セブン「宅配ピザ」参入の衝撃 テスト販売から一気に拡大も納得の理由

コンビニ最大手のセブン-イレブンが、店内で焼いたピザを宅配するサービスに参入すると発表しました。今回はセブンが参入するピザ市場の状況や、セブンに先行してピザに力を入れている企業に注目し、今後の可能性について考えていきます。 【画像】セブンの焼き立て「780円」ピザと「880円」ピザ、大手ピザチェーンや大手スーパーのピザと比較(計5枚)  消費トレンドを追いかけ、小売り・サービス業のコンサルティングを30年以上にわたり続けているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。

限定店舗のテスト販売から一気に拡大へ 配達スピードが大きな売り

 「ピザ」と聞くと何だかワクワクするのは筆者だけでしょうか。ピザを食べるのは、みんなで集まってパーティーをしたり、スポーツ観戦をしたりと特別なシチュエーションが多いように感じます。  また、フードデリバリーで人気なのもピザの特徴です。WebマーケティングのSTSデジタルと日本唐揚協会が実施した調査では、利用したことのあるデリバリーサービスとして「宅配ピザ」が59%で1位という結果でした。  このピザに目を付けたのがセブンです。セブンは店内で焼いたピザを最短20分で自宅に届けるサービスを一部で始めています。7月に東京や神奈川の30店舗でテストし、好調だったことを受けて8月中に全国200店舗へ拡大すると発表しています。  なお、販売するのはマルゲリータ(780円)と照り焼きチキン(880円)のみ。注文が入ると冷凍ピザを店内のオーブンで焼いて届けるという流れで、持ち帰りも可能です。  セブンが開始した宅配ピザサービスにおける最大の売りは、注文から20分で届けるというタイムパフォーマンス(タイパ)の高さでしょう。アイテム数でいえば大手宅配ピザチェーンに大きく劣後します。つまり、単にピザだけを購入したい人にとっては大手宅配ピザチェーンを選ぶのが自然でしょう。しかし、こうした宅配ピザチェーンは基本的に、注文から30分程度が配達スピードの目安です。セブンはそれよりも10分速く、これは注文時のアドバンテージになります。  注文できる商品が「ピザだけではない」のもポイントです。宅配ピザチェーンでは、ピザとドリンク、サイドメニュー程度しか注文できませんが、セブンであれば、コンビニならではの3000アイテム以上の商品も一緒に配達してもらえるのです。単にピザだけでいえば、宅配ピザチェーンが10倍以上のアイテム数をそろえているものの、ピザ以外も含めるとセブンの品ぞろえは100倍以上ともいえ、圧倒的な利便性の差となります。  つまり、セブンは「宅配ピザ店」になりたいわけではなく、ピザをきっかけに、さまざまな商品を購入してもらいたいのです。つまり、いかに店内だけでなく店外での購入を増やすかが、宅配ピザ参入の狙いではないでしょうか。

タイパ志向のユーザーを狙った?

 現在セブンが特に注力している施策が「7NOW」という、店内商品をアプリで購入できる宅配サービスです。いわゆる「ラストワンマイル」に小売業各社が試行錯誤している中、セブンは7NOWによって、従来の店内売り上げ以外の収益源獲得を狙っているのです。7月時点で1万2000店舗で展開しており、2025年2月末までには全国2万店舗超への拡大を目指しています。  セブンの調査によると7NOWの利用者はタイパ志向の人が38%で最も高くなっています。近くにコンビニがあるのに、そこに行く時間すらもったいないと感じる消費者が増えているのです。今後もタイパ志向が高まることを想定すると、今のうちに顧客を囲い込んでおく必要があります。そのための起爆剤として考えたのがピザというパワーアイテムだったというわけです。  こうした状況を考慮すると、全国2万店舗でピザを販売するようになれば、ピザだけでも相当な売り上げアップにつながるのではないでしょうか。780円のピザが1日1枚ずつ売れるだけで、年間56億円の売り上げです。単価の高いピザは7NOWの起爆剤だけでなく、セブンにとっては新たな売り上げにつながる商品なのです。

ピザ市場は伸び盛り

 そもそもピザ市場は今、どうなっているのでしょうか。  ピザ協議会がまとめた「ピザマーケット推計値」によると、2022年度の市場規模は3278億円と、2年連続で3000億円を超え、過去最高の売り上げでした。コロナ禍による巣ごもり需要や2021年の東京オリンピックなどのスポーツイベントが追い風となり、売り上げが伸びた面も多々あるでしょう。こうした事情を考慮しても、ピザ市場は伸び盛りの市場といえます。  ピザ宅配チェーン店の店舗数はどうなっているのでしょうか。  ピザ宅配専門チェーンの店舗数トップ10は2極化しています。大手チェーンが店舗数を伸ばす中、地方に拠点を置くローカルチェーンは店舗数を伸ばしきれずにいるのです。最大手のドミノ・ピザは2033年までに店舗数を2000店舗にすると発表しており、また福岡の食品を中心とした総合流通業のヤマエグループホールディングスが日本ピザハット・コーポレーションを2022年にグループ化したことで、出店を加速させている例もあります。大手がさらに出店を増やし、M&Aも加速するなど、ピザ宅配チェーン企業も変化が起き始めているのです。

ピザは粗利率が高い商品

 セブンがピザ宅配に参入し、大手ピザ宅配チェーンが店舗を増やすなど、ピザ市場はこれからも拡大が見込めます。これだけ市場が盛り上がる背景には、ピザがもうかる商品ということがあるでしょう。ピザーラのフランチャイズ向けモデル数値を参考に、収益構造を見てみます。  これによると、20坪の店を出せば月間700万円ほどの売り上げになるシミュレーションです。立地にもよるため、必ずしも数値通りにはいかないでしょうが、このシミュレーションでは1店舗につき、年間8400万円の売り上げ創出が可能です。粗利率は65.7%と、飲食の中でも比較的安定した粗利が確保できる業態であり、年間の経常利益は540万円を狙える構造です。この辺りも、セブンがピザを始めた理由の一つでしょう。  実はセブンだけでなく、食品スーパーでもピザを切り札として強化し始めています。ただし、焼きたてピザで勝負するにはそれなりの設備と手間がかかることから、注力しているチェーンも全店で導入しているわけではありません。実際に都内の店舗をまわった際には、大手スーパー10店舗中、全てのスーパーで冷凍ピザを品ぞろえしていたものの、店内で焼きたてピザを陳列していたのは2店舗のみでした。  しかし、販売していたスーパーではピザが人気で、焼きたての時間を狙って購入していく人が何人もいたほどです。比較のためにスーパーの焼きたてピザとピザーラを食べ比べましたが、スーパーのピザはピザーラにひけをとらないほどの味で驚きました。  なお、セブンも比較的繁盛している店を中心に5店舗ほどまわりましたが、まだ焼きたてピザを導入しているのは1店舗もなく、ある店舗のオーナーに話を聞くと「まだテスト中でどこで販売しているかも私たちには知らされていないんです」とのこと。  このように、焼きたてピザは今や宅配ピザチェーンだけでなく、ベーカリーやスーパー、コンビニなどの店頭にも並び始めており、その味やこだわりも各社各様です。イタリアでピザらしきものが生まれたとされるのが16世紀、それが日本で広がり始めたのは1960年代といわれています。つまり、ピザは日本ではまだ60年ほどの歴史しかなく、これから日本でどのような商品へと進化していくのか。セブンの取り組みを中心に注目です。 (岩崎 剛幸)

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