セブン、苦戦報道で「不親切なレジ」批判沸騰の訳

減益報道のあと、その「商品」に対する批判の声が強まっているセブン-イレブン。一方で、「不親切なレジ」を嘆く消費者も少なくない。一体なぜなのか?(筆者撮影)

セブン-イレブンの苦戦が話題になっている。2024年8月中間決算を見ると、ローソン・ファミマが前年同期比で増益しているのに対し、セブンだけが減益しているのだ。

この報道と共に出てきたのが「セブンの商品への不満」。「このお弁当、上げ底なんじゃないの?」とか「このおにぎり、中が空洞じゃない? どんな技術力なの?」といった声が噴出、「ステルス値上げでは?」という批判がSNSで巻き起こった。

実態は北米事業の不振、だが不満噴出は軽視できない

しかし、今回の苦戦は北米事業の不振が大きな影響で、印象論でセブンを批判する人が続出した形である。実際、ローソンやファミリーマートと比べても、セブンは未だ業界のトップの売上高を誇っている。

ただ、こうした批判を「ただの誤解」と片付けるのは早い。そこで出た人々の不満から、さまざまなことが読み取れるからだ。

私はこうしたセブン減益とそれに対する人々の受け止めについて記事(セブンの「上げ底弁当?」が今また”猛烈批判”の訳 値上げによる客離れを恐れ、ファン離れが発生か)を執筆したが、それへの反応として、また異なるセブンへの意見を目にした。接客やレジに対する辛辣な意見だ。

これらも、直接減益につながったとは言い難いが、多くの人が感じていることなのだろう。今回はその点について、「顧客体験」という観点から考察してみたい。

【画像10枚】「高齢者が手間取って長蛇の列」「温かみがない」との声も…。セブンイレブンの不親切な(?)”半有人”レジはこんな感じ

セブンのレジに不満が出ているのは、そのシステムにある。

それはいわば「半有人レジ」で、商品をレジに持っていくと、バーコードのスキャンまで店員さんがやってくれる。そして、その後の会計は客自身がレジの前の機械で行う。客は、支払い方法を「現金」「バーコード決済」「クレジット」などから選ぶ必要がある。


「不親切」と言われることが多い、セブンのレジ。セルフレジではないのだが、こういう画面が出てきて、客自身が支払い方法を選ぶ場面が発生する(筆者撮影)

私もセブンをよく利用するのだが、この方法が導入されたときには、支払い方法を選択する画面で迷ってしまって、あたふたしてしまうことも多かった。それで手こずっていると、後ろのほうに列ができていて、焦る……なんてときも。

また、いつもの癖で「支払いは交通系ICで」と店員さんに言ってしまうことも多いのだが、そうすると、結局、店員さんが支払い方法を選択してくれて、私はいつも通りSuicaをピッとするだけ……なんてこともあって「一瞬、セルフレジっぽくなる意味、とは……?」となることもあった。


有人レジでもなく、完全セルフレジでもないため、消費者としてはなんとも中途半端に感じてしまうところだ(筆者撮影)

とはいえこの方式、考えようによっては、商品をスキャンするという、セルフレジで最もめんどくさい部分を店員がやり、逆に比較的簡単にできる支払いをセルフにしたレジでもある。

いわば、有人レジとセルフレジの「いいとこ取り」なのだ。支払いをしているときに店員がホットスナックを取りに行けたりもするし、店側から見れば合理的なシステムでもあるだろう。

ただ、このシステムへの人々の受け止めを見ていると、あまり評判がよろしくない。それどころか、セブン減益の理由をこれに紐づけて語る人もいるぐらいなのだ。

高齢者が多いと、逆に長蛇の列を生む原因に?

例えば、X上では、こんなつぶやきが少なくない数確認できる。

「セブンのレジに慣れていない人が操作に手間取って長蛇の列……」

「レジがわからず、店員さんにキレてるおじいちゃんがいた」

機械操作が苦手な高齢者などが有人レジだと思ってそこへ行ったのに、結局うまく操作できずに戸惑ってしまう……なんてこともあるだろう。その結果、後ろには行列が生まれてしまって、背後からの無言の視線を感じあたふたする。あたふたするとさらに操作ができなくなってしまう。そんな悪循環を経験したり、見た人もいるのではないか。

DX化の進展に伴い、至る所でセルフレジが増えてきた。しかし、それぞれの売り場の現場を見ていると、特に高齢者を中心として、セルフレジを使いこなすのは難しいようである。

他店の例になるが、実際に私がフィールドワークをした話で説明しよう。とあるイトーヨーカドーでのことだ。イトーヨーカドーはDX化に力を入れていて、近年リニューアルした店舗ではセルフレジをたくさん導入し、有人レジのスペースを減らしている。


某イトーヨーカドーの店内。セルフレジが目立つ(筆者撮影)

しかし、その結果、何が起こったか。セルフレジを敬遠した高齢者の多くが有人レジに並び、そちらが大行列になっていたのだ。

筆者がフィールドワークした際は、有人レジは数も少ないからすぐに列ができてしまい、長蛇の列が店の売り場まで伸びて、売り場の快適さまでもが失われた印象だった。

時代に追いつけない高齢者は無視…ではいけない

こういった話になると、「時代に追いつけない高齢者のほうが悪い」「でも、いずれ慣れないといけないでしょ?」といった(過激な)意見を目にすることもある。しかし、ビジネス的な観点で考えると、客離れは望ましいことではないし、袋詰めまでしてくれる別の店に行くようになるだけだろう。

そもそも、レジは顧客体験に大きく影響する。良品計画代表取締役社長や、同社代表取締役会長などを務めた松井忠三は、自著『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』(角川書店・2013年)の中で仕組みづくりの重要性を説いているが、本書の中で最初に登場する図表が、レジ応対に関するものだ。

(1)レジ応対とは?
■(何)お客様が購入される商品の代金をいただき、商品をお渡しするお客様対応です。
■(なぜ)レジは店舗業務の20%を占める重要な仕事なため。
■(いつ)随時
■(誰が)全スタッフ
※多い店では1日に先人のお客様がレジを通過されていきます
※「買ってよかった」「良いお店だな」そう思っていただけるチャンスが多い場面でもあります。

チェーンストア研究家としては「とは言え、無印良品のレジもセルフレジが現金専用のところもあるし、不便に感じてる人も少なくないよね?」と言いたくなるが、それはさておき、無印良品がレジ応対を重視してきたこと、消費者の店に対する印象を大きく左右するものだと理解していることがよくわかる。

話をセブンのレジに戻そう。前述したような、現実的な不便も生じている一方で、もう一つ「レジへの不満」で重要だと思うのは、「接客の温かみがない」という意見だ。前述した筆者の記事についたコメントの中に、こんなものがあった。

「セブンの会計方式は、商品のバーコードスキャンまでしてくれるんだけど、その後の対応が中途半端に思える。ここまでやったんだからあとは客に任せるよ、と感じてしまうので印象が下がる。この方式がわからない人にとっては塩対応された、と思うよな」

なるほど、最初から最後まで自分でやるセルフレジより、半有人レジのほうが「途中までやってくれたのにあとは放置されている……」と感じる人が多いかもしれない。


「決済方法を伝えなくて済む」と便利に感じる人がいる一方で、逆に「ここからは自分でどうぞ」と言われているように感じてしまう消費者もいるようだ(筆者撮影)

実際、こうした意見が出てくると、働き方改革が進む昨今「コンビニで働く人にまで温かみを求めてもねえ……」と思うが(筆者はどちらかと言うとこちらの立場である)、とは言え、どこか心の底で「一抹の寂しさ」を覚えるのも人間の性かもしれない。

とくに、セブン-イレブンは日本ではじめての本格的なフランチャイズチェーンであり(単体の店舗としては、1969年に大阪府豊中市に開店した「マミー豊中店」と言われている)、その歴史も長い。これまでのセブンのやり方に愛着を持っている顧客もいることだろう。だからこそ、レジでの会計時に不満を覚えると、落胆も大きくなってしまう――そんな背景もあるかもしれない。

ディストピア容器に「温かみ」を求める私たち

セルフレジに対する「温かみがない」という批判を見ていると、思い出すことがある。

すき家で話題になった「ディストピア容器」の件だ。

これは、牛丼チェーン大手の「すき家」で行われている取り組みで、牛丼を提供する皿を店内飲食でもプラスチックや紙の容器で提供するものである。


すべてがプラスチック容器、紙容器で提供されるすき家(筆者撮影)

こうした容器の返却口は「ゴミ箱」で、この事例に対してネット上ではこんな意見があった。

「店内でもすべてプラ容器の提供になっている店舗ははじめてでした。洗い物がなくなり合理的なのかもしれませんが、ひどい扱いだなと思いました。食事における器の重要さを否応なく意識させられます」

「餌を出された気分です。紙の食器で食べるご飯がちっとも美味しく感じられません。すき家、テーブルがある牛丼屋で素敵だと思っていたのに。もう使いません」

セルフレジと同様、「接客の温かみがない」と語る声が多く見られたのである。

ディストピア容器については、それが店側の業務を軽減し、ひいては「働き方改革」につながることから、非常に意義のある取り組みなのは間違いない。

しかし、日本に牛丼屋をはじめとするチェーンストア・ファーストフードが根付いてから50年ほどが経過し、そこは「ただモノを食べる空間」ではなく、「愛着を持った場所」になってきた。


チェーンストアに温かみを覚える人も少なくないはずだ(筆者撮影)

人文地理学者のイーフー・トゥアンは、ある場所を捉えるとき、数字上のデータだけを見るのではなく、そこにまつわる人々の「情感」や「愛着」までをも捉えなければならない、という。まさに経営でも同じことが言えるだろう。(イーフー・トゥアン「空間の経験」/1993年・ちくま学芸文庫)

ある場所を人が使うのは、合理的な理由だけで片付けられるものではない。つまり「自動化」だけでは解決できない、もっと情緒的なものも絡んでくる(まさに「人の手」だ)。それを踏まえた施策が求められているのではないか。ディストピア容器の件はこれを端的に表している。そして、それはセブンの半有人レジでも同じだ。

ファンの心を繋ぎ止めつつ、合理化を進められるか?

冒頭で示した通り、セブン苦境の原因は北米事業の躓きにあり、こうしたレジの問題は直接の原因ではない。しかし、重要なのは、そこに使いにくさや「人の温かみがない」と感じる人々がいること。

ただ、現在はDX化への変化の途中で日本全体の人口も減少している。過剰なサービスをし続けることは難しくなるし、一歩間違えばそんな要求は「カスハラ」案件にさえなりかねない。「温かみを」といったところで、物理的にそれが不可能になる時代が到来するかもしれない。それに、高齢者も徐々にセルフレジの方式に慣れていくのは間違いない。

そんな中、企業として、どのように「合理化」と「人の手」のバランスを取っていくのかが問われているのだろう。

逆に、今回のセブンのレジに対する反応をみていると、その「合理化」と「人の手」のバランスを取るのに失敗してしまったのかも?とも思えてくるのだ。

ちなみにセルフレジはこんな感じ


なお、こちらはセブンのセルフレジ。レジ袋を購入するか最初に選ぶ(編集部撮影)


次に、自分でバーコードをスキャンする。有人レジだと、この作業は発生しない(編集部撮影)


セルフレジでもこの画面は登場。とはいえ、有人レジでも店員さんに押してもらっている人も多いのではないか(編集部撮影)

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)

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