スマホバブルがはじけた3つの理由

 2007年の初代「iPhone」の発売をきっかけに、日本国内でも急速に拡大したスマートフォン市場。とりわけ2013年度は、トップシェアを誇るAppleのiPhoneシリーズの好調が市場全体をけん引し、スマートフォンの出荷比率が端末販売市場全体の75.1%(MM総研調べ)を占めるなど、”スマホバブル”の様相を呈していた。
【グラフ:携帯電話端末出荷台数の推移・予測】
 しかし、ここにきてスマホバブルの雲行きが怪しくなってきた。
 2014年10月30日にMM総研が発表した最新の統計資料によると(参考記事)、2014年度上期の端末出荷台数は過去最低の1578万台、そのうちスマートフォンの出荷台数は1050万台となった。端末出荷台数は前年同期比で4.1%の減少であり、端末販売全体に占めるスマートフォン比率も66.5%に低下。端末販売全体が縮小しているのはもちろんだが、これまで市場全体のけん引役だったスマートフォンが大きく失速してしまっている。
●フィーチャーフォンからの移行特需の「終わり」
 MM総研では2014年度通期の端末総出荷台数を3530万台(対前年度比10.4%減)とした上で、スマートフォンが2510万台(15.2%減)、フィーチャーフォンは1020万台(4.0%増)という予測を立てている。台数自体はスマートフォンの方がフィーチャーフォンより多いものの、対前年度比の伸びを見れば、フィーチャーフォンの方が大きく増加。総出荷台数におけるスマートフォン出荷台数比率は71.1%となり、対前年度比から4ポイントも落ちてしまう模様だ。フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行特需が終わりを迎えたといってもいい状況になってきている。
 しかし、フィーチャーフォンの市場シェアは今年3月末時点で約50%。未だ6000万台弱が残されている。買い換え需要の中心が、トレンドに敏感なアーリーアダプター層(先進層)からマジョリティ層(一般ユーザー層)に移ったとはいえ、移行特需が終わるには早過ぎるように思える。
 なぜ、移行が急減速してしまったのか。理由は大きく3つある。
 1つは今年春先まで行われていた、過度なキャッシュバック競争の反動だ。周知の通り、2013年から2014年の春商戦にかけて、キャリア各社がMNP(番号ポータビリティ)での乗り換えに対して、1ユーザーあたり4~5万円ほどのキャッシュバックを提供して拡販競争を繰り広げた。ひどい例では、複数契約でMNPを使いキャリアを乗り換えると、数十万円のキャッシュバックが支払われるケースもあった。この高額キャッシュバックの適用対象になったのが、iPhoneをはじめとするスマートフォンだったのである。
 しかし2014年度に入ってから、総務省の指導やキャリア各社の自主的な販売方式見直しがあり、高額なキャッシュバック競争が下火になった。今までのように「高額キャッシュバックがもらえて、(フィーチャーフォンよりも)購入価格が安くなるから」という”目先のお得感”でスマートフォンが買われることがなくなった。
●払拭できぬ割高感
 2つ目の理由は、スマートフォンの維持費に対する割高感が払拭されないことである。スマートフォンはフィーチャーフォンに比べて大量かつ頻繁にパケット通信を行うことから、定額通信料の設定が元々“高め”。さらに今年度に入ってから導入された新料金プランで、基本料金に音声通話定額が組み込まれて値上がりし、パケット料金の設定も家族契約や複数台利用を前提にしたものに変更された。
 この新料金プランは「家族契約もしくは1人複数台利用を前提にし、音声通話・パケット通信ともに平均的に使う」のならばボリュームディスカウントが効いて安くなる。しかし、家族契約をしていなかったり、そもそもの利用量が少なかったり、逆に音声通話をあまりせずに一般平均よりもパケット通信量が多い、といったユーザーには割高・値上げとなるものだった。
 一方、現在のフィーチャーフォンユーザーを見ると、1ユーザーあたりの月間支払額は3000~4000円前後。パケット料金定額制の上限まで達していないというユーザーも少なくない。本来であれば彼らの利用形態にあわせて月々の維持費が安いスマートフォン向け料金プランが必要なのだが、スマートフォンでは販売コストやサポートコストがかさむことや、既存ユーザーのARPU(平均事業収入)が下がる恐れなどもあり、大手キャリアはそうしたプランを打ち出せずにいる。その代わりに導入されたのが、家族などの複数契約をまとめてボリュームディスカウントをかけるという新料金プランなのだが、これだと1ユーザーあたりの維持費が分かりにくくなるため、「スマホは維持費が高い」という割高感が依然として払拭できずにいる。
 「スマホに乗り換えても、月々の利用料はあまり上がらない」というイメージ作りは、大手キャリアにとって喫緊の課題と言えるだろう。
●LINEに続くキラーコンテンツを
 そして、3つ目の理由。それは「スマートフォンらしいキラーコンテンツの不足」である。
 日本のスマートフォン市場におけるキラーコンテンツは、言わずと知れた「LINE」である。とりわけ若年層や女性層では、“LINEをするためにスマホを買う”のが大きな目的となっているわけだが、このLINEに続いて社会的ムーブメントになるようなスマートフォンのキラーコンテンツが出ていないのが実情である。ユニークなアプリやサービスはあるのだが、誤解を恐れずに言えば、同調圧力で「スマホを買わなければならない」と感じさせるようなものが不足しているのだ。
 スマートフォン時代のキラーコンテンツ/サービス作りについては、これまでネット企業を中心に行われてきたが、今後は大手キャリアの役割が重要になる。なぜなら、ITリテラシーがそれほど高くない一般ユーザー層との接点やアフターサービス体制を持つのは大手キャリアだからだ。
 そういった観点では、NTTドコモが以前から注力する「dマーケット」はとても重要な段階に入っており、KDDIが先に発表した「Syn.構想」にも期待がかかる。また、ソフトバンクでは「Yahoo! Japan」のスマートフォン向けの取り組みとグループ内の連携に注目したい。スマートフォンを生かすも殺すもこれら大手キャリアのコンテンツサービスの今後にかかっており、それらの取り組みが成功するかが、日本市場でのスマートフォンの盛り返しを左右することになるだろう。

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