“スマートフォン好調”で変わり始めた携帯3社の販売戦略

 5月17日と18日、2010年の夏商戦に向けた携帯電話3キャリアの新端末発表会が相次いで開催された。 NTTドコモがスマートフォンを拡充するのに対し、KDDI(au)はユーザービリティの強化を打ち出した。ソフトバンクモバイルはコミュニケーションサービス「Twitter」との連携で新規利用者の獲得を狙う。各社の戦略は異なるが、スマートフォンの要素を従来端末に取り入れる傾向が強くなっている。各社の発表から、今後の動向と取り組みについてまとめてみよう。
スマートフォンを主軸に全方位戦略をとるNTTドコモ
 NTTドコモは、多様化するユーザーニーズに合わせた端末やサービスを提供することで、顧客の満足度を高める戦略をとる。その主軸となるのが、 Xperiaの好調で拡大を続けるスマートフォンだ。今回、新たに「LYNX SH-01B」「dynapocket T-01B」「BlackBerry Bold 9700」の3機種を投入する。さらに秋には、サムスンのAndroid端末「GALAXY S」をベースとした機種を投入することを表明している。
 そのため、同社は、従来の“STYLE““PRIME”“SMART”“PRO”“らくらくホン”といったシリーズ分類のうち、PROシリーズからスマートフォンを独立させ、新たに“ドコモスマートフォン”として訴求していくと発表。スマートフォンでは“SO-01B”といった型番ではなく “Xperia”というように、固有のブランド名で展開していくという。
 一方、通常の音声端末においては、冬・春商戦で好調だったインテリア・ファッションブランドとのコラボレーションモデルを強化、新たに「EMILIO PUCCI」「kate spade」などを加え、6モデルへと拡充している。ほかにも、ハイビジョン動画の撮影が可能なモデルを3機種を投入したり、ミニパソコンサイズでフルキーボードを備えた「N-08B」を投入したりするなど、機能重視の音声端末を求めるユーザーへの訴求も継続して強化している。スマートフォンを含めると、端末の形状が10種類に拡大しており、ユーザーの選択の幅を大きく広げてきている。
 そしてもう1つ強化されているのが、無線LAN経由でゲーム機やPCなどを接続する“モバイルルーター”である。専用の「ポータブルWi-Fi」が新たに導入されるほか、音声端末でも「F-06B」「N-04B」「N-08B」の3機種にモバイルルーター機能「アクセスポイントモード」を搭載。パケ・ホーダイ ダブルのPC接続時の料金上限額を1万395円に下げるなどモバイルルーターとしての利用を促進する施策も用意。ソフトバンクモバイルのSIM ロックがかかる形となったアップルのタブレット型デバイス「iPad」の需要に食い込みたいという強い思いもあるようだ。
高速CPUの対応などで“ユーザビリティ”を強化するau
 先行してスマートフォンやスマートブックの“ISシリーズ”を発表しているauは、ビジネスの主力となっている音声端末のラインアップを強化した。
 同社は、iidaブランドでデザイン、ガンガンメール、ガンガントーク(指定通話定額)で料金に対してこだわりを見せてきたが、その次のこだわりとして、今回打ち出したのが、“ユーザビリティ”である。
 ユーザビリティの強化点として、主なポイントは3つある。1つ目は防水。携帯電話の防水に対するニーズは年々高まっており、最近では防水端末のラインアップも増加している。だがauは今回、全ての音声端末を防水対応とし、利用者の安心を高め、使い勝手を向上させている。
 2つ目は、文字入力。携帯電話のメールが必須の連絡手段となっていることから、文字入力に対するニーズは高まっている。だが一般的な数字キーによる文字入力でも、ユーザーによってボタンから指を離して打つ、滑らせるようにして打つ、両手で打つなど、異なる傾向があるという。そのため、今回、こうした入力のしかたの違いに応じて、3種類のキーパッドを付け替えられる「beskey」という端末を導入することを発表した。
 そして、3つ目は、最も大きな強化点として挙げられた新しいプラットフォームである「KCP3.0」。これはauのプラットフォームを、「Xperia」「HTC Desire」など多くのスマートフォンに採用されている、クアルコムの高速CPU「SnapDragon」に対応させたもの。機能的に大きな変化はないが、CPUの高速化によってキーレスポンスや画像の表示処理などが向上し、操作性が大幅にアップしている。バッテリーの消費が大きくなるという問題を抱えてはいるが、CPUの高速化で、レスポンスの向上だけでなく、今後さらなる機能向上が実現できる可能性が出てきたともいえる。
“Twitter”への注力を示すソフトバンクモバイル
 iPhoneの販売に続き、iPadのSIMロックによる提供を実現したソフトバンクモバイルは、同社の孫正義社長が積極的に活用しているコミュニケーションサービス「Twitter」との連携を強く打ち出した。
 Twitterは、スマートフォンユーザーの利用傾向が高い一方、一般的な携帯電話からの利用率は高いとはいえない状況だ。そのため、携帯電話からの Twitter利用を促進するべく、専用のクライアントを用意。今回発表された音声端末のうち13機種に「twinaviウィジェット」と「Twitterウィジェット」、そして「TweetMe for S! アプリ」をプリインストール、あるいは対応させるとした。
 同社の新製品発表会場においては、Twitterのモバイルビジネス部門のトップであるKevin Thau氏が登壇。さらにプレゼンテーションでは、今回の発表会に関するツイート(つぶやき)が常時表示されるなど、Twitterが大きく前面に打ち出されていた。
 とはいえ、Twitterは現在、EMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)の認定を受けていないため、フィルタリングサービスを適用している 18歳未満のユーザーは利用することができない。このことについて、質疑応答で問われた際、孫氏は「Twitterがフィルタリングされるようでは、世界中から笑われる。大人と学生がコミュニケーションすることができないのはナンセンス」と話し、現在の未成年フィルタリングの動向に対する疑問を投げかけた。
 その後、さらに、Twitterのフィルタリングに関して政府や総務省に対する過激な発言が飛び出し、会見後に訂正を入れるという一幕も見られた。こうしたところからも、孫氏、ひいては同社がTwitterに強く力を入れていくという方針を見てとることができる。
スマートフォンの要素を取り入れて進化する音声端末
 こうした各社の取り組みを見ると、3社ともにその戦略は大きく異なるように見える。だが、音声端末に対する取り組みを見ていると、1つの大きな傾向が見えてくる。それは、従来の音声端末が、スマートフォンの要素を取り込むことで変化を見せているということだ。
 ハード的に見ると、各社が無線LAN機能を搭載、あるいは搭載できる端末を増やしてきたり、auがSnapDragonを採用した端末を投入したりしてきている。過去にもタッチ操作などさまざまな要素がスマートフォンの影響を受けて導入されているが、その傾向が一層加速しつつあるようだ。
 ソフト的には、ソフトバンクモバイルがスマートフォンでの人気を受けてTwitterを採用したことや、auが「au one」ラボで提供予定の「セカイカメラZOOM」に、Twitterとの連携機能を搭載するといったことが大きなポイント。こうしたオープン性の高いネットコミュニティサービスを、キャリア自身がサービスとして率先して採り入れてくるというのは、かつてコミュニティ関連のコンテンツ・サービスに厳しい姿勢をとっていたことを考えると、非常に大きな変化だといえる。
 一方で、13メガピクセルカメラを搭載した機種(「CA005」「P-04B」など)や、フルハイビジョン映像の撮影ができる機種(「SH-07B」「F-06B」)が登場するなど、従来型の進化も続行。音声端末の販売が振るわないことから、革新性が失われつつあるといわれてきているが、スマートフォンの盛り上がりをうまく取り入れることで、再び新たな進化の方向性を見出しつつあるようだ。
 そのスマートフォンに関しても、各社共通した動きが見られる。auは今回の発表に先んじてISシリーズの発表会を実施しているし、ソフトバンクモバイルも今回はスマートフォンに関する発表をしていない。唯一、スマートフォンの発表をしたNTTドコモも、「GALAXY S」に関しては別のタイミングで発表するとしている。
 キャリアが提供するサービスと紐付かず、OSのアップデートが可能なスマートフォンはモデルチェンジまでの期間も音声端末とは異なる傾向が強まっている。それゆえスマートフォンには音声端末と同じようにシーズン毎に投入するという戦略が必ずしも適しているとは言えなくなった。キャリア・メーカー共に従来とは異なる販売戦略が求められているといえそうだ。
(文/佐野正弘)

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