スーツにスニーカーはマナー違反? 公式行事のイニエスタらに違和感

ばっちり紺色のスーツで決めながら、足元は白色のスニーカー。サッカーJリーグ1部(J1)の開幕前にヴィッセル神戸の必勝祈願祭で見せた元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ選手とダビド・ビジャ選手の着こなしに対し、インターネット上には「スーツにスニーカーはちょっと…」などと違和感を訴える書き込みが相次いだ。確かに革靴がマナーのような気がするが、調べてみると、欧米では一つのスタイルとして定着し、実は日本でもスポーツ庁を中心に浸透を働き掛ける動きが広がりつつあった。(有島弘記)

 2月18日、神戸市兵庫区の和田神社。大勢の報道陣がカメラを構える境内に、真っ白なスニーカーを履いたイニエスタ選手とビジャ選手が現れた。元ドイツ代表のポドルスキ選手も紺色と色は違えど、スニーカーだった。

 この姿、日本政府も昨年3月から「スニーカー通勤」という形で推奨している。主導するスポーツ庁によると、働き盛りの運動不足の解消が狙い。週1回以上のスポーツ実施率(2016年度)は成人の平均で42・5%だが、20〜40代に限ると30%台前半と低い。クールビズのように市民権を得て医療費の削減にもつなげたい考えだ。

 クラブ広報によると、イニエスタ選手はいつもスーツにスニーカーを合わせるという。出身地の欧州では一般的なのだろうか。素朴な疑問を、武庫川女子大の井上雅人准教授(ファッション史)に尋ねると、答えは「定番とまでは言えないが、普及し始めている」。歴史をたどれば、1960年代にジャケットにジーンズを合わせるスタイルが米国で広がり始め、スニーカーも履かれるように。その影響が欧州にもおよび、近年はスポーツ用品メーカーだけでなく有名ブランドも売り出し、ファッションとして取り入れられたという。

 それでも「スーツには革靴」の方がしっくりくると指摘すると、井上准教授は「そもそも、私たちが思うフォーマルは近代の欧州貴族の価値観を反映しているにすぎない」ときっぱり。欧州では革靴職人の減少も重なり「マナーが廃れているのではなく、歴史的に見ると19世紀以降の特殊な価値観が消えつつあるという見方ができる」と説明した。

 シューズ販売の現場も動き始めている。大丸神戸店は昨秋、同庁の取り組みに呼応したイベントを開いた。「ただ単にスーツに合わせるだけでは体育の先生になってしまう」と販売促進担当者。スニーカーに合う細身のパンツをはじめ、履くこと自体の抵抗感を和らげるため、革靴のように見えるスニーカーや落ち着いた色目の一足を提案した。

 イニエスタ選手ら有名人の露出をきっかけに、日本でも価値観の転換が起こるのだろうか。井上准教授は、純白のウエディングドレスを広めた英国のビクトリア女王を例に「(著名人の影響による意識変革は)歴史上、たくさんある。日本社会が高齢化していることも、歩くのが楽なスニーカーの活躍を後押ししそうだ」と予測している。

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