“スーパーの神様”が説く商売の極意「何でもある」ではダメ!

 「何でもある」は「何にもない」に通じる-。ただ品数が多い店では購買意欲がそそられない。イトーヨーカ堂中国総代表として、1996年より“未開”の中国市場をゼロから開拓し、成功させた塙昭彦さん(69)。スーパーの神様が説く商売の極意とは-。
 現在、イトーヨーカ堂は中国で北京市と四川省に計13店を展開する。とりわけ成都店は週末に約3万5000人が押し寄せる繁盛店。96年、ヨーカ堂の専務取締役中国室長として単身乗り込み、中国でスーパー「イトーヨーカドー」の存在を浸透させていったのが塙さんだ。
 売れる店づくりの原点は同社入社後の20代後半、野菜と果物の販売を担当していたころにさかのぼる。
 「今のこの季節、もしお客さんが物を1つしか買うお金がないとしたら何を売るべきか。これを徹底的に探るのが20代からのテーマ。売り場にゴンドラ1台しかなかったら何を売るか、2台に増えたら何を増やすか。最初から広い売り場があるという前提でスタートするから、売れない物まで並べてしまう。『何でもある』は『何にもない』に通じるのです」
 夕刊フジの紙面づくりに置き換えれば、もし1ページだけならどの記事を載せるか-という発想で考えよというわけだ。
 塙さんは東京都出身。青山学院大卒業後、67年にイトーヨーカ堂へ入社した。イトーヨーカドー労働組合中央執行委員長、女子バレーボール部総監督、営業本部長などを歴任し、96年から中国事業に着手。2007年、ファミリーレストラン「デニーズ」などを展開するセブン&アイフードシステムズ社長に就任し、今年、第一線から退いた。
 強豪女子バレー部の基礎を築いた総監督時代には、大きな気付きもあった。どんな仕事でも大切な「チームワーク」という言葉の意味は「責任分担を守り抜くこと」だと分かったことだ。
 「例えば野球なら、ライトに飛んだ球なら投手は捕れない。バレーの試合では『お前たちしかいないんだ』と激励するうち、各選手が自分の果たすべき責任を認識してくれた。チームワークは、ただ肩を組んで仲良くしているうちに形成されるものではない」
 部員3人から指導を始めたバレー部はその7年後、日本リーグで優勝を果たす。
 塙さんは今年7月、経営者に徳育の大切さを説く「徳育経営研究所」(東京)の理事長に就任した。「まずは全国各地で講演を開き、経験をいかしながら知育に偏らない徳育の大切さを訴えていきたい」と決意を新たにしている。(久保木善浩)

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