大成建設が開発した、街からどの程度の二酸化炭素(CO2)が出ているかを簡単に把握できる独自のシミュレーターが注目を集めている。都市全体のエネルギー供給を効率化する「スマートシティ」計画が相次ぐなか、ニーズが急速に高まっているからだ。国内の建設投資が伸び悩む中で、スマートシティは数少ない成長領域の一つ。他社と差別化した技術をテコに、受注を優位に進める取り組みがゼネコン各社間で広がりそうだ。
大成建設が開発したのは、「低炭素街区・都市総合シミュレータ」。建物周辺の風の流れや温度を計算するプログラムと、建物や街区のエネルギー使用量、CO2排出量を計算するプログラムを併用して生み出した。
試算の流れはこうだ。まず、建物周辺の風の流れや温度、太陽光の量が1年間を通じてどれくらいあるかを計算し、建物に与える影響を試算。それを基に、建物と街全体に必要な空調や照明などから出るCO2排出量を弾き出す仕組み。この試算に基づいて、建物の熱需要が小さくなるように建物の形状・配置の工夫ができるうえ、太陽光発電や風力発電の発電量が大きくなるように設置場所を変更するなど都市計画の改良が行える。
また、すべての解析を3次元上で行うため、CO2排出の原因から結果までの流れが一目瞭然となり、より実態に即した街づくり計画が立てられるようになる。
大成建設によれば、年間を通じての試算が可能で、さらに建物単体だけでなく、街全体の予測ができるシミュレーターの開発は大手ゼネコンでは初めてという。同社では「他社との大きな差別化材料になる」とし、スマートシティへの適用を視野に入れる。
国内ではスマートシティ建設計画が相次いでおり、パナソニックは2013年度に神奈川県藤沢市に1000戸の省エネ住宅を建設する計画を表明。三菱電機も同県鎌倉市などで効率的な送変電システムや省エネ住宅の稼働試験を開始し、東芝も府中事業所(東京都府中市)で太陽光発電やオフィスビルへの冷熱供給の効率化を試している。
東日本大震災と福島第1原子力発電所の事故で省エネの関心が高まり、不動産や住宅各社も軒並みスマートシティに乗り出す中で、シミュレーターを受注できれば、工事の受注にもつなげられるという思惑があるわけだ。
ただ、スマートシティなどをめぐっては、ゼネコン各社の受注争奪戦も激化している。鹿島は新築オフィスビルのCO2排出量を「差し引きゼロ」にする技術の確立を急ぐ。太陽光や地中熱など再生可能エネルギーをフル活用し、2020年にはビル1棟から出るCO2を理論上、差し引きゼロにできる“究極のエコ”ビルを提案し差別化につなげる。
清水建設はスマートグリッド(次世代送電網)に対応した環境対応オフィスの開発に力を注ぐ。太陽光発電と蓄電池を組み込んだシステムに加え、在席時にだけつく照明・空調を導入。従来のオフィスに比べCO2の排出量を6割削減できる特徴を売り込み、受注の拡大につなげていく構えだ。
国内の建設投資は、公共事業の急減や民間設備投資の縮小で漸減を続け、ピークの1992年度には84兆円あった市場規模が、10年度には半減の41兆円まで縮んだ。それだけに今後も安定的なニーズが見込まれるスマートシティ商戦がヒートアップするのは確実で、技術開発競争も激化しそうだ。(今井裕治)