日も続いているからだ。すぐにランキングに登場できるようにする広告は「リワード広告」「ブースト広告」と呼ばれるもので、広告露出期間と予算から何時間で何位前後など、相応の実績を導き出せることは既に業界の常識だ。あえて広告しない道を選んだのだろう。
 広告を使わずに、商材を知ってもらいダウンロードしてもらうには、知ってもらう手段を用意しなければならない。これがウェブプロモーションの神髄だ。一言で言えば話題を提供することだ。あべぴょん──それ自体が話題の提供元だ。総理をちゃかした政党公式アプリはメディアで取り上げられる可能性が高く自然に話題を広げやすくする。
 QuerySeeker AnalyzeのMedia&Blog、Twitterの動きを見るとメディア掲載が先行し、Twitterが日増しに上昇、その流れに乗った後、ダウンロードランキングが上昇していくという王道が展開されている。これはメディアに掲載された情報がTwitterを媒介して人々に情報認知が広がった先にダウンロードという行動が発生しているのだ。つまりソーシャルメディアによる自然認知と購買行動を組み合わせた方法論である。
たかじんのそこまで言って委員会であべぴょんが話題に
たかじんのそこまで言って委員会であべぴょんが話題に
 更に話題はネット上だけに留まらずテレビでも放送される。ガラポンTVで単語「アプリ」を検索した際、6月30日に関西地域などで放送されるローカル番組の「たかじんのそこまで言って委員会」であべぴょんが話題にされていることが分かった。すると、この直後に、突然ランキングが10位以上上昇したのだ。マス化したスマホはテレビからの影響も確実に反映し、複合的にランディングページへの導線として結合されていく。
 またTwitterでの情報流通として、アプリで遊んでいる人が、その内容をつぶやくような作り込みがされていることも見逃せない。点数やクリアした段階などをクチコミできるようになっているのだ。あべぴょんにもこれが実装され、知人が遊んでいるなら自分もやってみようという層を取り込む手法が導入されている。集客だけでなく、いつも遊んでもらうという固定客化プロセスとしても機能する。つまり集客と固定客化を同時に行なう実装がなされているのだ。これは以前紹介した「対戦☆ズーキーパー」などの手法と全く同じだ。
 アプリストアはソーシャルメディア特性とマスプロダクションであることを念頭にさまざまな施策を打つことで攻略できる。マスになったが故にアプリストアの方法論は、インターネットで取り扱う商材全てに応用できる方法として取り扱えるのではないだろうか。ソーシャルメディアによる自然認知だけだなく、ブースト広告などによる購買促進も定番化されたものとなった。スマホとアプリストアはインターネットビジネスの先端市場であり、マーケティング手法のショウケースと言える。ただし、商材たるアプリは最高のものでなければならないのだ。

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