そりゃそうなるわな、と感じた人も多いのではないだろうか。
先週、セブン-イレブンが2019年下期以降、1000店舗を閉店・移転すると発表したことについてだ。
加盟店へのロイヤルティー率を引き下げたことで100億円ほど利益が減るところを、本部人員の削減や不採算店閉鎖のペースを加速するなどで乗り切ろうとしている――というのがセブン側の説明だが、24時間営業問題やセブンペイ騒動の対応などの迷走ぶりから、こちらに関しても「へえ、そうなんだ」と素直に受け取れない方もかなりいらっしゃることだろう。
では、この「不採算店閉鎖を加速」はホントのところ何を意味しているのか。ネットやSNSの反応を見ていると、「コンビニ市場が飽和状態で間引いているのでは」という声が多い。確かに、そう思わせるような材料は山ほどある。
例えば、セブンが4月に発表した19年度の出店計画は、新規出店900店に対し、閉店750店で純増150店。では、18年度はどうだったかというと、出店数1389店、閉店数773店で純増616。つまり、この1年で460以上も純増店数を減らしているわけだ。
この出店計画を明らかにしたとき、当時の井阪隆一社長は「コンビニは飽和状態にない。まだまだ十分に成長できる余地がある」と述べたが、ここまでガクンと店舗を減らしてはさすがに説得力に乏しい。そこへさらにダメ押ししたのが、今回の「1000店舗閉店・移転」である。「やっぱコンビニ多すぎるもんな」という声が上がるのは極めて自然の流れなのだ。
ただ、個人的には今回、セブンが「不採算店閉鎖を加速」へとかじを切ったことは、単純にコンビニが多い、少ないという話よりも遥かに大きな意味があると感じている。セブンがビジネスモデルの根幹としてきた「ドミナント戦略」がいよいよ限界に差しかかってきたことを、これ以上ないほど分かりやすく示しているからだ。
●不幸な人たちを量産
ご存じのように、セブンをはじめとする日本のコンビニは「え? こんな近くにまたセブンできんの?」という感じで、同一商圏内をさながら陣取りゲームのように自社コンビニで塗りつぶす「ドミナント戦略」で成長を遂げてきた。
商圏内のシェアを獲得すれば、加盟店全体の売り上げもあがるのでオーナーはハッピー、高校生バイトやフリーターも徒歩圏内で働けるので従業員的にもハッピー、店舗が集中しているので物流も効率的にまわすことができるのでFC本部もハッピー、そして何よりも、24時間いつでもなんでも買えることで我々客側もハッピーということで、社会になくてはならないインフラとして定着したのである。
が、このビジネスモデルが高度経済成長期につくられたことからも分かるように、これらのハッピーはすべて「人口が増え続ける」ことが前提となっている。ひとたび社会が人口減少へ転じれば当然、ガラガラと音を立てて壊れて、不幸な人たちを量産していくのだ。
まず、客が減るので競合だけではなくセブン同士で壮絶なカニバリが始まる。労働人口が減れば、低賃金・重労働バイトから敬遠されていくのでバイトの確保も難しくなる。コンビニ経営でウハウハです、という営業トークで私財を投じたオーナーが、自ら不眠不休でコンビニに立ち続けるという地獄の日々が始まる。
一方で、ロイヤルティービジネスをするFC本部としてはどうにか売り上げを維持させるために、カフェだ、イートインだ、と商品やサービスを充実させていく。結果、20年前はレジ打ちと棚卸しがメインだったコンビニバイトの仕事量が爆発的に増えて、最低賃金スレスレにもかかわらず1人何役も立ち回らなくてはいけない。つまり、典型的なブラックバイトになっていくのだ。
このあたりは、24時間営業問題のときにさんざん報じられたので今さら説明の必要はないだろうが、数字にも顕著に現れてきている。
セブン&アイ・ホールディングスの20年2月期第一四半期決算説明資料(7月14日)の「既存店売上・客数前年比推移」を見ると、客数は直近24カ月のうちなんと20カ月が前年割れしている。
どんなに高付加価値だなんだとふれ回ったところで、客の減った小売はじわじわとダメージを負う。コンビニ3社の中でも、19年3~8月期の既存店売上高はローソンが前年同期比0.4%増、ファミリーマートは同0.9%増でプラスに踏ん張っているところ、セブンのみは同0.6%減。7月のチェーン全店売上高は前年同月比1.2%減と9年4カ月ぶりに前年を下回っている。
●新しい時代のドミナント戦略
経産省が19年3月に公表した、全国1万1307人のコンビニオーナーから回答を得た「コンビニ調査2018」によれば、「従業員が不足している」と回答したのは61%で4年前の22%から激増している。このような慢性的な労働力不足が進行する世界で、既存店の客数も減り、売り上げも減っていけば、「商圏内にどんどん出店するぞ」なんてことが言ってられるわけがない。むしろ、生き残るためには、人口減少のペースに合わせて店舗の統廃合を進めていくしかないのだ。
つまり、セブンの「不採算店閉鎖を加速」は、カリスマ・鈴木敏文氏の時代から後生大事に守ってきた、ドミナント戦略がいよいよたちゆかなくなってギブアップしているようにも見えてしまうのである。
なんてことをうっかり口走ると、「コンビニの近くて便利という役目、社会インフラとしてまだまだ大きな可能性がある! 縮むとか減るとか景気の悪いことを言うな!」と怒りをあらわにする経済評論家のセンセイ方もいらっしゃるかもしれない。
事実、セブン再生のかじ取りをされている永松文彦社長も歴代社長の方針を踏襲しているのか、「店舗当たりの商圏が小さくなっており数は必要。需要次第で店は増える」(毎日新聞 2019年7月2日)と、”新しい時代のドミナント戦略”を考えていらっしゃるようだ。
もちろん、利用者の立場になれば、セブンが増えるのはありがたいので応援はしたい。が、歴史を振りかえれば、永松社長のように「商圏」にこだわって、ドミナント戦略に固執し続けると、往々にして残念な結果になることが多いのもまた事実なのだ。
代表例が、「小僧寿し」である。
●セブンも同じ道をたどる可能性
実は今でこそ「懐かし~、最近あんま見ないね」なんてことを言われる小僧寿しだが、実はかつては外食業界のセブンのような存在だった。
1972年に設立後、高度経済成長の波に乗って拡大路線をひた走り、79年には売上高531億円をあげ外食産業日本一の規模に輝くと、87年には、なんと全国で2300店舗を展開した。
ライバルの京樽でさえ現在332店舗、回転寿司業界店舗数1位のスシローでさえ全国で531店舗というスケール感から、これがセブンのコンビニ2万店と肩を並べる「全国制覇」だということがご理解いただけるだろう。
だが、そんな栄華を誇った小僧寿しも近年は、不採算店の閉鎖が進行して、現在は「直営店96店 FC125店」(同社Webサイト)あたりに落ち着いている。では、なぜここまで「縮小」したのか。もちろん、競合の台頭、回転寿司市場の活況など、いろいろな要素はあるのだが、一つには経営陣が、「ドミナント戦略」に固執したことがある。
小僧寿しの創業者、山木益次氏が2004年に出版した『強さと弱さ 小僧寿しチェーンの秘密』(ストーク)によれば、91年、小僧寿しの利用客の33%は、徒歩や自転車で3分以内から来店していた。しかし、03年になるとこの層が72%に増加。その半面、自動車で5分以上かけてくる利用客も激減していた。
つまり、「商圏」が縮小していたというのだ。
商圏が小さくなって近場の客は増えているにもかかわらず、売り上げにあらわれていないということは、もっと集中的に出店していく必要がある――。こうして、先の永松社長と同じような結論に至った、山木氏は、セブンをお手本として、ドミナント戦略へと突き進んでいくのである。
で、その結果が「今」である。ということは、不採算店閉鎖を進めながらまだなおドミナント戦略に色気を見せているセブンも同じ道をたどる可能性が高いということだ。
●組織やビジネスモデルの危機
今のようにセブンに大逆風が吹くちょっと前の昨年秋、近隣住民から「変態セブン」なんて陰口を叩かれるほど、客にハレンチな言動を繰り返すセブンオーナーが問題になったことがある。その際、筆者は『“変態セブン”が生まれた背景に、地獄のドミナント戦略』という記事を書いた。
実は変態セブンの店は、近隣にローソンやファミマという競合だけではなく、セブンまでもが続々と出店してきて、急速に事業環境が苦しいものになっていた。だからといってハレンチな言動が許されるわけがないが、このオーナーが正気を失ったのは、ドミナント戦略によって心身が追いつめられた可能性もあるのではないか、と指摘させていただいたのである。
もちろん、コンビニ業界の専門家センセイたちからは大ブーイングで、「バカなオーナー個人犯罪をセブン本部のせいにするな!」とか「セブンの高品質、高サービスを維持するためには、そんな簡単にドミナント戦略から撤退できるわけないだろ、この素人め!」と散々な叩かれようだったが、これからほどなくして大騒ぎになった24時間営業問題でも、多くのオーナーがドミナント戦略で、周囲にセブンが増えて追いつめられている、と口々に訴えているのはご存じのとおりだ。
そんな中でドミナントについて、もうひとつ以下のように指摘させていただいた。
「組織やビジネスモデルの危機は、現場の壊れっぷりから分かるものなのだ」
筆者は報道対策アドバイザーという仕事柄、「問題企業」を間近で見る機会が多くあるのだが、そこで気付いたのは、クライシスが発生する企業というのは往々にして、現場にまずその前兆があらわれるということだ。例えば、現場からメディアや監督官庁に内部告発がバンバン寄せられるなんて企業は、遅かれ早かれ日産のように経営者のクビが飛ぶような事態になるものなのだ。
この法則に残念ながらセブンも当てはまってしまっている、ということで先ほどのような指摘となったのである。
事実、「変態セブン」だけではなく近年のセブンの現場は、正気を失っているとしか思えぬ不祥事が多発している。例えば、オーナーの息子が、「おにぎり、あたためますか」と尋ねた客が「うん」と回答しただけでいきなりキレて説教を始めるなんてこともあった。また、遅刻した者に1分100円、欠勤した者には1万円の罰金を課す、という半グレ臭の漂うマネジメントをする店舗も注目を集めた。そこに加えて、24時間営業問題、セブンペイ、などなど現場発のトラブルが続発している。
●ドミナント戦略からスパッと手を切って
以上のことを踏まえると、セブン-イレブンという組織やビジネスモデルを根底から崩壊させるような「危機」がすぐ側まで近付いているとしか、筆者には思えないのだ。これを回避するには、その場しのぎの対症療法ではなく、現場を疲弊させている根本的な原因に手を突っ込むしかない。そう、ドミナント戦略である。
30年前の人口増社会の中で確立された「店の数を増やせば増やすほど売り上げが上がる」というドミナント戦略が、人口減少社会で一気にマイナス方向へ働いてしまっているのは明らかだ。
これは例えるなら、下りエスカレーターに乗っているにもかかわらず、その動きに逆らって必死に上の階に駆け上がっているような状態である。「やれ」と言うほうはラクだが、実際にやらされる側からすれば、終わりのない拷問のようなものだ。
窮鼠猫をかむではないが、組織に追いつめられた人間は、組織が想定していないようなすさまじい反撃をするものだ。
取り返しのつかない「危機」が起きてしまうその前に、永松社長にはぜひドミナント戦略からスパッと手を切って、人口減少社会に見合う、適切なコンビニ数へと統廃合を進めていただきたい。