昨年、セルフ式入れたてコーヒーが大ヒットしたセブン-イレブン・ジャパンが次に狙いを定めたのが、ドーナツだった。コーヒーのお供に「セブンカフェドーナツ」を販売する。入れたてコーヒーは100円(レギュラーサイズ)というワンコインで購入できる値段が受けて1日1店あたり120杯売れる看板商品となった。2015年度は年間6億杯を売り上げる勢いだ。コーヒーと相性の良い商品としてドーナツを開発、こちらも年間6億個売る計画としている。
セブンは今年10月末からミスタードーナツの発祥地、関西で先行販売を開始したが、1日1000個売る店舗も出るなど好調。ドーナツを並べた店ではコーヒーの販売も1日平均20杯ほど伸びており、手応えは十分。この好調を受け、15年8月末までに全国1万7000店にドーナツ販売を広げる。
6種類の価格は100~130円(税込、以下同)。販売目標は17年度に6億個で、金額に換算すると600億円だ。ミスドは多種類のドーナツを売っているが、主流は140円以上する。セブンのドーナツはミスドの商品に形も大きさもよく似ており、価格競争力はありそうだ。
清掃大手ダスキンが運営するミスドは、全国に1350店(3月末時点)を展開しているが、コンビニの「レジ横ドーナツ」が本格化すれば影響は避けられない。セブンのドーナツ製造は全国24カ所あるセブン専門パン工場が担当し、製造から3時間以内に各店舗に配送する。温度や湿度を保つ機器をコーヒーマシンの横に置き、温かい状態で販売する。
ライバル各社も黙っていない。ローソンやファミマもドーナツの試験販売を始めており、コンビニでドーナツ戦争が勃発する。先鞭をつけたのはサークルKサンクスだといわれているが、人気が出ず、すぐに中止された。
セブンの新たな取り組みは、各市場に大きな影響を与えている。例えばコンビニコーヒーの好調で、ハンバーガーチェーン日本マクドナルドホールディングスの業績が失速したほか、缶コーヒーメーカーが大打撃を受けた。今回のドーナツ販売の影響をもろに受けるのが、ミスドやクリスピー・クリーム・ドーナツといったドーナツ専門チェーン店だろう。
●昭和産業の株価急伸
セブンのドーナツ販売本格開始の報道を受け、天ぷら粉などで知られる昭和産業の株価が急伸した。11月20日には過去10年間で最高値の497円をつけた。ドーナツはセブン専門のパン工場で生産されるとの報道に、株式市場が敏感に反応したのだ。
昭和産業は05年、千葉県印西市の松崎工業団地に子会社スウィングベーカリーを設立。セブン向けのオリジナル菓子パン、惣菜パン、ドーナツ類を供給する生産拠点とした。さらにセブンの持ち株会社であるセブン&アイ・ホールディングスがイトーヨーカ堂など傘下のスーパーで13年4月に発売した「セブンゴールド 金の食パン」の開発にも携わった。「金の食パン」は1斤250円と、100円強の製パン大手の普及品に比べて約2倍の価格ながら爆発的に売れる大ヒット商品となった。
セブン&アイは、味にこだわった食パンの開発に取り組んだ。大手を含む製粉3社、製パン4社から提案をもらい、小麦粉は昭和産業から調達した。同社が提案したのがカナダ産の小麦粉。国産小麦粉などと比べて、パンにするとしっとりして甘みが強い。パンは中堅製パンの武蔵野フーズ(埼玉県朝霞市)で生産した。セブン&アイの社内には「250円の食パンが売れるのか」との疑問があったが、「金の食パン」はスタートから爆発的にヒット。その波及効果で、コンビニのセブンでも売れるようになった。昭和産業は「金の食パン」で実績があるため、「セブンカフェドーナツ」への期待から株が買われたのである。
●伊藤忠商事の微妙な立ち位置
昭和産業の15年3月期の連結決算の売上高は前期比1.5%増の2500億円、営業利益は5.3%増の90億円と増収増益の見込み。製粉と油脂が2本柱で、製粉はコンビニ等のパン向けの粉が好調だ。筆頭株主は伊藤忠商事で、発行済み株式の7.7%を保有する。小麦粉の輸入を受け持つ伊藤忠は、昭和産業と製粉ビジネスで共同歩調をとる。
昭和産業は12年、ベトナムのパンやフライ用のプレミックス(調整粉)大手、インターミックス(ホーチミン市)に出資した。現地製粉大手ダイフォン製粉と日系企業が03年に設立したが、11年に合弁を解消していた。インターミックス社の株式30%を約1億円で取得、伊藤忠商事も5%出資した。ベトナムは旧フランス領だったこともあり、パンなど小麦粉の食文化が根付いている。国内市場が縮む中で、人口が増えている成長市場のべトナムに進出した。
伊藤忠はコンビニ業界3位・ファミリーマートの親会社で、同社株式の31.9%を保有し、社長も送り込んでいる。セブンの「セブンカフェドーナツ」を製造するのは、昭和産業の子会社の工場だといわれており、今後の伊藤忠の動きに注目が集まりそうだ。
(文=編集部)