スーパーの「アピタ」と「ピアゴ」がどんどん“ドンキ化” 一方で住民から不安の声も

「早朝の交通量が増えると通学時の危険が高まる」「深夜に営業すると若者などが店舗にたむろするから不安だ」――岐阜市にある総合スーパー「アピタ岐阜店」を“ドンキ化”しようとしたところ、住民からこんな不安の声が出てきた。

 2020年2月中旬、アピタ岐阜店はユニーとドン・キホーテのダブルネーム店舗に生まれ変わる。ダブルネーム店舗とは、ドン・キホーテUNYまたはMEGAドン・キホーテUNYのことを意味する。現在の営業時間は午前9時~午後9時となっているが、業態転換後は早朝や深夜の営業時間が拡大する予定だ。そこで、地元のPTAや自治会などで構成される「加納西まちづくり協議会」が、2663人の署名とともに「深夜と早朝の営業時間拡大をやめてほしい」といった要望をアピタの運営会社に提出したのだ。

 朝日新聞は9月14日、「(リニューアル後)営業時間が現在の午前9時~午後9時から午前8時~深夜0時に変更になる可能性を示した」「店の周辺は住宅街で、約300メートルの圏内に加納西小学校、陽南中学校、加納高校がある」と報じている。

●なぜアピタやピアゴが“ドンキ化”しているのか

 そもそも、なぜアピタ岐阜店は新しく生まれ変わることになったのか。

 ドン・キホーテなどを運営する、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH、旧ドンキホーテホールディングス)は、18年6月期に6店舗、19年6月期に10店舗、アピタとピアゴを業態転換した。22年をめどに、約100店舗を業態転換する方針だ。アピタやピアゴを運営するユニーはPPIHの子会社であり、東海地方を中心に172店舗を運営している(8月末時点)。ユニーの関口憲司社長はドンキ出身だ。

 現在のところ、業態転換は成功している。PPIHの決算説明資料によると、19年6月期に業態転換した店舗の19年2~6月における売り上げ、客数、粗利高(粗利益)は、前年同期比(転換前)でそれぞれ223%、168%、207%と伸びている。18年6月に業態転換した6店舗も、同様に好調な業績を維持している。

 業態転換の前後で、店舗の売り上げ構成比も大きく変わっている。転換前のピアゴやアピタは、売り上げに占める食料品カテゴリーの割合が約8割。転換後はその割合が約5割にまで低下する一方、日用雑貨・家電・スポーツ/レジャー用品などの比率が4割近くに増加している。転換後の店舗では、「ニューファミリー」「若年層」「男性」のお客が増えているという。

 9月24日にリニューアルオープンした「MEGAドン・キホーテUNY武豊店」(旧ピアゴ武豊店、愛知県武豊町)の場合、新たに家電・スマホパーツ売り場を展開したり、機能性アウターウェアなどを扱ったりしている。

 ドン・キホーテUNYの売り場面積は4000~5000平方メートルで、アイテム数は5万~6万点。MEGAドン・キホーテUNYの売り場面積は5000~1万3000平方メートルで、アイテム数は7万~10万点となっている。業態転換にあたっては、営業時間を延長するのが基本路線だ。

 このように、PPIHにとってアピタとピアゴの“ドンキ化”は重要な成長戦略として位置付けられているのだ。

●住民の不安にどう対応するのか

 アピタ岐阜店のリニューアルに際し、地元住民から要望が寄せられている。運営サイドはどう対応するのか。PPIHの広報担当者は「営業時間は正式に決まっていませんが、弊社といたしましては、周辺への影響が軽微になるように計画しており、必要に応じて対策を検討してまいります」と回答した。過去にも、業態転換する店舗のオープン前後に、地元住民から営業時間に関する要望が寄せられたケースはあった。ただ、そのたびに「必要な対策を講じ、地域の方々のご理解いただき、営業しております」(広報担当者)という。

 店舗ごとに状況は異なるが、「交通量の増加」や「深夜にたむろする若者」といった問題への対策として、「交通誘導員の配置」「防犯カメラの設置、敷地内巡回」「建物施設の設計(騒音・光源対策)」「店舗周辺のクリーン活動」などが行われている。

●住民の反対運動に悩まされていた過去

 ここで、過去に起こった住民の反対運動について振り返ってみよう。

 1999年、「ドン・キホーテ五日市街道小金井公園店」(東京都西東京市、現在はドイトプロ小金井公園店)に対し、地元住民が午後11時閉店を申し入れた。当時、同店は午前3時まで営業していた。創業者の安田隆夫氏は『安売り王一代』(文藝春秋刊)で、「当時の大店法(大規模小売店舗法)のもと、同店の深夜営業は法律的になんら問題がなかった」と主張している。しかし、「事を荒立てるべき時ではない」と判断。営業時間の短縮に踏み切ったという。その後も同様の反対運動は別の地域にも飛び火し、マスコミから大バッシングを受けた。安田氏は「創業以来の経営危機に立たされた」と振り返っている。

 こうした反省を踏まえ、当時のドンキは運営会社の純利益の5%を「あらかじめ環境対応コストとして予算に組み込み、店舗周辺の清掃、警備員による巡回管理や車誘導などを大幅に強化」(同著)するようになったという。

 現在、「ドン・キホーテ」の名が付く店舗数は増え、知名度も格段に向上した。PPIHは地域に配慮した数々の施策も講じているので、過去のような大規模な反対運動が起きるとは考えにくい。ただ、油断をすると「2022年をめどに、約100店舗を業態転換」という目標が揺るぎかねない。

 アピタ岐阜店が生まれ変わった後の営業時間や、周辺への環境対策が注目される。

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